第4話 戦場の朗報

『朗報』と聞いて

喜ぶのは兵卒

安心するのは下士官

考え込むのは幕僚

身構えるのは指揮官

―部隊先任


『朗報』は『悲報』と共に来る。

―参謀幕僚

―――


「ノイマンさんもう少し屈んで。……そう、その辺りです」

真面目に戦闘訓練中です。

え?やだなぁ。ずっと私は真面目に訓練してるじゃないですか。

「ランデルさん。もうちょっと銃口を低く……その辺りがベストですけど辛いですか?」

いつまで経っても野兎すら撃てないので、まずは形から練習中なのです。

「二人ともそのままの姿勢で茂みを抜けるまで索敵態勢です。ゆっくり、そうゆっくり足を動かして」

二人とも筋は良いと思うんです。

ですが、二人とも急ぎ過ぎて音を出しちゃうのがダメなんです。

えぇ。追跡法です。

私は小さいし軽いから楽にできるのですが、体が大きいノイマンさんとランデルさんには難しいみたいです。

どうしても進むときに足音が出てしまいます。


「……ノイマンは思い切って中腰になれ。ランデル、ハーネスを少し緩めてみろ」

うん。私よりメルケルスさんの方が教えやすいよね。

体格も近いし、何よりベテランだし。

「ところで中尉、今日は定例会議だったと思いますが時間は良いのですか?」

……そうだそうだ。そうだった!

一通り指示を出したら行く予定だったのにすっかり忘れてた!


「そうでした!申し訳ありませんが、後はお願いします!」



―――

「あれ、あなた飛べるんだっけ?」

飛んできました。

はい。飛んできました。物理的に。

いやね、飛べない訳じゃんですよ。戦闘機動が出来ないだけで……。


「ただ飛ぶだけなら出来ますが、酔ってしまうので激しい動きは……」

航法覚えたひよっ子程度になら飛べます。というのが正しいのかな。

足元ふわふわするから撃っても当たらないし。




「さて、みんな揃ったわね。居ない人は居るかしら?」

「はい。戦術班居ません!」

「居るじゃないの。まずはあなたから報告頼むわね。……ところで名前は何だったかしら」

「HAHAHA」

え、えーっと……これってなんかの儀式なの!?

なんか、何も言わずに、何もやらずに何故か決まってるんだけど!?


「おーけー。兄弟諸君、戦術班から報告するぜ。まずは……木曜日の士官ディナーはビーフステーキ(戦闘糧食消費)らしいぜ」

!?

それ、とっても重要!

戦闘糧食って、ソレは人道的禁止兵器に認定された(らしい)アレじゃないですか!

曰く、食べたら次の日お察し(下的な意味合いで)

曰く、ドッグフードの方が美味かった。

曰く、よく見たら賞味期限切れてる!年の桁で!

ダメ絶対。戦闘糧食ダメ!絶対!

「そんな事はどうでも良いって?それじゃあ、『みんなのアイドル。ヴィクトリア予報士』の戦術予報いっちゃうぜ」

おう。いっちゃってよ。ヘイ、カマン。

……なんか違う。変にノってみるもんじゃなかった。

「へい、Camo!Yo...Yo,,,ヴィッキーの予報いっちゃうぜ。Hey Cammo!!」

おっと。違ってなかった!?

なにこのノリ!?


「ふざけてないで早く言いなさい。でも、私的には木曜日の佐官メニューが聞きたいわね」

私は隊員食堂に行こう……。

いや、その日は外に食べに行っても良いかも。


「あ、はい。真面目にいきます」

え、何そのテンションの急降下。

高山病か潜水病になりそうな勢いじゃない。

「さて、昨日やっと反転攻勢計画が決定されました。いつもながら御前会議のお偉方は腰が重いですね」

既に半年位経ってる気がするけど……今まで何もしなかったの!?

「まずは……と言うには大物過ぎるとは思いますが、エスダールを取り戻します」

えーっと、エスダールって言うと海沿いの街ですよね。

辺りを絶壁に囲まれていて、市街地には水路が張り巡らされてる。

観光ゴンドラとか水上バスが有名らしいです。

士官学校、最後の休暇で行きたいな~。と計画してた場所です。

結局入院してて行けませんでしたが。

「戦力は大盤振る舞いです。海から戦艦マデリーネとビルギットを中核とする第二機動艦隊、空母ブリタを中核とする第一空母打撃群が来ています」

うわぁお。名前聞いたことありますよ。

5分に1回15発の420mmを降らせる戦艦様と、空戦魔導士てんこもりの空母様。

しかもブリタの空戦部隊なんて戦技教官真っ青な凄腕集団だとか。

「陸からはサーペント砲撃大隊、マティアス対空大隊が駆けつけた」

おぉ。重砲部隊まで居るのですね。

っていうか、サーペント大隊ってあの時の……?

凄く頼りになる人たちだけど……なんか顔を合わせづらいというか……。


「さて、ここで質問よ。新入りの子猫ちゃん、この兵科構成を聞いて思う事を答えなさい」

子猫ちゃんって誰だろなー?

……。

……。はい。皆でこっち見ないで……。


この部隊構成で思う事。

何よりも豪勢、何よりもパワフル、弾で畑を耕せる。

そして、

「地面を耕した後、収穫しに行くのはどこの部隊なのでしょうか?」

そう。異常なまでに豪勢な砲撃投射量が有って、どんな砦でも穴ぼこだらけのチーズ状に出来そうな構成です。

それなのに陸上機動部隊が居ない。

砲弾の集中豪雨を起こしても、残敵掃討や拠点制圧をしなきゃいつまで経っても前線を取れません。

「艦載魔導士の方々が制圧を行う予定なのでしょうか」

重爆の方々が対地兵装撃ち切ったら陸上制圧に転戦して。とか?


「あら意外ね。てっきり『万全の布陣です!これなら楽勝です!』とか言うと思ったわ」

いや、まぁ、一応、座学頑張ってましたし……。

戦術学の演習で似たような問題もあったし。


「さて、ここで喜ばしい事に姐さんに増援要請です。思う存分暴れまわれます」

なんかこの流れ、とても嫌な予感しかしないんだけど。

うちって一応魔導部隊だった……よね?

「我が大隊は突入及び陸戦部隊です。現地は豪雨砲撃が予報されますので頭の上には気を付けてください」


「朗報じゃない。良かったわね、やっとお待ちかねの戦争よ」

「「「「マム!イエス、マム!」」」」

うわぁ……。皆のノリが異次元過ぎるよぉ……。


「初戦は子猫ちゃんに一人勝ちされたけど、今度は私達みんなで踊らせてもらうわ」

いや、ニヤっと笑いかけられても。

……そして皆、こっち見てサムズアップされても。

「よろしい。大隊諸君、戦闘準備よ。アカ共を真っ赤にしてあげましょう」

「「「「姐御!姐御!姐御!」」」」



そのまま勢いで兵器庫に雪崩れこんだまでは良いんだけど(?)、

そのあと、そのまま酒保に雪崩れこむのは……。

「あと10杯くらいくださ~い!」

「子猫ちゃんなかなかイケる口ね。大隊倉庫のボトル開けても良いわよ」


消灯過ぎても飲んでました。

良く分からないノリだけどお酒は正義。うん。

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