第5話 別荘と厄介な女
川べりで草の上に腰をかけながら手に持った釣竿の先にある浮きが川の流れに揺れているのをアイトは黙って見ていた。
今日はまだ周りが暗い朝早くから二時間くらい座って釣りをしているが今のところ収穫はゼロだ、ここ五日間くらいは毎日釣りに来ているが上達しているとはいえない。
思わずため息が出た。
アイト(元黒川)は襲撃があった日から三日後、アイトの安全を図るためといってブールボン皇国とは離れた辺境の地に追いやられていた。
(やっぱり王女のアカリと結婚させてくれって言ったのがまずかったか、だが生活費はもらえて生まれ育った世界とは違うが、元の世界に戻ったところで殺したい奴は殺したしもうやることもないし、待っているとすれば刑務所だけだ、こっちのほうがましだ)
釣竿を上げて餌がついているか確認すると見事に取られていて、餌のない針がただ水にぬれていた。
アイトは隣の草の上に直接置いてある箱の中からパンを水で固めて丸めたものを針の先に差し込んで指で強く押して取れないようにした。
普通は昆虫やミミズなどを餌にして魚釣りをするが、この世界の昆虫は元の世界と何かが違う気がして触る気にはなれなかった。
餌のつけた針を川に落とすと針は水流で流される感覚が手に伝わってきた。
アイトはこちらの世界では珍しい黒髪と黒い目なので何所にいても目立ってしまうため、この村に着てからは人があまりいないので気にせずにすごしていた。
釣竿を地面に寝かせると自分も横になろうとするとフォレスト城で奪われていたが返されたサバイバルナイフが腰に当たってうまく寝ることができないので取り出して釣竿の横において寝転がった。
「アイトさん何か釣れました?」
声のするほうを見るとそこには家の近所に家族四人で住んでいて農家をしていて日焼けをして真っ黒な肌でオレンジ色の短い髪型の筋肉質の男のカイトが立っていてアイトと同じように釣竿を持ってこちらを見て笑っていた。
「全然ダメですね、朝からずっと来てますが一匹も釣れませんよ、そちらは?」
するとその問いを待ってたかのように先ほどよりもニヤニヤと笑って言った。
「俺は三匹釣れましたよ、一匹くらい釣っていかないとシーヴァさんに文句言われますよ?」
「そうですかね?」
言いながらアイトは愛想笑いをしたが、内心はすぐにカイトを殴りたかった、どうして俺があんな奴に文句を言われなければならないんだ。
「あんな美人な奥さんなんてうらやましい、俺の奥さんと交換しませんか?」
「いいですよ、交換する日が決まったら連絡ください」
アイトが言うとカイトは声を上げて笑いながら手を振って自分の家に向かって歩いていくのを見送ってから川に垂れているつり糸を黙って見ていて何度か川に流されてしまった餌を付け替えてから寝転んだ。
「アイト!どれくらい釣れた?」
子供の声が聞こえて振り返るとそこにはルドルがジーンズとTシャツの服装と帽子を被ってアイトの釣った魚を入れるために持ってきた木の皮でできた魚篭を見た。
「全然釣れて無いじゃん!釣り向いていないんじゃない?」
「そうだな、向いていないな」
寝転がっていたアイトは体を起こすとルドルが隣に座ると聞いてきた。
「どうして向いてないことをするの?」
アイトはルドルの顔を見ると深い意味はなくただ聞いただけのようで石を土から掘り出して川に投げた。
「どうしてかな、魚が食べたいからかな」
「でも釣れてないから食べられないね?」
思わず苦笑いをして答えた。
「そうだな」
川にたらしていた釣糸を上げると針についていた餌はなくなっていてそれを見たルドルが言った。
「それじゃつれないね」
無言で立ち上がりアイトは釣竿に糸を巻きつけて針を釣竿に固定してサバイバルナイフを腰につけて一匹も入っていない魚篭を持ってを歩き出した。
「帰るの?」
「そうだ、向いてないからな」
アイトが帰るために朝とは違い明るくなった道を歩き出すとルドルも慌てて立ち上がりアイトの隣に立ち歩いた。
