第4.5話 鉄の鯨
潜水艦乗りとして目標が明示されない任務は日常茶飯事だ
―航海長の談
我が艦はいくつかの魚雷と多数の魔導士を雷撃する事を任務とする。
故に、我々の主な職務は『兵装』の維持管理である。
その名目の基に給養員は腕利きを集めている。
諸君、航海を楽しもう。
―進水時の潜水艦隊指揮官訓話
―――
どうしてこうなった。
「お嬢、準備できたみたいっスよ」
どうして、こうなった。
「最後に入るときは与圧弁閉めなきゃダメっスからね。忘れちゃダメっスよ」
えぇ。聞いてました。
海軍さんとの合同作戦だ。とは聞いてました。
……確かに、確かに海軍さんだからご飯は美味しかったです。
でも……でもね、なんで……なんで潜水艦から上陸作戦なの!?
―――かれこれ数十分前
「では封限命令を開放します。副官、時間の確認を」
何をすればいいのか良く分からないまま潜水艦ハレーン号に乗せられて二日ほど。
海軍さんの士官食堂って豪華なんだねぇ。
同じ食材でも、あんなに美味しく料理できるって知らなかったよ。
御飯だけ食べて優雅なクルージング……だったら……良かったんだけどねぇ。はぁ。
「現在時刻0539です。ベイセル大尉が命令開封に立ち会わせて頂きます」
潜水艦の中って時間間隔狂いますよね。
さっき晩御飯食べたばかりのような……?
「指定時刻は0530だから少し遅れてるな。士官二名の立会を確認、現時刻で封命214号を開封する」
はい。確認しました。王国標準時で0540です。
私も開封確認でサインしなきゃいけないからね……。
「あぁ、規則でやってるだけなんで楽にしてくださいね。さてさて、中身はなんですか……っと」
ここで耳を塞いでれば何か変わったんじゃないか。
……いや、耳を塞いでもヘンリク艦長が困るだけだよね。
貴重な
参謀本部
(前略)
魔導コマンド試験大隊長の指定する部隊は拠点エスダールの奪還のため威力偵察を実施せよ。
当該部隊は威力偵察の実施後、魔導コマンド試験大隊本隊と合流しエスダールの制圧を実施せよ。
(後略)
尚、必要に応じ各級砲撃長は威力偵察隊の誘導に従い砲撃を行う。
大隊一般命令
偵察班は参謀本部命令に従い威力偵察を実施せよ。
ですってよ。
サクっとまとめちゃうと、『前線行って来い。で、誘導砲撃して来いよ』って事ですよね。
しかも、その後は最前線で制圧任務をしなきゃいけない。
なんて無茶ぶりな。
私は……まぁ、我慢すればいいからまだ良いですよ。
私と一緒に送り出されたメルケルスさん、ノイマンさん、ランデル君が可哀想じゃないですか!
まぁ、うん。彼等も偵察班のメンバーだから仕方がないんですけどね。
―――そして今
行かなきゃ……ダメだよね……?
「お嬢、何してるっスか?もう出るっスよ?」
う、うん……。
でもさ……でもね……でも……私……
「与圧弁閉めたっスね?<<注水準備おっけーっス>>」
私ね……泳げないの!!
水中呼吸の魔導は……えっと、こうやって……
ごぼごぼごぼ……
「間に合ったー!?」
「ボコボコボコ。ボコボコ」
え?
あぁ、うん。はい。
皆は潜水具だから手信号を使うって言ってたよね。
うん。泳げない事は事前に言ってますよ。
ノイマンさんが、泳ぎが得意だから引っ張っていく。って。
「ボコボコ。ボコ、ボコ」
あ、はい。捕まれってね。
よろしくお願いしますー。
おぉー。水が綺麗で底まで見えるー!
……あ、はい。底に近い所から出たからそうですよね。
でも綺麗。
平べったいのとか細長いのとか、いろいろ泳いでるし!
月の光も入ってきて、なんかとても幻想的。
このままずっとここで見ていたいかも。
……あ、はい。分かってます。行きます行きます。
って何!?『しょうがないなぁ』って!?
え!?えぇぇぇ!?
いや、その、お姫様抱っことか無いでしょ!
ダメだって。こんな姿見られたらお嫁にいけないって!
……こら、そこ。『嫁になんて行けないだろ』とか考えるな。
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