第4.8話 牡蠣の殻

王弟殿下が文化省に、王子殿下が観光庁(文化省内局)にいらっしゃる。

我々の言葉は王族の言葉である。

―文化省官僚


海軍としては内局の意見に賛成である。

―海軍上官


陸軍も内局の意見に賛成である。海軍と同じ意見なのは遺憾だが。

―陸軍上官


―――

朝焼けの光と共に桟橋へ到着。

工作員が手配していてくれた漁船に隠れてお着換え中。

もちろん私は別の部屋で着替えましたよ。

いくら戦場でも乙女の恥じらいは大事です。

……とは言っても、可愛げのない戦闘服に着替えただけなんですけどね。

もう少しふわっとしてれば可愛いのに。ぴっちりし過ぎてて不満です。

しかもその上に防弾チョッキだし。可愛くない!

狙撃用の迷彩服ギリースーツはもふもふしてて可愛いのに……。


「お嬢~。準備出来たっスか~?」

ちょっと待ってね。

弾倉がこっちのポケットで、予備弾がこのポケット。そして銃が後ろで……。


「お待たせしました」

ぐるっと見回して問題なし。

……問題なし?うん。問題なしっ。

「……なんで皆、牡蠣食べてるんです?」

うん。皆着替え終わってるのは良く分かるんだ。

装備品もキチンと準備出来てるように見えるし。

……でも何で牡蠣食べてるの?


「くーっ。やっぱ牡蠣は獲れたてっスよね」

メルケルスさん、こっそり殻を隠したの見えましたからね。

「お嬢も食います?」

え、うん。とりあえず一つもらおうかな?

……あれ。何しに来たんだっけ。




<<大隊長フェニックス01より各局。聞こえてるわね?通信制限解除よ>>

はっ!?

ついついうっかり牡蠣に熱中してた!?

<<良いニュースと悪いニュースが有るわ。子猫ちゃん、どっちから聞きたいかしら?>>

子猫ちゃんはやめて下さいよ。大隊長ってば……。


<<偵察班ワイルドキャットよりフェニックス01。良いニュースからお願いします>>

コードネームまで猫になっちゃったし。

航空部隊じゃないから空の生き物はダメだけど、せめてワンコかキツネ、狼が良かったなぁ……。


<<じゃあ良いニュースからいくわね。一つ目、中隊規模の歩兵部隊を借りれたわ。二つ目、喜びなさい。誘導砲撃任務も威力偵察任務も無くなったわ>>

うわぁ。とっても良いニュース過ぎるじゃないですか!?

それじゃあ、私たちはまた泳いで帰ればいいんですよねっ。

<<はい、早まらない。悪いニュースを言うわよ>>

あーあーあー。聞こえません。

急に無線の……じゃなかった、魔導通信の感度が悪くなりましたー。

<<感明度良好なのは分かってるわ。任務は現地制圧に変更、設備・施設の保全の為に重砲、艦砲は使用不可になったわ。恨み言なら文化省と観光庁に言いなさい>>


文化省と観光庁……。あぁ、うん。

そりゃ水路の綺麗な文化都市エスダールを壊して良いはずがないもんね……。

……って、納得できるかー!!

アカ共が集ってるってのに、そんな手加減できるはずないでしょ!

<<大隊長!?どういうことですか!?>>


<<マデリーネとビルギットは通常任務に戻る命令が出ているはずよ。サーペントも機材整備に戻りなさい>>

<<こちらマドリーネコントロール。詳細は聞いているが……まぁ、頑張れ>>

<<同じくビルギットコントロールだ。近くに来たときは寄れ。最高にウマいカレーを食わせてやる。って事で無理すんなよ>>

<<いやぁ、徹甲弾の調子が悪くてねぇ。すまんな嬢ちゃん>>

何、そのかる~い流れで去っていく的な感じ!

ちゃんと仕事しようよっ!

<<って事で子猫ちゃん達は浸透偵察をお願いね。破壊工作はしなくても良いけど、どこか良い場所見つけて援護狙撃でもしてなさいな>>

これまた軽く言われちゃったけど、浸透偵察なんて潜入工作員の仕事じゃなかったっけ!?

それに、良い場所見つけて狙撃。って言われてもそんな良い場所すぐに見つかるはずないじゃん!

<<ったく……あったまにクルわね。あの書類屋のクソジジイ共……。あら、まだ通信きれて……>>

お、おう……。

上の方も色々あるのね……。




「え、えーっと……」

さてどうしよう。

状況を整理しましょう。

政治的理由絵空事で頼りになる重砲類が全滅。そして、私達偵察部隊はそのまま敵地に突っ込め。

うん。あんまり状況変わってないや!

え?悪くなってるって?知らない知らない!もう知らないっ!

……でもさ、今回は偵察と誘導砲撃しか考えてなかったから……皆は近距離武器と弾しか持ってきてないんだよね。

私は25mm砲と30口径、後は拳銃しか持ってきてない訳です。

「私達の拠点を確保しないとジリ貧ですが、皆さんいけますか?」


「特訓の成果を見せる時です!」

「モチのロンっスよ」

「お前らは後ろを着いてこい。まだまだ潜入は任せられん」

なんとまぁ、心強過ぎるお言葉で。

えっとね君たち。問題は制圧する戦力なんだけどね?

……まぁ、私は狙撃ポジションさえ確保出来れば頑張るけどさ。


「私はこの場所では、何も出来ません。射線を確保するまでは皆さんにお任せします」

問題はその射撃ポジションが確保出来ていない事ですよね。

うん。知ってる。確保出来ないんだったら確保すればいいんだよね。

「と、言うことで目標は時計塔です。出来るだけ隠密行動で静かに、見つからずに行動してください」

作戦前に見た地図だと、中心部に一番背の高い時計塔が有ったはず。

皆(主に私が)忘れかけてるけど、ここって敵拠点下だしね。

見つからずに穏便に。といかないと。


「聞いたな。小隊長御嬢が言った通り、拠点時計塔の隠密制圧が目標だ。発砲は厳禁、見付かる前に殺せ。以上」

さっすがメルケルスさん。ビシっと決める!

でもね、なんか変な呼名ルビが聞こえたのは気のせいかな。

あ、ほら。なんで目をそらすのっ!

「行動開始っ。行くぞ」

あ、こら。……逃げられた。


「って事で行くっスよ。お嬢」

ノイマンさん。お前もか……。って元からか。


中尉お嬢、先に行きますっ!」

ランデル君、君までか……。

「目に付く歩哨は排除しますが、俺達が気付かないところはお願いしますっ」

君達は上官(一応)を何だと思ってるんだ。

……まぁ、良いか。ほら、行きなさい。

私が後ろから鉛玉ぶち込んであげるから。

まだ一度も試してないけど……ヘッグ准尉の消音器サイレンサー、期待しちゃうからね。

今は私の手には使い慣れた30口径が有るんだもの。初戦よりは色々ヤっちゃうから。

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