第6話 敵襲来 そして始まり
「アイト、アイト」
声がして目を開けるといつの間にかブラマン邸の庭に止まっていた。
「もう着いたのか?」
「そうだよ、アイト、早く荷物もって」
そういって前の助手席に居たルドルが席を降りてドアを閉めた、運転席のブラマンは居なくなっていた、アイトは眠たい目を擦ってから息を吐いた。
「アイトさん」
隣から女性の声が聞こえてそちらを見ると、リンがまだ隣に座っていて外を見ていた、リンのしゃべっている声を久しぶりに聞いた気がする。
「今日はありがとうございました、助けていただいて・・・・」
「気にするなよ、俺は気にしてないから」
「わかりました」
返事をするとリンはトラックから降りてしまった。
「『わかりました』か・・・・」
一人つぶやいて思わず笑ってしまったがドアを叩く音が聞こえて振り返るとルドルが外から見ていた。
トラックから降りて荷物を降ろすために荷台に回るとルドルが後を着いて来た、荷台に残っていた牛乳が入った二リットル入りのビン二つを左右で一つづつ持った。
「ねぇアイト、さっきリンと何かしゃべってた?」
「しゃべってたけどそれがどうした?」
「何をしゃべったの?」
アイトはビンを落とさないようにしながら玄関のほうに早歩きで向かった。
「昼間の礼だけだよ、他はしゃべってないさ、ルドルも見てたんだからそんな暇な無かっただろ?」
「そっか・・・・」
ルドルが呟きながらついてきた、アイトは玄関に着くとドアが閉まっていた、手が塞がっているので開けて入ることができないのでルドルに言った。
「ルドル、ドアを開けてくれ」
ルドルが玄関の扉を開けたので家の中に入るとシーヴァとユミとブラマンとリンが四人で話していた。
「これは何所に置けばいい?」
アイトが言うと四人がこちらを見てユミが言った。
「お帰りなさい、アイト、ルドル」
「ただいま」「ただいま」
後ろからルドルが返事をしてアイトも言った。
「それはキッチンに置いて頂戴、後で使うから」
「わかりました」
キッチンに向かうと扉が閉まっていたが、ルドルが気を利かせ先回りしてドアを開けてくれた。
「すまんな」
洗面台の近くにビンを両方とも置いて玄関に戻るとユミがアイトを見た。
「アイトさん、変なのに絡まれたリンを助けてくれたんだってね、ありがとうね、今飲み物を入れるから何がいい?」
「それならタークをお願いします」
タークはコーヒーに近い飲み物だ。
「ならすぐ準備するからリビングで待っていて、みんなの分も用意するから」
ユミがキッチンに入っていく。
「私も手伝います」
言いながらシーヴァがユミの後に続いてキッチンに入っていくのでアイトは借りていたカウボーイハットとサングラスをはずしてブラマンに差し出した。
「ありがとうございました」
「いや、いいよ、君が持っていてくれ今後も使うことになるだろうからな」
「そうですか、なら俺は荷物を部屋に置かせに行かせてもらいますよ」
返事を待たずにアイトは二階に上がり自分の部屋に入るとポケットから拳銃を取り出して引き出しに入れ、ブラマンからもらった金とカウボーイハットとサングラスをとりあえずタンスの上に置いて部屋から出て階段を下りリビングに向かった。
リビングのテーブルは今この家に住んでいる全員が一度に使用できる大きさでユミとシーヴァ以外は全員が椅子に腰をかけていた。
ブラマンは運転で疲れたのか目を閉じてうとうとしていてリンとルドルは先程アイトがルドルに買ってあげた雑誌を一緒に見ていて楽しそうに話していた。
リンから遠い席を選んで座りリビングの窓から見えるユミが家庭菜園で育てている野菜をボーっとしながら見ているとドアが開く音がして二人がトレイの上にコップを持って入ってきた、アイトとブラマンの前にはタークが置かれ、シーヴァとリンとユミとルドルの前にはチアと呼ばれるほぼ紅茶の甘い飲み物が置かれてユミとシーヴァも席に座り全員が一口飲んだのを見るとユミが言った。
「それで大丈夫だったの?リン、怪我はしてない?」
「はい、すぐに助けてもらいましたので」
「そうなのよかったわ」
アイトはタークを更に一口飲んでから言った。
「ここら辺の治安って悪いんですか?」
するとブラマンがタークの入っているカップを机において言った。
「半年前ここで過ごしたときはそんなことは無かったんだがな?どうなんだ?ユミ?」
「私もそんなことは聞いたことがありませんよ、やはりブールボン皇国との戦争になりそうだから国境沿いの人たちが内陸部に逃げてきているんじゃありませんか?」
「そうなのかな・・・」
ブラマンが呟くと沈黙が流れた、いつの間にかリンとルドルも話を聞いていたようで二人とも少し落ち込んでいるようであった、リンはジロンのことを心配でもしているのだろうか、ルドルも怖い目にあったから仕方が無いだろう。
「ブラマン、この家に武器はないのか?」
言った瞬間にみんなが一斉にアイトを見た。
「いや、俺の国では自分の家族の身を守るために一つくらいは武器があったんだが、この国はどうなのかと思ってな、ルドルと商店街を見たときも武器を売っている店が無かったからな」
「アイト君の国では武器を売っているのかね?」
ブラマンが興味深そうにアイトを見たのでタークを一口飲んでわざと時間稼ぎをし嘘を考えながら言った。
「俺の住んでいた日本という国では自分の身は自分で守るのが当たり前だったから兵士が持っているような銃も店で売っていたんだが、フォートレー王国では売っていないのか?」
「銃を持つことはフォートレー王国でもできるんだが、厳しい審査が必要になってくるからさっき行ったような小さな商店街では売っている店が無いだけで、大きな町の商店街に行けば売っている店があるよ」
「そうなのか」
相槌を言うとカップを置いてユミが言った。
「そうなのよ、それにこの家にも何十年前のかしらね、息子達が買った銃を護身用として取ってあるんだけど使えるか確認したほうがいいかしら?」
「あぁ、そのほうがいいかもしれないな」
この家にも銃があるのか?なら後で使い方や整備の仕方を教えてもらいたいな、アイトは自然な感じで言うためにとりあえず目の前のタークを一口飲んだ。
「ブラマンさんの息子さんって今何所にいらっしゃるんですか?」
シーヴァが言うとユミがつまらなそうに言った。
「二人とも結婚して遠くの町で家族と暮らしているんだよ、こっちには全然帰ってこないんだから全く」
「そういうなよ、向こうのお嫁さんと仲良くやってるだけいいじゃないか」
