「くらやみ乙女」
書籍、食器、筆記具、インテリア、日用雑貨……足の踏み場も無く床に散らかった、ありとあらゆる物、物、物、そして埃とゴミ……それが、部屋の「左半分」だった。打って変わって「右半分」は、全ての物が整然と並び、塵一つ無く掃除がなされている。そして、床の中央に、チョークで引かれた境界線。それは直線ではなく、左半分の床を埋め尽くすガラクタ群の「輪郭」を正確になぞって引かれている。
それが「くらやみ乙女」の店内だった。
「君が質問したい事は、容易に予想できる」
教授が部屋に入って初めに言ったことが、これだった。全くその通りだ。「一体、この部屋はなんなんですか?」と聞かざるをえないじゃないか。
「『6/15条約』に従って引かれた『排他的境界ライン』なんですよぉ」
ホタルコちゃんが、ばつの悪そうな表情で言った。
「うむ……私とホタルコ嬢では、この点で意見が噛み合わなくてな。お互いに、部屋の管理を分担することになったのだな。どうした、少年。変な顔をしているが?」
「い……いや、少し驚いただけですよ、ハハ……。随分散らかってるな……と」
「散らかってないですよぉ……こっちは」
「うむ、散らかってはいないな。この部屋はどこも散らかっていない」
二人は同時に、全く違う主旨で反論した。
どうやら、左半分の散らかった側が教授の管理エリアで、右半分はホタルコちゃんの担当だということなのだろう。それにしても、何も線を実際に床に引かなくても……
「いや……そういうことじゃなくて……なんというか……」
教授は一切表情を動かす事もなく、
「この部屋に存在する物は、全て意味があって、そこに置かれている。または意味があって放置してある。私は、それらをひとつ残らず、把握した上で生活している。あいまいさなど何一つ無い。だから、この部屋は微塵も散らかっていないのだな……」
などと、訳のわからない屁理屈を言いながら、デスクの上に散らかったガラクタをガラガラと脇に寄せた。そして、空いたスペースに、書類のような紙の束とペンを置いた。
「まあ、そんなことはどうでもいい。仕事を始めよう。まずは、これに記入してくれたまえ」
その書類には、様々な質問が書いてあった。
立ちくらみをするような時はあるか。持病は持っているか。嫌いな食べ物は何か。趣味、娯楽は何か。出身地はどこか。ありとあらゆる質問が、それこそ呆れるほどたくさん用意してあった。一体、これはいつまで続くのか……流石に、一流の「学者」となると、こんな所まで問題にするのか……しかし、それにしても、どれもこれも「妙な質問」過ぎやしないか?……一体、これだけの量、いつになったら終了するんだ……と思いながらも、ようやく全ての質問を書き終わった。
その間、教授とホタルコちゃんは僕が書き終わった書類に目を通しながら、パチパチとそろばんを弾いて計算をしていた。こんなことでも計算が必要なのだろうか……
そして、全ての書類の審査が終わり、教授が意味深な顔でホタルコちゃんを見る。ホタルコちゃんも、何やら微妙な表情で立ち上がって、隣の部屋に出て行った。
ん……一体、何なんだ? 何か、おかしい結果が、やばい診断が下ったのか? まさか僕が、余命一ヶ月の奇病にでもかかってることが判ったとか……と巨大な不安が僕を襲ったのだが……
数分後、僕に差し出されたのは「一杯のお茶」だった。
「君は、全くつまらん人物だな」
「はあ?」
「私がせっかくブレンドした百種類もの茶のうち、どれを振舞えるのだろうか、と期待していたが、何の変哲も無いセンチャ、それも安物で十分だという分析結果とは……実に期待はずれだよ」
教授が不可解極まりないことを言い出した。ホタルコちゃんが即座に反応し、これまた訳のわからない突っ込みを入れる。
「ちょっと、教授。それについてですけど、昨日確認したら、お茶の缶が百十五個ありました。『3/12条約』に違反してますよぉ」
「む……ホタルコ嬢、その件については後で話し合おう」
僕は、ようやく事態が飲み込めた。
「ちょっ……ちょっと待ってください。あれだけ長い時間かけてやったアンケートは『僕にどんなお茶を出すかを分析するため』だったんですか? 何の冗談ですか、それは!」
教授は、ごく正当だと思われる僕の抗議に対しても、一切慌てることは無かった。
「ん……?、奇妙なことを言うな君は。私は、先ほど『お茶でも一杯ごちそうしよう。詳しい話はそれからだ』と言い、君はそれに対して『は……はい。そうですね。それがいいです』と言ったはずだが? だから、そのための必要な手続きを踏んだ。それが論理というものだが?」