ここに来るためにアイトはフォレスト王から返してもらった自分の持ち物と部屋にある着替えを引越しをするためにもらったバックに詰め込んで早朝に壊れた門のところで荷物を横に置き腕を組んで迎えを待っていた。
アイトがフォレスト王に言った身の安全の保証ということで城ではないほかの安全な場所に移動させられるようだ。
早朝なので暗い空に青が溶け込んでくるのを見ているとフォレスト王に接見した奥にある立派な大きな城から車のようなものが砂埃を上げながら近づいて来るのが見え、アイトの目の前で止まった。
「何だこれ?」
砂埃で判らなかったが目の前に止まった車を見ると所どころが錆びていて、石が当たってできたような傷がいたるところにあり前方は車のように人が乗るところが二列付いてその後ろはテントのように布に覆われた荷台があり中には荷物が大量に置かれていて軽トラックより長い大きさだ。
「おい、荷物は荷台に置いてください」
前方の運転席らしきところから中年の髪の毛がブラウンで白い顎髭が長いオッサンがこちらを見て言っているので荷物をとりあえず荷台の中に投げ込んでトラックが揺れても落ちないことを確認した。
「置いたら早く乗ってくれださい」
そういってかすのでわざとゆっくりと時間をかけて歩いて行った。
「反対側の助手席に乗ってくれ」
アイトはトラックの左側にいたがトラックが左ハンドルで助手席に乗るために前方を回って移動し、ドアを開けて中に入ると意外と車内は狭いようで頭をぶつけないように座ってからドアを閉めた。
「準備はいかい?忘れ物は無いよね?」
一瞬考えてから答えた。
「はい」
「はい、大丈夫です」
背後から女の声が聞こえ思わず振り返るとそこにはシーヴァとリン、それにルドルの三人がルドルを挟むように座っていた。
「何これ?」
アイトがつぶやくとトラックがゆっくりと動き出した、トラックはエンジン音はうるさく無いのだが体に伝わってくる振動が強い、これもガソリンではなくストーンとか言うどう見てもただの石のエネルギーで動いているのだろうか?アイトは気になったが黙って外の景色を見ていた。
城から出ると城の周りにはたくさんの建物のが在り、建物の作りや雰囲気はテレビで見たヨーロッパのような建物で四階か六階くらいの建物がびっしりと並んでいて、商店や会社の看板が掛かっていてどうやら城下町になっているようで車や人が大量に行き来をしていた。
歩いている人はシーヴァやリン、バルアートと同じようないろいろな髪の毛の色をしているが黒川のように黒色の髪の毛をしているものは居なかった、サラリーマンのように忙しそうに歩いている人が数人見えてやはり何所に行っても人間というか人は変わらないようだと思いながら外を見ていた。
いや、違った。
コンデ人が人間と会話をしながら紙袋を持って歩いているのが見えてため息が出てしまった。
「何だ、疲れているのか?先は長いんだから眠ってもいいんだぞ」
顎髭のオッサンが一瞬こっちを見たがすぐに前を向いて運転しながらいった。
どうせ俺がもうここに来ることはなさそうだし、昨日の夜に準備をするように言われ急いで準備をしたために少ししか寝ていなかった。
「じゃあ、眠らせてもらうわ」
座席に浅く座って背中を丸めて腕を組んで目を閉じ振動でゆれて眠ることができそうに無いので頭の中で羊を数えた。
頭をぶつけて目を覚ました、周りを見ると空が暗くなっていてライトをつけて砂利道を走っていた。
大分寝ていたようで口の中が渇いていて目を開けるときに瞼が糊で引っ付いた感覚がした。
「起きたか、そこにお前の飯が置いてあるぞ」
顎鬚のオッサンが言うと足元に鉄製らしい丸い水筒と紙袋が置かれていて水筒を拾い上げて蓋を開けて生暖かい水を口に含んで渇きを潤してから飲み込んだ。
「よっぽど疲れているんだな、何回か起こそうとしたが全然起きなかったぞ」
「あぁ、まだこっちに慣れていないんだ」
「違う国から来んだからしかたないさ」
言いながら顎鬚のおっさんは砂利道を運転する。
「いつ目的地に着くんだ?」
「もう後三十分くらいさ、食い物食べちゃいな」
「そうだな」