不満そうなユミにブラマンが苦笑いをしながら言いそれにシーヴァとユミがブラマンの息子について話し始めてしまい、銃の場所や整備の仕方を教えてくれというような雰囲気ではなくなってしまった、リンは時折相槌を打ちルドルと雑誌を見ながら楽しそうにしていた。
黙って聞いていたがブラマンの息子達は二人とも医者ではなくて兄のロットは三十五歳で薬品系の職業といっていたのでたぶん薬剤師だろう、同い年の女性と結婚をして仕事をしているらしく子供もいるらしい。
下の息子はリチイといってロットの五つ下の三十歳で三つ年上の人と結婚をしたらしい、仕事は機械のエンジニアのようなことを言っていたが何の機械のことだか全く分らなかったが、まだ子供は居ないということが分った。
アイトは適当に話をあわせていると夕食を作る時間になり、ユミとシーヴァとリンがキッチンに向かったのでルドルをブラマンにませて自分の部屋に戻った。
ベットに倒れて瞼を閉じて考えた。
(銃が売っていてこの家にもあるなら使い方や整備の仕方を聞く機会がありそうだ、だが俺は世話になっている身だからできるだけ自然な流れで聞ければいいが、今日銃の事をこれ以上聞くのはブラマンたちにあやしまれるのでやめておいたほうがいいだろう)
食事を終えてシャワーを浴びて自分の部屋に戻ろうと階段を上がっていた。
「アイト君ちょっと良いかね?」
足を止めて振り返るとブラマンが立っていて階段を上っているアイトを見上げていた。
「別にいいですけど・・・」
階段を下りてブラマンについて行くとリビングの扉を開けて中に入るとシーヴァとリンが窓際のソファに座って話しているのがその近くでルドルが本を読んでいるのが見えた。
「我々はテーブルでいいね」
「はい」
アイトはテーブルの椅子に深々と座るとブラマンはキッチンのほうに消えていったので黙って座ってシーヴァとリンを見ていると二人は姉妹のように仲良く話しているのが見え、アイトは刀や拳銃と一緒に返してもらい、なくさないように首からたらしているペンダントを開いた。
そこにはここに来る前に見たときと変わらない家族の幸せそうな写真が入っていた、家族を殺した野々村一家を殺した天罰でこんな世界に来てしまったのだろうか、だが俺は野々村一家を殺したことは何も後悔していない。
元の世界に戻っても俺はどうせ警察に捕まって刑務所に送られるだけだ、今の暮らしもなかなか悪くない、むしろチャンスなのではないかと思い始めていた。
目の前にワイングラスみたいな小さなグラス二つとビールビンのようなものをテーブルの上に置きアイトの目の前に座るとビンを持って蓋を開けて中の液体をグラスに注いだ。
ビンの中の液体は黄色い色をしていて一つを差し出してきたので受け取ってグラスを鼻に近づけて匂いを嗅ぐと甘い匂いがした。
「蜜酒だよ」
「蜜酒ですか・・・・」
ブラマンは自分のグラスに入っている蜜酒を飲んだので、アイトも毒が入っていても被害が少ないように一口含んで口の中で転がしてから飲んだ。
「甘いですね・・・、こっちの酒はほとんどが甘いんですか?」
笑いながらブラマンが答えた。
「いや、これが甘い酒だからだよ、他にもいろいろな酒があるが、他のも飲みたいかね?」
「そういうわけじゃないですよ、ただ気になったので聞いただけですよ」
安全そうなのでアイトは飲む量を多くすると久しぶりの酒なので体の中が一気にあったかくなる感覚があった。
「久しぶりに飲みましたね」
「そうだろ、私も久しぶりに飲んだよ」
ブラマンは言いながらグラスの中の酒を一気に飲んで空にしたのでアイトがビンを取り蜜酒を注いでやった。
「すまないね、いつもは飲まないのだがね・・・」
周りを見るとブラマンの奥に居るシーヴァとリンが振り返りこちらを覗いているのが見え、アイトが見ていることに気が付くと前を向いたので思わずアイトは苦笑いをした。
「どうかしたかね?」
「いえ、何も・・・・・、それよりもどうしたんですか?珍しいですね」
アイトが軽い感じで笑いながら聞いたのだがブラマンは蜜酒を一口飲んでから意を決したように言った。
「アイト君は銃の事を聞いたが銃を手に入れようと思っているのかね?」
ブラマンの言葉に一瞬胸が高鳴ったが平静をよそおって答えた。
「わかりませんね、ただ聞いただけですよ、今の所は・・・」
「今の所はですか・・・・」
するとブラマンは黙って何かを考え始めたのでアイトは言った。
「そんなに深く悩まないでくださいよ、ブラマンさんは知らないかもしれませんが、俺はコンデ人に賞金を賭けられているようなんですよ、悪いですがこのままじゃコンデ人がこの家の中に入ってきたら何もするまもなく殺されますよ、俺だけじゃなくて皆さんも」
「そうだね・・・・」
なにか言いたげであったがアイトは続けた。
「それに早めにブラマンさんに相談しようと思っていたことがあるんですよ」
「何だね?」
「ブラマンさんやシーヴァたちは休みが無くなればフォレスト城に戻るんですよね」
「そうだね、もうすぐ戻ることになるかもしれないね」
「ならそのとき俺はどうなるんですかね?」
ブラマンは黙ってしまったのでアイトは目の前のグラスに入った蜜酒を一気に飲んで続けた。
「わからないですか・・・・」
「すまいな、アイト君、だが誰も君を悪いようにはしないさ、君はファル様を二回救っているんだからね」
「二回?」
林の中での事と城でコンデ人を殺した事か。
「だから後のことはあまり心配しなくてもいいよ、私も次連絡があったら聞いておくよ」
「そうですか、すいません」
アイトのグラスが空になっていることに気が付いたブラマンがグラスに酒をついだのでビンを受け取ってブラマンのグラスに注いだ。
すると本を読んでいたルドルがブラマンの隣に座ってグラスを奪った。
「何を飲んでるの?」
「酒だよ、ルドルはまだ飲んではだめだよ」
「分ってるよ、それくらい」
ルドルは少し不満そうな顔をしていってからアイトを見た。
「アイトはいつもその傷だらけのペンダントをつけているけどどうしてなの?新しいの買えばいいじゃん?」
ルドルが体を伸ばしてペンダントを掴もうとしてきたのでルドルの手を掴んだ、子供の手らしく柔らかかった。
「これには家族の写真が入っているんだよ、俺の命の次に大切なものだ」
「見るくらいいいじゃん見せてよ」
するとブラマンがルドルを抑えた。
「はしたないぞ、それにアイト君だって嫌がっているじゃないか」
「えーっ」
ルドルが不満な声を上げたのでペンダントを首からとってルドルの前に置いた。
「いいの?」
「あぁ、必ず返せよ」