ぐうの音も出なかった……
「あ……ああ、そうですね。確かにそうでした……その通りでございます……では、まずは、ありがたくお茶をいただきます……」
僕は、その時初めて気がついた。
ひょっとして……ひょっとしなくても、この人は、「物凄く変わっている」のではないかと……
☆ ☆
「なるほど、これを中心に君は『装甲』を組んだ。それが破られて、君の恋人が攻撃を受けた……と」
「い……いや、別に恋人っていうか……そういうことじゃないんですけど」
そんなこんなで、ようやく教授は、エシャに僕が送ったアミュレットの分析を始めた。
「青いクルミのロケット。中には彼女の毛髪を入れた……と。『特定の個人を守るための装甲』の核としては正しいな。しかし、そもそもこれは大したソリッドでもない。基本階層のフォーマットにしか対応してない。これで組んだ装甲など、破られても全く不思議ではないと思うが?」
教授のこの言い草には、内心腹が立った。別に、お茶の味が判らない、退屈な人物呼ばわりされるのは構わない。しかし、僕のアミュレットを「大したソリッドじゃない」の一言で片付けられるのは我慢ならなかった。5年前、僕とエシャはアミュレットを交換した。僕はエシャを守る為に青いクルミのロケット、エシャは僕を守る為に赤いクルミのロケットを。これがかけがいの無い物だというのは、価格や効果の問題ではない。「心」の問題なんだ。だから、僕のポケットに入ってる、赤いクルミのロケットのことは黙っていた。
僕にとって、この人はたまたま仕事を依頼した、赤の他人の占い師に過ぎない。僕の決意を、エシャへの思いを理解してもらう必要もないし、理解して欲しいとも思わない。
「いや、僕が組んだ装甲の問題じゃないんです。そもそも、僕のいる都市の『フォーマット』の防御は完全無欠です。あの中では、住人に危害を及ぼす一切の鬼道も呪いも不可能なはずなんです。それを突破して、あんなことを出来るのはおかしいですよ。だから、僕は一連の事件は『内部犯行』だと思ってるんです。『最上位階層』まで『フォーマット』を把握している、教団幹部の仕業ですよ」
「ほお。完全無欠な『フォーマット』? それは面白いな。『ベース』(基本階層フォーマット)は何を使ってるのだ?」
「いえ、完全に独自開発のものを使っているようです。情報は開示されていません。市民たちは、日常生活を送るための、最低限の『コード』しか判らないんです」
「『ベース』が非開示だと? そんなことは聞いたことが無いな。なら、都市の写真でもいい。それで、『色彩コード』が推定できるはずだ」
「それが……『色彩コード』は『無い』んです。『使って無い』んです」
「え? だって……それじゃ、都市に使ってる色はどんなものなんですかぁ?」
丁度、お茶菓子をテーブルに並べていたホタルコちゃんが口を挟んできた。余程驚いた様子だ。
「それが、真っ白なんですよ。建物も道路も道も衣服も全ての物が。だから『白亜の城塞都市』とも言われてます。都市内で、色がついているのは、食物と人間だけです。ですから、正確に言うと、色彩コードが無いというより、『白色以外は認められない色彩コード』なんです。今着てる服は、ここに来る途中『中継集落』で買ってきました。実は、そのクルミのロケットの僅かな青みですら、当局には探知されてませんけど、厳密には教義違反なんです」
教授は首をかしげながら、
「色味が一切無く、『白一色の色彩コード』だと? ますます持って、理論的に有り得ない話だな。なら、ある程度フォーマットの構造を推定できるような、データなりがあればいいのだが」
と言った。
「一応、『基本教典』は持って来ました。ええと……そうだ。僕が組んだ『法学装甲』の『設計図』と、稼働テストの記録……ならあります。『フォーマットデータ』が開示されてないから『現物合わせ』で調整していったんです。その実証記録です」
信仰都市の「フォーマット」の核になるのは「教典」だ。「フォーマット」が階層構造を持っているのと同様に、教典も「階層」を持っている。都市中央の、「フォーマット」本体である「核室」に位置しているのは、百科事典のように膨大な内容を持つ「最高教典」だ。これは一部しか存在せず、教主などのごく一部の人間以外は、内容を知る事は出来ない。一般の「登録信徒」に配布されるのは、日常生活に必要な概略だけが記されたブックレットで「基本教典」と呼ばれている。
