Ⅷ:C.M.Wのミリー
C.M.Wのミリーはいつもの通り、俺が玄関を開けるとすでに入ってすぐのリビングで待っていた。舌足らずな調子で「
C.M.Wは外観も内面の人工知能の性格も
このちょっと子供っぽい、うまく舌が回らない喋り方は、結局めんどくさがって、施した調整をほとんど購入時のデフォルトに戻した中で、数少ない、俺が自分で選んだ設定のまま残したものだった。俺が、長身でスタイル良く、細い釣り目立ちから野生の獣のように色気が匂い立つC.M.Wでなく、小柄に丸顔、大きな眼の今のミリーを購入した時、マックは半ばからかうように、「お前は保護欲が掻き立てられる女が好きなんだな。抱くにしても、ぎゅっと守るようにして自分の体で覆って掻き抱いてやる、そんな対象としての女が。ちょうどブグローが描いたうちのいくつかの女のようにな」と上機嫌ではやし立ててきたが、俺がミリーを(もちろん名前は自分で後から決めて設定したものだ)わざわざこんな口調の喋り方に設定したというのも、たぶんマックが言う通りの理由からだろう。およそ探偵稼業という不安定で、真っ当ともいえない、社会の横道に外れた生き方をしている俺にとっては何といってもバランスを取るため、身近にこういうか弱さを感じさせる‘女’を置く必要があるのかも知れなかった。
俺は胸に飛び込んできたミリーを乱暴に寄せるようにして掻き抱くと、目を閉じて顔を上げる相手に激しく
1分ほどの情熱的な
「コーヒーがもうすぐ沸くけど飲む?」
笑みを浮かべたまま、また舌足らずな調子で可愛らしく言う。
「ああ、頂こうかな」
俺は靴を脱ぐと一歩上がった
俺が広々とした
「今日はこれからどうする?」
テーブルの向かいの席に着き、自分も同じように入れたコーヒーをすすりながらミリーがややうつむけた顔から上目遣いにこっちを見ながら言う。俺の買った
「いや、30分ほどしたらまた出なきゃいけないんでね」
「そう……」
ミリーが目を落とし、寂しそうな表情を見せる。目の上あたりに愁いを帯びた翳りが落ちた。白い肌と小さくよく通った鼻に似合う哀愁だ。本当によく出来ている機械妻ワイフだった。
二口目をすすろうとしたところで、インターフォンが鳴った。
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