「ありがとう」
返事をするとルドルはペンダントを開けて中にあるアイトの写真を見た。
「すごい」
ルドルが呟くと隣のブラマンも写真を覗き込んでいった。
「本当だ、これがアイト君の家族なのかね」
「はい、そうですよ」
アイトが返事をするとソファに座っていたシーヴァとリンがやってきてシーヴァがルドルの持っているペンダントを覗き込みながら言った。
「これがアイトさんの家族なの?やっぱりみなさん髪の毛が黒いのね、ほらリン」
シーヴァが言うとリンもペンダントを覗き込んだ。
するとブラマンがアイトに向かって言った。
「小さい男の子がアイト君で女の子が妹さんかね?」
「かわいいわね」
シーヴァも微笑んでこちらを見た。
「はい、そうですよ、それは私が七歳で妹が三歳の時の祝いのときの写真ですよ」
「アイト君も家族に会いたいだろう?早く自分の国に帰らないとな、そういえばアイト君は結婚しているのかね?」
思わずブラマンの問いに笑ってしまった。
「どうしたのかね?」
「いやね、ブラマン先生が結婚しているのかね?って聞くまで自分が結婚しててもおかしくない歳になっていることを忘れていましたよ」
しゃべりすぎたと思い蜜酒を口に運ぶと写真を見ていたルドルが言った。
「アイトの妹は結婚してるの?」
笑いながら頭を振って言った。
「いいや、死んでるからできないよ」
するとルドルが気を使った。
「ごめんなさい」
「いやいいんだ、さっきブラマンが家族に会いたいだろうと聞いてきたときに言うべきだったが、その写真に写っている家族は俺以外は殺されて死んでいるんだ、それに残っている写真はそれだけなんだ」
するとルドルがペンダントを閉じて差し出し、アイトは受け取るとペンダントを失くさないように首にかけた。
「だから俺は日本にあんまり戻りたいと思ってはいないんだ」
「じゃあ、この国で暮らしなよ、いいじゃん」
ルドルが気軽に行ってこっちを見たがアイトは返事をしないで蜜酒の一気に飲みグラスを持って立ち上がった。
「少ししゃべりすぎてしまったようですね、今日はもう失礼させていただきます」
返事を待たずにコップをキッチンに持って行き洗って戸棚にしまい二階の自分の部屋に帰るために階段を登ろうとしていると風呂から上がったユミとすれ違った。
「アイトさんもう寝るの?」
「はい、おやすみなさい」
階段を上がって二階の自分の部屋に向かった。
扉の前に来るとふと自分の部屋の中から何かが動く音が聞こえたような気がして足を止めて周りの音を聞いた。
だが、下でブラマンたちが会話したり歩いている音以外は他に何も聞こえなかった。
「馬鹿か、俺は」
呟いて部屋のドアを開けて中に入り電気をつけ部屋の中を見渡したが特にへんなところはない、ドアを閉めてペンダントを首からとりテーブルの上に置きベットに潜り込んでライトをベット近くのスイッチで消して目を瞑った。
瞼を閉じるとチンピラを鉄の棒で殴ったシーンが脳裏によみがえった、興奮をしているのか久しぶり酒を飲んだせいかなかなか寝付けそうに無い。
アイトは目を開けて天井のライトをつけようとベット近くのスイッチに手を伸ばすと何かが動き床がきしむ音がしてそちらを向きながらスイッチを入れるとそこには顔をマスクで隠した不審者が立っていた。
思わず固まってしまい助けを呼ぶ声が出なかった、不審者は腰からナイフと取り出してベットに飛び掛ってきた。
思わす布団ごと足を上げて不審者の体を受けとめてそのまま左の窓側に蹴り飛ばしてベットを降りて刀を取りにいきながら叫んだ。
「ブラマン!敵だ!ブラマン!」
アイトは刀をすばやく掴んで振り返ると侵入者がナイフを突き出してアイトに向かって突き進んできた。
鞘を抜く間も無くナイフを持っている腕に日本刀を鞘ごと振り下ろすと不審者の腕にあたりナイフを落とした。
さらに不審者の頭に一発打ち込むとその場に倒れアイトは日本刀を構えたままでいるが不審者は倒れたまま動かなくなってしまった。
アイトは不審者を近くにあった枕の布を裂いて紐を作り不審者を縛り上げて腰につけている銃を奪って地面に寝かせると下から爆発音が聞こえた。
「どうなってるんだ?」
日本刀をベットの上に投げ出して奪った銃と弾のストーンをポケットに入れて足音を立てないように部屋ドアを開けて様子を伺ったが階段の下の一階がなにやら騒がしい、どうやら一階にいたブラマンたちになにかあったようだ。
「どうする?」
自分の部屋を見渡したが武器になりそうなのは刀とニューナンブ拳銃と今奪ったこの良く分らない銃だけであった。
アイトはテーブルの上の形見のペンダントをつけて部屋の電気を消してゆっくりと窓に近づいて外の様子を見ると庭に二人の黒ずくめのサブマシンガンのような銃を持った兵士が二人周りを警戒しているのが見え、一人がこちらを指差して何か言いもう一人が家に向かって歩いてくるのが見えた。
(どうやら二階にいることがばれたようだ)
すぐに部屋を出ようと扉を開けるとすでに一階から階段を上がってくる足音が聞こえて扉を閉めた。
ベットの上にある日本刀を取り今度は鞘から抜いて扉の隣の壁に張り付き入ってきた瞬間に斬り付けるしかない。
恐怖で心臓の鼓動が早くなってくるが足音が近くなると必死に呼吸を止めて日本刀を振り上げて構えた。
足音はいつの間にか消えていて自分の心臓の音が外に漏れるのではないかと思うくらい頭の中で響いている。
ドアがゆっくりと開かれた。
「おい、誰か倒れているぞ」
「調べてみろ、気をつけろよ」
「あぁ」
ブラマンではない男の声が聞こえてたと思うと銃を持った手が部屋の中に入ってきてアイトは迷わず力いっぱい刀を振り下ろすと銃を持つ手が綺麗に切れ、切られた銃を持った腕が地面に落ちるのと同時に悲鳴が上がった。
「ギャー!!」
切り口から血を滴らせながら落ちた腕を拾おうとして入ってきたのを蹴飛ばして部屋から出るともう一人は怯えた顔でアイトを見ると銃を向けようとしたがそれよりも早く男の胸を刀で突き刺し男が階段の手すりに背中を打ち付けるとアイトは刀から手を離して思いっきり蹴飛ばすと手すりが壊れて刀が刺さったまま一階に転落して体が地面に打ち付ける鈍い音が響いた。
「何事だ?」
「どうなってるんだ?」
階段の下の一階から男の怒鳴り声が聞こえアイトは奪った銃を取り出して安全装置をはずし切り落とした腕を持ち必死に切り口にあて元に戻そうとしている男に向けて二回引き金を引き撃ち殺してから階段の下に向けて構えた。
「おい、どうしたんだ、しっかりしろ!」