「基本教典」と僕の「制御ボード」を教授とホタルコちゃんに渡した。二人は、顔を並べてしばらくそれを調べていた。
「僕に判るのは、『クリスト系の教典』を核にした、『六芒形都市』だってことだけです。それ自体は、オーソドックスですよ。でも、具体的な構造がどうも判らないんです。まあ、解析が出来ないからこそ『完全無欠都市』なんでしょうけど……」
「ん?『六芒形都市』? そんなはずは無かろう」
教授が僕の話の腰を折って言った。
「ええと……これおかしいですよね……」
続いて、ホタルコちゃんもそんなことを言う。
「え?『六芒形都市』なんですよ」
「それは違うな」
「だって違うも何も、僕はここに住んでるんですよ!」
「いや、違う物は違う。それが論理であり理論というものだ」
「そうだ。地図を見せますよ。……ちょっと待ってください……ほら、これですけど……『六芒形』でしょ?」
僕が広げた「アアア」の地図は、六角形の形をした城壁の内部に、びっしりと道路が敷き詰められていた。どこをどうみても、「六芒形都市」だ。ホタルコちゃんと教授は顔を見合わせる。僕は、鼻持ちならない変人教授の鼻をあかしてやった気がして、少し気分が良かった。しかし、教授はむしろ、妙に嬉しそうな表情になって、
「なるほど。これは、実に面白いな。うん、ますます面白い。それから、『完全無欠のフォーマット』というのも有り得ない。むしろ、これほど醜悪でいびつな形で『都市管理』している例は初めてみたな。おっと、ちょっと待ってくれ」
と言ってから、またあの星座盤を取り出した。そして青い粉末を燃焼させると、そろばんを弾き始める。一体これは、定期的にやらなければならないことなんだろうか? まあ、それはそれとして、ここまでの会話で僕はある疑問を抱いていた。ひょっとすると、教授たちは「アアア」の存在を知らないのではないかと。学者を名乗る人ならば、そんなことは、あるはず無いのだけれど。
僕は、教授にさらなる反論を試みる。
「でも、『蒼いたそがれ戦争』で、超大国バハロウの攻撃が一切通用しなかったのだから『アアア』のフォーマットの防御が硬いのは、事実と認めていいんじゃないですか?」
「蒼いたそがれ戦争」は、かれこれ三百年前の出来事らしい。バハロウにとっては、大国の威信を汚す呪わしい敗戦の記録だ。国の面子のために、全ての記録を消そうとしたけれど、人々の記憶の中に『無敵都市アアア』は伝説となって生き続けているのだ。
「ん? ちょっと待て。君が住んでいる都市の名前は『アアア』というのか?」
「はい、そうです。変な名前ですよね」
やっぱりそうだった。教授は「アアア」の名前すら、知らなかった。考えられないことだけれど。
教授は、無言になり、腕を組んだ。「なるほど……」とか「アアアね……ふむ……アアア……アアア……」とか、ぶつぶつ言いながら、しばらく何かを考えていたようだった。ポットを持ったホタルコちゃんがパタパタと歩いてきて、二杯目のお茶をトポトポと注いでくれた。ちょうどその時、教授が何かに気がついたような表情となった。
「ひょっとして、その都市には別名があるのでは無いかな?例えば『ウウウ』とか」
「は?」
もしも部外者が、この会話のやり取りを聞いていたなら、僕はここで呆れたのだと思っただろう。「アアア」が名前というだけで、冗談のような話なのに、別名が「ウウウ」とか、母音を適当に並べればいいもんじゃないだろうと。しかし、実際には、内心で僕は非常に驚いていたのだ。
「そ……そうです。そうなんです。別名に『ウウウ』というのがあるんです。でも……」
(……なんで判ったんだろう?……)
そう、思った直後、
「ああ、なるほど。それで大体の事情は判った。それじゃ、今日の仕事は終えることとしよう」
教授は事もなげにそんなことを言い放ち、さらに僕を唖然とさせた。
「はあ? 一体何言ってんですか。まだ、何も解決してないじゃないですか!」
「いや、だから言ったではないか。大体の事情は判ったと。次にする事は、君の都市に行って『裏を取る』ことだ。それが論理だ。それで、『オロチ』の正体を突き止められる」
「え? 敵は……あの老婆は、さっき倒したんじゃなかったんですか」
「いや……逃げられたのだよ。あの、敵が入っていた空間ドームには、『入り口』から通じるトンネルの他に、敵が脱出経路として使うための、『出口』に通じるトンネルがもう一本伸びていたのだな。自分の身体に『縮小』をかけて、爆発に紛れながら、そちらへ逃げたのだ。なんにせよ、今はまだ、仔細は説明できないな。私にも確証が無いからだ」