叫び声が聞こえると階段から突き落とした黒ずくめの兵士にもう一人の全身黒ずくめではあるがマスクを付けていない金髪の男が近づくのが見えた。
「おい、二階に敵がいるぞ」
アイトは二階を見ようとすると男の頭を狙って引き金を引くと男は地面に倒れたが、肩に当たったようで地面を這って階段の影の撃たれない位置に逃げようとしたのでさらに背中に二発撃ってやるとその場から動かなくなった。
「おい、それ以上抵抗すると人質を殺すぞ!」
また別の男の声が聞こえて銃を握り直したがぬるぬるとしたので銃を左手に持ち直してみると銃を握っていた右手の手の平が手汗が光るくらい掻いていて銃のグリップもぬれて光っていたので両手を自分の着ている服に擦り付けて汗を拭った。
「おい、聞こえているのか?」
返事をせずに立ち上がるとできるだけ足音を立てないようにゆっくりと階段を下りていった。
階段を下りてリビングを覗くとブラマンたちがすでに捕まり手足を縛られてリビングの中央に座らせられているのが見え、その周りに黒ずくめの銃を持った男五人居て一人がこちらを見たのですぐに頭を引っ込めたが発砲音と共に階段が削れ木の粉が目の前で舞い思わず目を閉じて階段に背中をつけた。
「そこにいるんだろ、出て来い!」
(何か考えるんだ!冷静になるんだ!俺)
自分に向けて心の中で何回も叫んだ、何か使えるものはないかと思いまわりを見渡して死体に刺さったままになっている刀が目に入り柄がつかめそうで手を伸ばした。
発砲音と共に空気を切る音が聞こえ手を引っ込めるとリビングとは反対側の玄関のドアに穴が開いた。
「うわぁ、腕が!痛い!助けてくれ」
銃弾は当たってないがやつらを油断させるためにワザと叫び声を上げた、苦しんで死んだ野々村一家のことを思い出しながら叫んだ。
「痛い!痛い!」
叫びながらわざと階段や壁を蹴りつけて音を出してのた打ち回っているよう装うとそれにつられて歩いてくる音が聞こえ、うなり声を上げて足で壁や地面を蹴り音を立たせながらもリビングのほうに銃口を向けた。
近づいてくる男が持っている銃の銃口が見えたと思うとすぐに男が現れたので引き金を何回も引いた。
発砲音が何回も響き自分の発砲音でない音も聞こえてアイトは背中に寒気が走りまわるのを感じて思わず目を瞑って身を震わせた。
引き金を引くのをやめて体に意識を集中して体に痛みが無いことを確認してゆっくりと目を開けると銃口の先に死体が一つ出来上がっていた。
「くそ!これ以上抵抗するとお前の仲間を一人殺すぞ!」
リビングから声が聞こえたので今度は答えた。
「誰を殺すんだ!」
「この婦人を殺させてもらおう、さあ、助けを乞うんだ!」
「たすけてちょうだい!」
聞き覚えのある女性の声でたぶんユミだ。
「わかった、待て待て」
見捨てて逃げようか迷っていると背後で物音がして銃を構えて振り返るとキッチンのドアから黒服の男が出てきたと思うと瞬く間に近づいてきて拳銃を蹴飛ばされて手の平から銃が飛んで行き仰向けに倒れ刀を掴もうとしたがそれよりも早く男が動き男がアイトの胸を思いっきり踏み潰されアイトは肺の息が搾り出されたと思うと男の拳がアイトの左頬に当たり痛みが頭に抜け視界がぼやけたと思うともう一発左頬に食らって目が回った。
「捕まえたぞ、誰か手伝ってくれ!」
殴られた所がジンジンと痛むのと同時に口の中に血の味が広がった、どうやら殴られたときに口の中をきってしまったようだ。
「おい、立て!」
男の声が聞こえたと思うと腹を蹴飛ばされ胃液が逆流したのが口の中が苦く咽が焼けるようであったが何とか立ち上がった。
「こっちに来るんだ!」
リビングの真ん中で人質になっているブラマンたちのところに行くと、ブラマンたちは両手足を縛られていて地面に座らせられていが、その中にはルドルの姿が無かった。
隠れているのかもしれないので何も言わないで歩いていくと、ブラマンたちを見張っていた一人がアイトの目の前に現れていきなり頬を殴られた。
「こいつがコンデ人を殺してファルを救った男なのか?ただの卑怯な男じゃないか?本当にお前がコンデ人を殺したのか?」
アイトと同じくらいの背の金髪の男が睨んできた。
「人違いさ、俺は関係ない」
笑いながら言うとまた頬を殴られて口の中の血の味が強くなったが、さらにニヤニヤしながら男に向かって言った。
「コンデ人じゃないが、俺を殺して賞金がもらえるのか?」
「賞金?何のことを言っているんだ?」
「おい、余計なことを言うな!」
アイトの後ろの男が注意するように言うと前にいる金髪の男が言った。
「いいじゃないか、どうせこいつら殺すんだろ?」
「いいから黙れ、出ないとお前を罰を与えるぞ!」
後ろの男が声を落として力をこめていると金髪の男はおとなしくなり道を開けた。
「威勢のいいのは最初だけか、小物だな」
アイトが呟くと道を開けたはずの金髪の男が目の前に立ちはだかった。
「もう一度言って見ろ」
金髪の男が鼻息荒く睨んできたので言った。
「何も言ってないよ、馬鹿野郎」
すると目の前の金髪の男がアイトの胸倉を掴んだ。
「おい、何度も言わせるな!」
アイトの後ろにいる男が怒鳴った声が聞こえて頭に響いた。
すると突然外から発砲音が聞こえてきて中にいる黒ずくめの男達は体を硬直させてあたりを見渡し、ブラマンたちは地面に張り付こうと身をかがめた、アイトはチャンスを逃さず一瞬しゃがんで足のばねを利かせて真後ろに飛んだ。
ちょうど真後ろに居た男の体に後頭部にぶつかり重い痛みが走ったが、目の前で睨んでいた男があっけに取られている表情が見えて傑作だ。
そのまま地面に倒れ下敷きにした男が小さく呻くのが聞こえ、目の前の金髪の男がすぐにアイトに銃を向けてたが下にいる仲間ごと撃ち抜くことに気が付いたのか引き金を引くのをためらった。
アイトは下敷きにいている男の手の指がありえない方向に曲がるのも気にせず強引に持っている銃を奪い目の前にいる銃の引き金を引けない金髪の男に向けると言った。
「撃つんじゃない、この男が死ぬぞ!」
「お前が死ぬのが先だ!」
「やって見ろ!」
言いながらアイトは立ち上がり目の前の男に銃を向けながら倒れている男を引っ張り上げて左腕を首に巻きつけて盾にして玄関に向かって男を引きずるように後ずさりをした。
「それ以上動くんじゃない、こいつがどうなってもいいのか?」
別の黒ずくめの男がブラマンの頭に銃口を突きつけて叫んだ。
「アイト君、私のことはいい、ルドルを助けに行くんだ!」
「黙るんだ、黙らないと撃つぞ!」
黒ずくめの男が銃口でブラマンの頭をつつくと隣にいるユミが叫んだ。
「やめて!」
言いながらブラマンに銃口を突きつけている男に懇願したが、もう一人の黒ずくめの男がユミを蹴飛ばすとユミは地面に倒れて啜り泣きを始めたがアイトは言った。
「悪いが俺は逃げさせてもらうぜ、ブラマンには悪いがルドルは他の奴に助けに行くように言っておくさ」
「お前、コンデ人を殺してファルを救った者じゃないのか?」
盾にしている男が言ったのでアイトは笑いながら答えた。
「人違いさ」
アイトは盾にしている男の頭に銃口を突きつけながら後ろ歩きで下がると人質にされている男が叫んだ。
「俺ごとこいつを撃ち殺せ、逃げられるぞ!」
誰かが叫ぶ声が聞こえると足に激痛が走りすぐに足を動かそうとしたが動かない、一瞬下を見ると男が足を思いっきり踏み潰していた。
「糞!」
言いながら踏みつけている足の膝を狙い引き金を引くと発砲音と同時に足の踏みつける力が弱くなったので足を引っこ抜いた。
ブラマンたちのほうを見ると先程アイトを殴った男がこちらに銃口を向けていて発砲し近くを銃弾が通り風を切る音が聞こえた。
(野郎、お前だけは殺す)
右手に持つ銃をその男に向けようとするとリビングの窓が割れる音が聞こえ窓際に居た男が血と脳漿を撒き散らしながら倒れブラマンたちの周りに居た黒ずくめの男二人もほぼ同時に倒れた。
「どうした?」
アイトに向けて銃口を向けていた男が周りの異変を感じて仲間を見るために視線をはずし、アイトはすばやく銃口を男に向けて引き金を引くと男に銃弾が当たりよろめいたが、すぐにアイトを睨み銃口を向けようとしたのでさらに二回引き金を引くと男は銃を暴発させながら仰向けに倒れた。
アイトは周りを見ると部屋の中に居た黒ずくめの男たちは全員地面に倒れており、盾にしている男が暴れて叫んだ。
「どうなってるんだ、誰かいるか!俺だ、ノブテルだ、返事をしろ!」
「うるさい、黙れ!」
アイトが言いながら男を地面に突き倒して銃で負傷した膝を思いっきり踏みつけると膝の関節が砕けてぐしゃぐしゃになる感覚が足の裏から伝わってきた。
「アイト君、早く縄を切ってくれ」
「わかった、急かすな」
男が動けなくなったのを確認するとアイトは階段の下にある死体に刺さったままになっている刀の所に行き、刀の柄を掴んで引き抜こうと力をかけたが、全身のいたるところが痛んで思わず柄から手を離した。
背後でガラスが割れる派手な音が聞こえたと思うと、ブラマンの怒鳴る声が聞こえた。
「今度は誰だ!お前達は!」
急いでアイトが振り返るとリビングの窓から迷彩を着た男達が窓ガラスを割り踏み潰しながらリビングに入ってくるのが見え、急いで銃を向けて引き金を引こうとした。
「まて、撃つんじゃない」
背後から男の声が聞こえてアイトは体が固まった、もう確実に殺されると思うと自分の心臓の鼓動が頭の中に鳴り響いた。
「武器から手を離してください、それに隊長は武器を下ろして彼らに説明してあげてください」
背後の声がすると窓から入ってきた男たちが手に持っていたサブマシンガンのような銃を降ろし、その中のスキンヘッドの男がブラマンを見て言った。
「私はあなた方を守るよう命令されているものです、大丈夫ですか?」
スキンヘッドの日焼けをしている隊長と呼ばれた男がブラマンに手を差し出し一緒に入ってきた迷彩服の男達がブラマンたちの手足の紐を解くのを見ていると肩を叩かれて振り返るとアイトより若い二十代の赤い髪の毛をした男が真剣な顔をして言った。
「落ち着け、俺達は仲間だ」
赤髪の男の声を聞いたとたんに深いため息を付いて銃を地面に投げ捨てた。
「ユミさん!しっかりして!」
「リン、タオルを持ってきてくれ!早く!」
シーヴァとブラマンの叫ぶ声が聞こえて振り返るとブラマンとリンが倒れているユミを囲んでいて手と足が自由になったリンはアイトの隣をすばやく抜けてキッチンに向かっていった。
「おい、早く手当てをするんだ!」
「はい」
スキンヘッドの隊長が言うと近くに居た兵士が背中のバックを下ろして中身をあさり始めた。
「どうなってるんだ?」
アイトは急いでブラマンに近づいていきユミを見た。
ユミは腹部から血をあふれて傷口を押さえているブラマンやシーヴァの手も真っ赤になっていた。
(どうしてだ?誰もユミに向けて銃を撃っていなかったのに・・・・)
「どうしたんですか?」
赤髪の男がいつの間にか背後にいて仲間に聞いた。
「どうやら、先程撃ち殺した奴が死ぬときに撃った銃弾が当たったみたいだ」
(糞、俺が撃ち殺した男が撃った銃弾かあったのか・・・)
罪悪感で心が痛んだ。
「アイトさん・・・・」
ユミが弱弱しい声で薄目を開けてアイトを見ていた。
「大丈夫か、ユミ、俺が助けるから大丈夫だ」
ブラマンが必死に呼びかけるとユミは顔を強張らせながら笑った。
「私は大丈夫、それにこうなったのはアイトさんのせいではないわ、私の運が悪かったの」
「いや、すまない・・・・」
ユミを見ていると謝らずにはいられない、その間も迷彩服の兵士が注射器を取り出してブラマンに渡すとブラマンがユミの腕に注射器を刺して中の液体を入れた。
「これで少しは楽になるぞ、ユミ」
ユミは深呼吸をして呼吸を整えた。
「あなた、それにアイトさん、お願いがあるの」
「なんだ、何でも言って見ろ」
ブラマンが血まみれの手でユミの手を力強く握るとユミが笑ったが、先程よりも顔が青白くなっている気がする。
「ルドルが黒服の奴らに連れて行かれたの、お願いだから助けてあげて・・」
話を聞いたスキンヘッドの隊長が近くで周りを警戒していた兵士を呼びつけると何かをいったがユミにブラマンが答えた。
「わかった、助ける、助けるよな、アイト君」
「あぁ、助けるよ」
何で俺がルドルを助けなきゃいけないんだと思ったが、目の前で腹から血を垂れ流しているユミにお願いされては断れない。
背後から走ってくる足音が聞こえたかと思うとリンがタオルを山積みにして持ってきてブラマンの隣に置いた。
「これで足りますか?」
「あぁ、十分だ」
リンはユミの撃たれた腹を見た瞬間に固まってしまった。
「おい」
アイトがリンの肩を持って振り向かせて顔を見るとその顔は青くなり体が動かなくなっているようなのでリンを後ろに追いやりユミを見るたがユミの顔色はどんどん悪くなっていった。
「あなた」
「何だ?ユミ」
「だんだん痛みがなくなってきたわ」
「それは薬が効いてきたんだよ、すぐに病院に運んで助けてやるからな」
「いや、私は死にたくないわ、あなた・・・」
ブラマンが泣きながら叫んだ。