「そう……なんですか。まだ、奴は……」
まだ、奴が生きているとすれば……
また僕は、命を狙われる可能性があるってことだろうか……
先ほどの戦闘で覚えた恐怖がぶり返して、前腕部の辺りにピリピリと鳥肌が立った。
ホタルコちゃんが注いでくれた二杯目のお茶は、ホウジチャだった。これは、僕に向いている二番目の候補だったのかもしれない。これから僕が何をすべきかは、これを飲み終わってから考えようと思った。余りに色々なことが起こりすぎて、心身共に疲れ果ててしまった。
と、そこまで考えて、「ある重要なファクター」にやっと思い至った。僕にとっては、一番差し迫った大問題だ。
「あの……そういえば『仕事』となると、報酬の件なんですけど……」
僕は、前にアアアの公認学者に依頼した仕事の報酬と、この都市までの交通費で、殆どすっからかんになってしまったのだ。
「うむ。私が推理するに、君は極めて貧乏だな。間違いない」
ざっくりと言い切られてしまった。まあ、ここまではっきり言われると話が早い。
「そ……そうなんです。僕には、とても今すぐには、支払えそうに無いんです。ですから、分割で後払いにするとか……」
「それは承服できないな。断じて許さん」
「え? でも、ちょ……ちょっと……僕には今……」
「今すぐ、労働で一部だけでも支払ってもらおうか、少年」
☆ ☆
「くらやみ乙女」の裏庭は、小さな植物園になっていた。ソリッドとして使用できる品種を中心に、様々な植物が育てられていた。もちろん、観賞用としても栽培しているから、趣味と実益をかねた合理的な菜園なのだ。
僕は、普段ホタルコちゃんが行っている、庭の手入れを手伝う事になった。一体、労働というから、何をさせられるのかと思ったけれど、こういうことなら悪くない。
まずしなければならないのは、最近さぼっていたという、草むしりだった。僕は地面にしゃがみこみ、雑草を手でむしっていった。
「マサアトさんは、一人でここにいらしたんですか?」
ホタルコちゃんは少し離れた場所で作業をしながら、何気ない口調で僕に尋ねた。僕は、彼女の方へチラリと目をやる。しゃがみこんだ彼女の、真っ白いフトモモが、お尻のラインまでグニュッと露出しているのに目が行ってしまった。罪悪感に襲われて、思わず目を逸らした。いけないいけない。凝視してはいけない。せいぜい、チラチラ覗き見するだけにとどめておかなくては。
それにしても、あそこまで犯罪的に短い、いやいや基準ギリギリの、あくまでも道徳的に短いスカートなのに、パンツが一瞬でも見えないのは、一体どういうことなのだ。人の視線の角度を計算して、ギリギリ見えないように姿勢を調整しているんだろうか。これは一種の神秘だ。
「エシャさんのご家族とかは、アアアにいらっしゃるんですか?」
「あ……!すみません。ぼおっとしてました。いえ、エシャに家族はいないんです。それから……僕にも……」
ついつい、気を取られてしまった。全ては、白いフトモモと神秘のパンツがいけないんだ。
「あ……ごめんなさい……」
「いえ、いいんです。もう慣れっこですから」
「働きながら、お勉強なさってるんですか?」
「ええ、働いてます。一応都市から補助は出てるんですけど、それじゃ食費も出ませんから」
「大変ですね」
「エシャのためですから。今、僕がしっかりしないと、あの子は……」
「マサアトさんは、優しいんですね」
ホタルコちゃんの言葉は、一つ一つがえらく身にこたえた。僕は、自分の事を偉いとか凄いとか、まして優しいとか思った事は無かった。それはきっと、一度そう思ってしまったら、「自分が辛いと感じている事」に、気がついてしまうからなんだ。でも、ホタルコちゃんに、こんな言葉をかけられてしまうと、ついつい張り詰めていた気持が崩れてしまいそうになる。
「いや、当然の事をしてるだけですから」
僕は、あえて冷淡に答えておいた。そうしないと、涙が滲んできそうだったのだ。
「でも、凄く素敵です。頑張ってる人は素敵ですよぉ」
黙々と、大小さまざまな雑草を引っこ抜き続けているうちに、そこはかとなく気がついた。
なんなんだろう、この気持は……
間違いなく、自分の中で、小さな異変が起こり始めている……
僕は、努めてホタルコちゃんの方へは目を向けずに、心を空っぽにして作業を続ける事にした。真っ白なフトモモを、のぞき見できないのは少し惜しかったけれど。
☆ ☆
「あなた、名前なんていうの?」
母さんが突然病死した一ヵ月後、僕は救貧院に入れられた。その初日のことだ。誰一人知り合いがいない部屋の片隅で、僕は所在無げに座り込んでいた。エシャは、そんな僕につかつかと近づいてくると、出し抜けにそう言ったのだ。
今よりも、もっと初対面の人としゃべるのが苦手だった僕は、しり込みしてしまい、言葉が全く出てこなかった。
「え……えーと……」
「マサト君でしょ? 知ってるわ。アハハ……教師様に聞いたもの!」
マサトという名前を、自分で言いかけた直前に、相手に言われてしまった。
この二つの言葉が、最初に聞いたエシャの言葉だ。
今でも忘れていない。
忘れられるはずも無いのだ。
当時、救貧院にいた子供達は、たまたま僕と二歳以上離れた子供ばかりだった。子供にとっての二歳差は大きい。もともと友達を作るのが苦手だった僕は、結局あそこでは友達を作ることが出来なかった。唯一の居場所は、僕よりも少し前に救貧院に引き取られた、エシャの傍しかなかった。
エシャは、あの頃からとても頭のいい子だった。救貧院の図書室にあった、大人向けの学術書まで、片っ端から読んでいた。じっとしていないと頭痛がする持病を抱えていた僕も、家の中で本ばかり読んでいたから、僕とエシャはすぐに仲良くなれた。救貧院の他の子供達は、そんな僕達を冷やかした。最初は恥ずかしかったけれど、すぐに、そんな事はどうでも良くなった。エシャと一緒に居られる楽しさに比べたら、少しくらいからかわれたって、どうって事は無い。
「マサト君は、どんなことが好き?」
あの日の事も決して忘れない。床に法学書を広げて、二人で並んで読んでいた時に、エシャは突然そんなことを言い出した。
「え? どんなことって言われても……」
答えられなかった。その時は「何が好きか」と聞かれても、本当に思いつかなかったのだ。
「エシャは、本を読むのが大好き。本には色んな事書いてあるから」
「そ……そうだね。僕も好きだよ。本を読むのが」
実は、それまでは読書が好きだと、はっきり意識した事は無かった。他にする事がないから、読んでいただけだった。僕は正真正銘、その瞬間に読書を好きになろうと決めたのだ。
「それから、空の色と夕焼けの色も好き。綺麗だから」
「そうだね。僕も好きだよ」
「あとはねえ……そうだ、ジャガイモのスープが大好き」
「あれは、おいしいね。僕も好きだよ」
それは、みんな嘘だった。本当は、その時に好きになったのだ。エシャが好きだと言ったから、好きになろうと決めたのだ。
それまでの僕は、真っ白だった。何一ついいことも楽しい事も無かった。いや、本当はあったのかもしれない。しかし、きっと母さんが死んでしまった時に、僕は空っぽになった。全ての思い出が、あらゆる感情が、跡形も無く消え去ってしまったのだ。
しかし、エシャに出会ったことで、「アアア」の町並みのように真っ白だった僕の世界に、みずみずしい生命が宿ったのだ。今の僕は、あの頃に産まれたんだ。
そして、エシャは最後に言った。
「それから、エシャはマサト君が大好き」
予想もしていない言葉だった。全身の血が脳天に向かって逆流し、体温が沸騰したようだった。その時は、何も答える事ができず、エシャから顔をそむけてしまった。
その後、僕はずっと後悔した。「僕もエシャが好きだよ」と言う勇気を持てなかったことを。
だけど、今なら胸を張って口に出来る。自分の気持を。決意の深さを。
僕は、エシャの方へ顔を向ける……
しかし、眼前にあったのは、エシャの顔ではなかった!
「え? ホ……ホタルコちゃん?」
一体何故!
「そうですよぉ。私です。どうかしましたか、マサトさん?」
そう言いながら、ホタルコちゃんは僕にぐいぐいと顔を近づけてくる。
「な……なんで、いつのまに君が……!」
突然、ホタルコちゃんは、ガシッっと両腕を僕の胴に回して、抱きついてきた!
だから、一体何故!
なにやら、胸のあたりに、ほのかな、膨らみらしき、膨らみらしき、膨らみらしき、物体までも押し付けてきた!
「マサトさん! わたし……わたし……!」
そしてそして、とんでもない「道徳行為」を!
あんなことを情熱的に!
そんなことまで官能的に!
いくらなんでも扇情的に!
かなりのことを退廃的に!
……………………………………
次の瞬間、僕が布団から身体を起こした場所は「くらやみ乙女」の店内だった。
(何故……こんな夢を……?)