「助けるさ、助けるからがんばるんだ!」
ブラマンがユミの手をしっかりと握っているのが見えてアイトは思わず叫んだ。
「おい、救急車とかはいつ来るんだ!?」
するとスキンヘッドが先程呼びつけた兵士が頭を左右に振ったのでアイトはその兵士に近づき胸倉を掴んで睨みつけながら言った。
「どうなってるんだよ!おい!」
すると胸倉を掴まれた兵士は申し訳なさそうに視線をはずして呟いた。
「ここが町から遠すぎるんだ、後二十分掛かる」
振り返りブラマンを見た、ブラマンもユミも地元の人間だから救急車が来るのに時間が掛かるのが分っていたのだろう。
「ならお前ブラマンのトラックを運転しろ、荷台にユミを載せて病院に運ぼう」
アイトが言って周りの兵士を見ると頭を左右に振った、どうやらトラックは動く状態ではないらしい。
「それが使えないなら、お前達がここまで来るのに乗ってきた車かトラックがあるだろ、それに乗っていけばいい」
スキンヘッドの隊長や他の奴らを見るとみんな顔を伏せた。
「どういうことだよ、おい!」
「俺達の仲間はここから逃げていった奴らを追って車に乗っていってしまったんだ・・・」
胸倉を掴んでいる赤髪の男が悔しそうに下を向き呟いた。
(ここで助けが来るのを待つしかないみたいだ・・・、だとするとユミは死ぬ可能性が高い、それはブラマンも分っているのだろう)
胸倉を掴んでいる手を離してアイトはただ黙ってブラマンとユミを見た、二人は子供のことやこれから二人で行きたかった場所のことを話していて、アイトは聞いているだけで胸が痛くなった。
「アイトさん、居る?」
「はい」
返事をしただけで涙が出てきそうだ、こらえてユミに近づくとシーヴァの隣に血に染まったタオルが山済みになっているのが見え、ブラマンの隣にしゃがみこんだ。
「なんだ?ユミさん」
できるだけ深刻そうな顔をしないようにしてユミを見ると顔は完全に青白く唇は紫色になっていて、アイトを見ると力なく笑った。
「アイトさん、ルドルの友達になってあげて、ルドルは誰も友達が居なくて一人ぼっちなのあなたと同じように・・・・、だから約束してくれる?ルドルの友達になっていつでも助けてあげるって・・・」
「わかったよ、わかった、約束するよ」
お願いが多くなっているような気がするが、今は口を挟む雰囲気ではなかった。
「そう、ありがとう」
返事をするとユミはブラマンを見た。
「もうだめみたい・・・・・、目が見えなくなってきたわ・・・・」
「ダメだ、寝るんじゃない、気をしっかりもつんだ!」
ブラマンはユミの顔を何度も叩いたが反応がない、迷彩服の男を見ると頭を左右に振った。
「ユミ、ユミ、ユミ・・・・・」
ユミはブラマンを見たまま固まっていたがその目には生気は無かくもう瞬きをする力も残っていなかった、ブラマンは人工呼吸や心臓マッサージを必死に行ったが、ユミは息を吹き返すことが無かった。
「20時47分死亡確認」
医師のブラマンがユミの死亡を確認するとシーヴァやリンの泣き声が聞こえブラマンも声は出していないが涙を流していた。
アイトは心が痛んで悲しいのだが涙は出なかった、むしろ襲ってきた奴らに対して怒りが湧いてきた、振り返りいつの間にか縛られている足を撃った黒ずくめの男に近づいていき髪の毛を掴んで顔を良く見えるようにするとその男の頬には大きな刺し傷の跡があった。
「お前達は何者だ?」
アイトの問いには答えずただ睨み返してきた。
「おい、ルドルを何所に連れて行ったんだ?おい!」
今度は答えずに黙ってアイトを見て笑い、その顔が頭にきて思わずそいつの腹を強く蹴り飛ばした。
「おい、そいつを傷つけるな」
「あぁ?」
背後から声が聞こえたので振り返るとスキンヘッドの隊長がこちらを見ていた。
「そいつにはこちらも聞きたいことがあるんだ、私が必ずこいつにルドルの居場所を吐かせるから尋問は我々に任せてくれないか?」
「わかったよ、スキンヘッド」
(こいつはくれてやるが上の奴は俺が尋問してやる)
アイトは落ちている銃を拾ってからもう一度つかまっている男を蹴飛ばした。
「アイト!」
背後から怒鳴り声がしたが無視して階段まで移動して行くと刺さったままの刀が目に入り黒ずくめの死体に足をかけて刀を抜き取って階段を上がり二階の自分の部屋の中の腕のない死体と捕まえた黒ずくめの男を見ると気絶から目覚めていて必死に逃げようとして手足を縛る布を解こうともがいていた。
「覚悟しろよ」
聞こえてるのかいないのかわからないが呟いてアイトは部屋の電気を付けた、すると一階で話し声が聞こえるので出入り口付近の腕のない死体を廊下に出し部屋の音が下に漏れないように部屋のドアを閉めたが血の跡は部屋に残った。
「来るな!」
縛られている男が叫んだ声は女の声に聞こえた。
「お前女か?」
アイトが近づいていき頭につけている黒いマスクを取るとそこにはブロンドの髪のショートカットの女で顔立ちがはっきりしていて日本人のような感じでなかなか綺麗であった。
「ルドルを何所に連れて行ったんだ?答えろ!」
死体に刺さっていたのでまだ血が滴っている刀を女の肩に当てたが女はおびえる様子はなくまだアイトを睨んでいた。
「もう一度聞く、ルドルを何所にさらったんだ?」
何も言わないので突きつけていた刀を地面に置いて女の顔を二回殴ったが女はまだ睨んできた。
アイトは思わずため息を付いた。
「仕方が無い、俺は今気晴らしがしたくて仕方がないんだ、お前に早く殺してくれといわせてやる」
そういうと女が何かを呟いた。
「・・・・・」
「はっきり言え、はっきり」
「・・・・・」
何を言っているか分らないので顔を近づけると女がアイトと目が合った瞬間に何かが顔に掛かった。
「クソッ!」
目をふさがれたのでとりあえず目の前の女を殴り飛ばすと、咄嗟だったので力が入り女は何かにぶつかりすごい物音を立てた、アイトは服の袖で顔を拭うと何かいやなにおいがした。
「おいどうした?」
下の部屋で誰かが走る音が聞こえたかと思うと階段を数人が騒がしく登ってくる音が聞こえ、殴り飛ばした女を見ると壁に頭をぶつけたようで額から血を流して倒れていた。
「何の匂いだ、これ」
何回も顔を拭ってにおいを嗅いだがどうやら顔にかけられたのは唾のようであった。
「どうした!?」
背後のドアが開き声が聞こえ振り返るとそこには赤髪の兵士ともう一人の兵士それにリンがいて兵士達が部屋の中に銃を向けていたので落ち着かせるように言った。
「撃つな、撃つな、大丈夫だ」
「何があったんだ?それにその女は?」
赤髪が部屋に入るとすぐに女の存在に気が付いたようだ。