部屋の隅では、教授が胡坐をかいていた。床にずらりと、「岩窟王」すなわち青銅の天秤ばかりが並んでいる。数値を入力したり、油を差したりと「下ごしらえ」をしているのだ。奥のキッチンでは、シャカシャカと凄いスピードで包丁を使う音が聞こえてくる。覗いてみると、エプロンをしたホタルコちゃんが朝食を作っていた。手の動きが速くて せわしないので、のどかな朝の風景……という感じでもない。鍋にはスープが作られていて、美味しそうなダシの匂いがただよっている。
何故だが、無性に心が乱れた。昨日から様々なことが起こりすぎて、自分自身の中でそれらをどう処理していいか、判らなくなっているのだ。自分の命が狙われていたり、エシャが危ない事ももちろん心配だ。しかし、その問題は、ある意味で判りやすい。とにかく、良い結果を出せばいい、という目的がはっきりしているからだ。しかし、この二人との出会いは、僕にとってどういう意味を持っているのか、もしくは持っていないのか、そこからして判らない。
只の名前しか持たず、何の力も無い、空っぽの僕の中に、二人は突然飛び込んできた異分子なのだ。
第一に教授、カノッサだ。この子が……この人が、どういう人物なのか、皆目つかめない。そもそも、一体年齢は何歳なのだろう。見た目が若いのは、はっきりしている。教授は僕のことを「少年」と呼ぶけれど、そう言う本人が、僕と同年代の「少女」だろうと突っ込みたくなるし、「この子」という認識もついしてしまう。しかし、人格的には、さっぱり年齢不詳だ。随分大人のようにも思えるし、老人臭いとさえ感じるから、僕はつい目上の人を相手にするような態度を取ってしまうのだ。
結局は、年齢を超越した「ただの変人」と考えるのが一番正しいのかもしれない。凄い能力の持ち主だとも思えるし、勉強中の僕としては、教授から少しでも知識を吸収したいという気持もある。しかし、その一方で、とんでもないインチキイカサマ師なのではないか、という思いも付きまとってしまうのだ。
もう一つ、さらに問題なのが、ホタルコちゃんだ。
この子が生み出す戸惑いは、まずもって理屈では無いのだ。言ってしまえば生理、物理現象だ。だから、あんな妙ちきりんな夢まで見てしまうのだろう。初めて姿を現した時から、フトモモがフトモモが白いフトモモが丸見えで、パンツがパンツが結局は見えなかったけれど、神秘で神秘なパンツが見えそうで見えないスカートで僕を驚かせ、いきなり柔らかい唇を唇を僕の口に押し付けてきたり、細い指先を僕の耳の穴にギュギュ……と挿入……そう「挿入」してきたり。あの時は意識しないように努めていたけど、僕の横にぴったりくっついている時も、ムニュムニュと胸の辺りの、ほのかな膨らみらしき膨らみらしき感触をムニュと……そうムニュムニュッとしっかり伝えてきたりで、僕をいたくどどど動揺させたのだ。さらに昨日、「夕食をご一緒しませんか? お宿が決まってないなら、うちに泊まっていっても結構ですよ」などと満面の笑みで言って、僕の心をぐらつかせ、あまつさえ、「あ……それから、身体のあちこちが痛いんじゃないですか?整体してあげましょうか? ちょっと、そこのマットに横になって下さい」などと言い出したあげく、その言葉の甘い響きに勝つことが出来ずに、腹ばいになった僕の背中に、グニュッとお尻を乗っけてまたがり、身体のあちこちを、そう、ありとあらゆる場所を柔らかい指先で、ムギュムギュと……グニュグニュグニュと押し、さすり、叩き、揉みほぐし……そう……そんなことまでやられてしまった僕は、一体どうすればいいのだ!
こう考えてみると、ホタルコちゃんも、教授ほどではないにしても、少々得体の知れない子だ。スキンシップに関する、妙なガードの甘さ、隙の多さは何なんだろうと思う。例のキス的行為についても、さほど意識していないらしいし。
ともあれ、これは笑い事ではなく、実にシリアスな問題だ。僕のアイデンティティ、ひいては人生が、大げさではなく危機に直面しているのだ。
さらに、困ったことに、ホタルコちゃんが作った夕食も朝食も美味かった。それも、途方も無く美味かったのだ。そして、三人で食卓を囲んで食事を取っていると、今朝目を覚まして以来感じ続けてきた湿っぽい感情の正体が見えてしまい、それがまた、僕を余計に揺り動かした。殆ど天涯孤独で生きてきた僕だけれど、ひょっとして「家族とはこういうものなのではないか」という思いが心の片隅に滲んで来たのだ。
僕が朝食を食べ終わる頃になると、ホタルコちゃんは立ち上がり、パタパタとキッチンの方へ出て行った。ほどなく、白いまんじゅうを載せた大きな皿を持って、ペタペタと戻ってくると、そのうちの一つをポテッと僕の皿に一つ載せてくれた。まんじゅうからは、まだ湯気がホカホカと立っている。
「おまんじゅうができました。召し上がって下さい。『チュウカ・マン・ホタルコ・スペシャル』です」
教授は、まんじゅうの一つを手に取りながら言った。
「略して『C.M.H.S.』と呼ばれている」
「あ、はい。いただきます。」
熱々の「C.M.H.S.」を手に取ったら、さらに胸が締め付けられてきた。
こんなことではいけない……と、気持を引き締める。
今の僕は、いろいろなことを学び、強くなり、この困難に勝たないといけない。エシャを救わなければならない。その為にも、まずは昨日の話の続きだ。
「あの……教授。『アアア』が六芒形都市では有り得ない、というのはどういう根拠ですか?」
と言いながら、僕はC.M.H.S.を一口かじった。ん? 滅茶苦茶美味いぞ、これは。
「そうだな、それを説明するのは、今は難しい。それよりも、君も学生ならば、信仰都市の外郭部について、知っていることを解説してくれないか? それによって、こちらがどのように説明するのか、変わってくることもある」
ん? なんで、僕が説明する側に廻らなきゃいけないんだ? という疑問も沸いたが、この際、一種の講義を受けているとでも思って、相手の提案に乗ってみることにした。残りのC.M.H.S.を食べながら。
「そうですね。まず、世界に存在が確認されている信仰都市の外郭は、『三芒形』『四芒形』『五芒形』『六芒形』の四種類です。たった一つしかない『三芒形都市』のカル・カソは、特殊な都市ですから除外すると、ほぼ『四』『五』『六』の三種類しかないことになります。五芒形都市は非常に数が少ないですが、世界最大の信仰都市「バハロウ」が五芒形を採用しているのは、誰でも知っています」
「よろしい。では大国バハロウが五芒形を採用している理由は何だと思うかね」
「ええと……それは。五芒形は、強力な「法陣」であるペンタグラムと同期できるということ。それから「五行」との相性がいいという利点があります。よって、慎重に設計すれば、極めて強力なフォーマットを構築できます」
「よろしい。では、何故それほど優秀な五芒形の採用数が少ないのか。その理由は何だと考えるかな? 逆に五芒形の弱点は」
「そうですね。それは、非常に動作が不安定で、システムが複雑で巨大になることです」
「まんじゅう美味いか?」
「は?」
「まんじゅうが美味いかどうか聞いているのだが?」
「あ……あの、僕は信仰都市の外郭形について解説している所だったんですけど?」
「ん?……君は、ちょうど私が『逆に五芒形の弱点は』と言った直後にC.M.H.S.の最後の一口を飲み込み終わったはずだが? つまり、今が正に、C.M.H.S.の味について最も印象が深く、最も新鮮な感想を言える瞬間となるはずだ」
確かに……それが論理というものだ……などと一瞬でも思ってしまったのは、相当教授に毒されている証拠だけど、僕は「はい、凄く美味しかったです」という素直な感想が喉元まで出掛かって、寸での所でそれを飲み込んでしまった。いやいやいや、待てよ、ここに重大な事実があるじゃないか。僕が食べたまんじゅう、C.M.H.S.に詰まっていたのは「こしあん」だったのだ。すなわち、つぶあんでは無い。あんこの好みは、「こしあん派」と「つぶあん派」に大きく分かれることは僕だって知ってる。
これはやばい……
「オコノミ・ヤーキ」の「ヒーロシマ派」と「オサーカ派」、「ヤーキ・トーリ」の「塩派」と「タレ派」、「ウードン派」と「ソーバ派」……両者の間には埋めがたい溝があり、永遠の闘争をしているのだ。
僕は、教授の顔色を見たが、全く真意を読み取れない。これは「罠」では無いかと恐ろしくなった。
仮に、僕が「美味しい」と言ったとしたら「C.M.H.S.は本来はつぶあんだ、こしあんを詰めたC.M.H.S.など食えたものではない。君はろくでもない味覚を持っているな」とか、逆に「不味い」と言ったなら言ったで「さては、君はつぶあん派か。つぶあんなど、あんな下劣な食べ物はあんこではない、断じて違う。なるほど、君は敵だな」とか、訳の判らないことを言ってくるかもしれない。この変人グルメ教授はそれくらいの事はやってくる人だ……と、フラフラ思考していたら、全く言葉が出なくなってしまった。
「よろしい、適切な表現が浮かばないなら、それについては明日までの課題としておこう。話を戻すと、五芒形都市が複雑で巨大になる理論的な理由は何かね?」
た……助かった。僕は何とか「つぶ対こし」のエンドレス闘争に巻き込まれるのだけは避けられたらしい。
「それは……五芒形は形状の定義を維持するのが難しいからです。外郭部の形状を定義する基本は『外角の大きさ』です。多角形の外角の和は、形に関わらず三百六十度です。ほぼ全てのフォーマットは、この幾何学定理を核にして外形を確定しています。四芒形の一つの外角は九十度、六芒形は六十度です。それぞれ十の倍数なので、これらは数霊術の運命数「九」と「六」に対応させることで、カバラ上でのコントロールができます。しかし、五芒形の外角は七十二度で『二桁』になってしまい、前述の方法が利用できません。フォーマットの基本核となる、外郭の形状の『単純な定義』が難しい為に、全体のシステムも、ネズミ算的に莫大な規模となってしまいます」