「こいつは下に居た奴らの仲間だ、お前らには下に居る奴を任せたんだから上の奴は俺が尋問をやらせてもらうぞ」
赤髪とその後ろの兵士が部屋に入ってこようとするので立ち上がり前を塞いだ。
「おい、その女も引き渡せ命令だ!」
そういって強引に女を連れて行こうと強引に部屋に入ろうとしたのでアイトは瞬時に作戦を変えていやらしくニヤケて言った。
「わかった、わかった、後でお前達も楽しめるように気をつけるから、二人っきりにしてくれよ、お前ら俺がやってる所を見たいのか?」
含みを持たせて笑いながら言うと赤髪の男が怒鳴るより先にリンが後ろから出てきて怒りの表情でアイトを睨みつけると頬に平手が飛んできて頬を叩かれた。
「あなたのことを一瞬でも頼もしいと思いましたけどそんなのは間違いでした、最低です、最低!」
そういってもう一発頬を叩かれると今までの疲れと痛みで頭がクラッとして思わずしゃがみこんでしまうと、赤髪の男があわててアイトを助け起こした。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
いつもの状態なら五発食らっても大丈夫だが、痛みと疲れがたまっているみたいだ、赤髪はリンをみた。
「リンさん、ちょっとは遠慮してくださいよ」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの」
リンも驚いて固まってしまっていのでアイトはリンを見てはたかれた頬をさすった。
「いいよ、そいつはいつも本気だから面白い」
いってからアイトは笑ったがその様子を見て赤髪があきれたようにため息をついた。
「お前、今そんな余裕ないだろ」
背後で立ちあがろうとする女の物音がした。
「うるさいぞ」
赤髪の腕を払って自分の足で立ち殴り飛ばした女を見た。
「まったく、元気な女だな」
「女?」
リンが女を見ると女もこちらをにらむように見ていたが、何か先ほどと様子が違った。
「リン、リンなの?」
女がリンを呼ぶので思わずアイトはリンを見た。
「ノイちゃん?ノイちゃんなの?」
「どういうことだ?おい!」
叫んだがそれよりも早くリンが動き女に駆け寄って行き助け起こしたのでアイトは隣にいた赤髪を見たが、そいつもわけがわかっていないようだ。
リンを見るとリンは女の手足を縛っている布を解こうとしていた。
「おい、何をしてるんだ、布を解くのをやめろ!そいつは俺を殺そうとしたんだぞ!」
「そうなの?ノイちゃん?」
するとノイと呼ばれた女は殴り飛ばした時にぶつけたのか頭から血を流しながら鬼のような顔でアイトを睨み叫んだ。
「お前が私の父さんを殺したんだ、だからお前を殺しに来たんだ!」
なんだか疲れてくるのでベットに腰をかけてから考えた、俺はこいつの父親を殺したのだろうか?
「お前の父親ってのは日本人か?」
「ニホンジン?そんなの知らないわよ!」
ノイが吐き出すように言うとリンがこちらを見た。
「ノイちゃんはフォレスト城でお父さんと食堂で働いて」
「食堂、食堂・・・・・、思い出した、あの裏切り者の娘か!」
「裏切ってない!お前にだまされたんだ!」
ノイはリンを突き飛ばして立ち上がりアイトに迫ってきたが、すぐに赤髪がノイを突き飛ばした。
「おい、手足の紐がほどけてるぞ!何をしているんだ!」
「でも・・・」
リンは知り合いだからためらっているようであったがアイトは刀を持って立ち上がった。
「お前があの男の娘か・・・名前をなんて言ったかな・・・」
「カズです、カズ」
赤髪がささやいた、そうだカズと言っていた気がする、なら話は簡単だが信じてくれるかどうかを考えるとため息が出るが言った。
「お前コンデ人にだまされているよ、なぁ」
赤髪ともう一人の兵士を見ると、頷いた。
「そんなわけあるか!コンデ人は私を保護してくれて父さんがお前の罠にはまって犯人に仕立てられあげた事を教えてくれたんだ!お前らなんか信じないぞ!」
(思った通りだ、何を言っても無駄みたいだ)
「仕方がない、こんなやつ拷問しても無駄みたいだからこの場で殺そう、どうせコンデ人のやつらもこいつにはちゃんとした情報は教えてないだろう」
ノイとリンのところに歩きだすとリンがノイとアイトの間に立ち塞がってアイトを見た。
「何をするつもりですか!」
「俺を殺そうとしたんだから始末するんだよ、そうじゃなきゃ俺が安心できない、そこをどけ」
刀をリンに突きつけると顔を引きつらせたがはっきりと言った。
「いやです、これ以上友達を死なせたくありません」
アイトは赤髪ともう一人の兵士を見た。
「おい、ちょっとノイを見張っていてくれ、リンちょっと来い」
リンをつれて部屋の外に出てドアを閉めると頭にきている怒りを抑えながら言った。
「おい、おい、お前何を考えているんだ?、友達を助けてたいだ?俺は友達じゃないからノイに殺されてもいいのかよ?薄情だな」
アイトがわざとらしく言った。
「そんなことは言ってません!」
「じゃぁ、どうするんだ?」
リンは背後の部屋を一瞬見てからアイトの目を見た。
「私が説得します」
「説得?できるのか?俺を親の仇と思っているのに?」
「必ずします」
「なら聞くが失敗したらどうするつもりだ?できませんでしたすいません、じゃすまされないぞ?」
リンがもう一度部屋を振り返ってから言った。
「私もノイも好きにしてください」
「じゃぁ、殺してもいいんだな、お前も、大切な恋人に会えなくなるぞ、それが嫌なら今すぐそこをどけ、ノイのために命を張ることはないぞ?」
今度は息を大きく吸い込んでから大きな声で叫ぶように言った。
「はい、いいです、ですけどノイちゃんを説得することができたらそのときは私の言うことを聞いてもらいますからね!、いいですね!?」
リンが力強く言ったが、アイトは冷静に考えていった。
「わかったが、命はやらないぞ」
「私もあなたの命なんていりません!」
「それならOKだ」
リンをつれて再び部屋の中に入って中にいる兵士二人を見ていった。
「お前たち名前は?」
「赤毛がヒデオで俺がモンスです」
赤髪兵士がヒデオといい、日本人みたいな名前だと思ったがそんな感想はすぐに引っ込めて、モンスと名乗った男を見たが赤髪が目立っていたために気がつかなかったがゴーグルを首に掛けていた。
「よし、ヒデオとモンス、お前たち二人が俺たちの約束の証人だ、それでいいな?リン」
「はい」
すると誰かが階段をどたどたと上ってくる音が聞こえたので邪魔されないうちに言った。
「おい、二人とも俺たちは賭けをした、詳しくは今はいえないがな」
「なに言ってるんですか?勝手なことを言わないでください!」
ゴーグルを首に掛けているモンスが声を上げて抗議してきたが赤髪のヒデオが言った。
「いつまでが期限なんです?」
「三日だな」
言いながらリンを見たがリンは何も言わなかったがヒデオが面白そうだと思ったのか笑った。
「できるだけ協力はしますよ、俺たちの利益になるんならね」
「だったら俺が勝つほうに祈っていてくれ」
アイトが笑って言うとヒデオは頷きながら隣にいるモンスのわき腹を肘で突いた。
「わかった、俺もできるだけ協力しますよ、薬で馬鹿になる人を見るのは気持ちよくないですしね」
モンスもうんざりしたような感じだった。
「すみません、無理なお願いを」
リンが言い終わるのと同時に一階から上がってきた兵士が部屋の中に入ってきた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「侵入者を見つけて捕まえたんでこの二人に見張りを頼んだんだ」
すると兵士はノイを見てからヒデオとモンスに言った。
「お前らちゃんと見ておけ、アイトさんは下に来てください、隊長とブラマンさんが呼んでます」
「わかった、お前ら頼んだぞ」
部屋に残っている奴等に言うと上がってきた兵士の後に続いて階段を下りると階段の下にあった死体二つがなくなっていて血溜りだけが残っていた。
「死体はどうしたんだ?」
「死体は臭いが酷くなる前に外に移しましたが、まだ血が残ってるんで床に血の跡が残るかもしれませんね」
兵士は気にする様子もなく淡々と言いリビングに戻っていった、続いてリビングに入ると捕虜にした兵士は上半身裸で椅子に縛り付けられ身動きができないようになりスキンヘッドの隊長ともう一人の兵士が捕虜を見て何かを話していた。
「隊長、連れてきました」
「二階が騒がしかったようだがどうしたのか?」
スキンヘッドの隊長に聞かれるとアイトの前を歩いていた兵士が答えた。
「こいつらの仲間らしき奴を二階で捕まえました」
「本当か?」
スキンヘッドがアイトを見たので言った。
「確かに二階で俺を襲ってきた奴を捕まえたが、そいつはただこいつ等に利用されているだけの馬鹿な女だから尋問しも何もわからんぞ」
いいながら椅子に縛られた男を見ると男は左右の目玉が別々に動き目鼻口から体液があふれ出ていて明らかに異常な状態で思わず笑いながら言った。
「お前らこいつに何をしたんだ?」
するとスキンヘッドが一瞬がアイトが笑ったのをを見て驚いたようだがすぐにその表情を消して言った。
「自白剤を使ったんだよ、こっちも気長に拷問しているわけには行かないからな、だけど強い自白剤を使ったからこの通り馬鹿になってしまったんだ」
馬鹿になった男の顔を手の甲で何回かはたいて見たがまったく反応はなかった。
「おい、おい、こんな奴から何か情報を引き出すことはできたのかよ?」
「もちろん大丈夫だ」
スキンヘッドは男に向かっていった。
「おい、お前名前はなんていうんだ?」
アイトが男を見ると男は口をパクパクさせて小さい声で言った。
「テイド、テイド、テイド、テイド、テイド、テイド、テイド」
そのまま男は水面に浮かんだ餌を食べる魚のように口をパクパクとさせてたまま自分の名前を言いつづけた。
「本当にこの男から聞き出した情報は使えるのか?」
「問題ない、自白剤を使えばうそは言えないし知っていることはすべてしゃべってしまうからな」
「なるほど・・・・」
アイトはまだ自分の名前を言い続けている男に向かっていった。
「お前の仲間に女はいるか?」
すると男は一瞬アイト見たが視線が左右別々に動き始めた。
「いない、いない」
「じゃあ、アイトを襲いにきたのは女は何なんだ?」
「アイトを襲う、アイトを襲う、アイトを襲う、アイトを襲う、アイトを襲う」
同じ言葉を繰り返すだけでわからない。
「質問が悪いんじゃないか?」
後ろにいる兵士が言うので質問を変えた。
「じゃぁ、ノイをどうするつもりだった?」
すると何かうなり始めたので念のために後ろに一歩下がると捕まっている男が言った。
「ノイは、人質だったが、もう使えないので嘘を教えてアイトを殺すように仕向けた」
思わずアイトはため息が出た。
「ノイはお前たちの隠れ家を知っているのか?」
「あんな奴に教えるわけがない、いついついつ敵に捕まるかかかかわからないからな、ななな」
「ここにどうやってつれてきたんだ」
捕虜の男は口から大量のよだれをあふれさえて裸の上半身を伝っていきズボンを濡らした。
「目隠しだ、あいつはここがどこかもわかっていない、アイトが殺されかければ騒ぎになって俺たちが動きやすくなると考えたんだがな、な、な、な、ノイ、ノイ、ノイ」
何かぶつぶつといい始めた。
振り返りスキンヘッドを見てアイトは言った。
「上の女を尋問しても何もわかることはなさそうだな」
「いや、だからといって尋問しないわけには行かないなが、それは後回しだ、お前もルドルを助けに行くのに付いて来てくれ」
スキンヘッドは言いながら手に持っていた銃をアイトに差し出してきた。
「ちょっと待ってくれ」
言ってアイトは近くにあったテーブルの椅子に腰をかけた。
「そんなことより、ブラマンとシーヴァはどうしたんだ?」
スキンヘッドがアイトを睨みながら怒鳴るように言った。
「二人は死んだ奥さんの死体をきれいにしているよ、『血で汚れたままではかわいそうだ』といってな・・・・・」
「そっか・・・」
言ってため息を付くとユミが倒れていたところにある血で汚れた床と山積みのタオルを見た。
(俺はブラマンやユミやリンよりも人の死に慣れてきているようだ、自分で人を殺したことがあるのだから当然か・・・・)
自分という人間に思わずため息が出た。
「おい、アイトとかいったな、お前も死んだ奥さんと約束しただろ?」
声のほうを見るとスキンヘッドの男がいて続けて言った。
「ルドルに我々が味方だと知らせるために誰かに付いて来てもらいたんだが」
アイトはスキンヘッドの男を見ていった。
「俺はぼろぼろなんだ、殴られたりしているからな、付いては行くがルドルの救出はお前たちだけでやってくれ」
「わかった、なら一緒に来い」
差し出されている銃を受け取り体中の痛みを我慢して立ち上がった。
殺人犯の俺が異世界に落ち王の娘を守ることになった!(イヤイヤ)。 @idarimaki
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