「良く出来た。まずは、教科書どおりの解答だな。そこまで知ってるなら、後は『アアア』に行くしかない。言葉で説明するよりも、実際に目と身体で確かめたほういいだろう」
「はあ……そうですか」
なにやら、うまいことはぐらかされた様な思いだ。しかし、今の僕の立場では、教授の言葉に従うしかない。
「しかし少年、殆どの法学書で記述されていない、五芒形の大きな弱点がまだあるのだな。それについてはどうかな?」
何とか、教授が出した課題をクリアした僕だったが、これを言われてしまうと弱い。これまで、ほぼ独学で勉強してきた僕は「生きた知識」に乏しいのだ。書籍に書いてある以上のことは、まるで知らないから、黙ってうつむくことしかできない。
「ホタルコ嬢」
「あ……はい。マサアトさん。見落としやすい五芒形の弱点というのは『敷き詰めていくことができない』ことですよぉ。『五角形はどう並べても隙間が出来る』んです。それに対して、四角形や六角形は隙間を作らずに連続体を構成できるんです」
これには目からうろこが落ちた。例えば、六芒形都市の場合、六角形の石畳を道路に敷き詰めることで、全ての道路の形状をコントロールすることもできる。しかし、五角形ではそれができないのだ。
「コンストラクター(都市計画者)にとっては常識の知識だな。しかし、世間に出回ってる学生用の教学書というものは、重要なポイントを全く欠いたままで、過去の記述をそのまま引きずっているだけなのだ」
やはり、この人達は凄い。確かに少し……少しどころか、かなり変わってるかもしれないけれど、どこか釈然としない所もあるけれど、この知識量には素直に感服すべきだ。きっと、僕は出来る限り、この人達から技術と知識を吸収しなければならないんだ。
教授は、またしても星座盤とそろばんを取り出すと、青い粉末を盛ってボンと燃焼させた。また「あの作業」だ。一体、一日何回これをしなければいけないんだろう。
僕は意を決して、話しかけた。
「あの……教授!」
「ん?」
「この仕事の期間だけでいいです。その……授業料なんてものも払えませんけど、出来る範囲で僕に色々なことを教えて欲しいんです」
「ほお……」
と言ってから、教授は、少し困った様子になった。
少し考えた後に、
「君の当面の課題は、君に降りかかった事態を打開することだと思うが……そうだな……今の君に当面必要なことならば、教える価値もあるか……」
などと、独り言のようにつぶやいた。そして、書類棚から、一枚の「方陣」を取り出して、食卓の上に置いた。縦横に配置された数列や、様々に組み合わされた図形、記号、アイコンが描かれている。
そして、その中央に小皿を置くと、ショウユをたらした。サシミを食べる時に使う、時にはゴハンにもドボドボとふりかける、あのショウユだ。
「ホタルコ嬢、やってみたまえ」
「ええ~?ちょっと自信ありませんよぉ」
一体、何をしでかすのかと思ったら、ホタルコちゃんは、制御ボードを取り出した。僕の方をちらと見ると、
「あの……うまくいかなかったらすみません」
と、ばつが悪そうに微笑んだ。
ホタルコちゃんは、なにやら様々な単語や数値を入力しながら、指先でボードをなぞって、テキパキと操作をしていく。すると、方陣の上の小皿がビリビリと小さく振動し始めた。
その振動はやがて止まり、ホタルコちゃんは、ほっとしたような笑顔になった。
「よし、上出来だ」
「うまくいったみたいです。マサアトさん。それを少しなめて見てください」
ん? ショウユをなめる?……なんでそんなことを……と思いながらも、指先で小皿の上の黒い液体をちょんと触り、口に運んでみたけれど……うわっ……なんだこりゃ。
「甘いでしょ?」
「これ……ショウユじゃなくて、黒蜜みたいですよ! 何ですか、これ?」
「『ソリッドコンバート』(素材反転)だ。マテリアル(物質)やソリッド(素材)としての性質や効果を、そっくり逆方向に反転させる技術だな。こつをつかめば、非常に簡単だ。まずは、これを練習して欲しい」
この技術には驚いた。確かに驚いたし、面白いとも思ったけれど、どこか釈然としなかったのも確かだ。こんな技術が一体何の役に立つのだろうか。食塩というソリッドを、わざわざ苦労して砂糖に変換する位なら、初めから砂糖を買ってストックしておけば済む話じゃないか……「それが論理」だと思うのだけれど……しかも、僕はこれを最優先で習得しなければならない……のか?
「それから少年、もう一つアドバイスできることがあるとすれば、これは、学問というよりも、あらゆる問題解決にあたって言えることだが……」
「はい……」
「まず、情報を整理し、無駄をそぎ落とすこと。問題点を分析し、細分化すること……だな」
「はあ……」
情報の整理と無駄のそぎ落とし。問題点の分析と細分化。なるほど、と実に納得してはみたものの、後でよくよく考えてみると、具体的にはまるでピンとこなかった。どうも、僕はこの人に煙に巻かれているような気がしてならない。
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