足元の紙袋を見ると寝ているときに踏みつけたか蹴飛ばしたらしく紙袋がへこんでいたので紙袋を振って砂を落としてから膝の上において中を見るとまたフランスパンのようなパンが入っていて一つを取り出してかじりついて見た、硬さはカズに貰ったのよりもやわらかいのですぐに噛み切ることができてさらに味もなかなか良かった。
前を見ていると遠くに光が見えた、どうやらあそこに民家があるようだ。
「おっ、着いたな、予定よりも早いな」
パンをまだ半分しか食べていないが紙袋の中に戻し水筒の水を飲んで流し込むと車は大きな屋敷の門の前に止まり屋敷は二メートルくらいの壁に囲まれているのが見えた。
「アイト、悪いが門を開けてきてくれないか?これが鍵だ」
鍵を差し出すので受け取ってトラックから降りて門のところに行くと両開きの大きな木製の扉があり中央付近の鍵穴に鍵を入れてまわすと手ごたえがあり扉を押したがやはり鍵が掛かっているようでびくともしない、もう一度鍵を回してから片方の扉を押すと動いたので鍵を抜いて両方の扉を押して開き車が通れる間を空けてからトラックに向けて手を振るとトラックが動き出したので轢かれないように逃げトラックが敷地内に入ると扉を閉めて鍵をかけた。
アイトがトラックに近づいて行くと屋敷の玄関の扉の上のランプが点いているのでぼんやりとだが建物の輪郭が見えたが、大分広い二階建ての屋敷であることがわかる。
トラックがエンジンを止めるとアイトが座っていた助手席の後ろの扉が開きリンが出てきてアイトを睨んだがすぐ後からルドルが降りてきた。
(何でこいつらがいるんだ?)
アイトはリンに近づいていくとリンもアイトに近づいてきた。
「おい、どうしてお前達がここにいるんだ?」
アイトが言おうとした瞬間にリンの平手がアイトの左頬に当たりいい音がした。
「あなたがジロンを前線に飛ばしたの知ってるんだから!もしジロンが死んだら・・・・」
涙声になりながらリンが言うのをアイトは叩かれた頬を押さえながら見ていた。
「私はあなたを許さないから!」
そういって再び叩こうとしてくるのでアイトは後ろに避けるとリンの平手が空振りをするとアイトを睨んでからもう一度叩こうと振りかぶるとルドルがリンに抱きついた。
「リン、ダメだよ、リン」
すると騒ぎに気が付いたのかシーヴァと顎髭のオッサンがやってきて今の状況を見て叫んだ。
「リン君、やめるんだ」
「リンやめなさい」
顎髭のオッサンが言いながらリンに駆け寄り捕まえ、シーヴァはルドルをリンから引き離した、リンはいつの間にか泣き始めてしまった。
「どうしたの、あんた?」
声のするほうを振り返ると五十過ぎの小太りのおばさんが出てきた。
「すまんがちょっと来てくれないか?」
顎髭のオッサンに近づいてくるとリンが泣いていることに気が付くと何か言いながらリンを連れて家の中に入っていってしまった、するとルドルがシーヴァに両肩を掴まれながら心配そうにこちらを見てきた。
「大丈夫?アイト」
「大丈夫だ、さっきまで眠たかったけど完全に目が覚めたよ」
叩かれた頬がひりひりとする。
「君たちも中に入りなさい、荷物は明日出すことにしよう」
シーヴァはルドルを連れて建物の中に入って行きアイトも後に続いた。
「アイトさんはちょっと待ってくれないかね?」
「はい?」
アイトが顎髭のオッサンに言われて立ち止まり、オッサンはシーヴァとルドルが建物の中に入ったのを確認してから改まって言った。
「君には説明をしておいたほうがいいと思ってね」
アイトは顎髭のオッサンの顔を見ると横顔では判らなかったが正面から見るとどこかで見覚えがあった。
「どこかで会いましたっけ?」
「そうだね、君にはちゃんと自己紹介をしていなかったね、ブラマンだ、一余君を治療したんだが覚えてないかね?」
ジャリが腕に刺さった時にバルアートが呼びかけていた医師がブラマンといっていた気がする。
「あの医者か?」
「そうだ、まぁ忘れてても仕方が無い、ほんの一瞬しか会っていなかったからね」
「どうしてお前がここに居るんだ?」
「まぁ、それは中に入ってから話すからとりあえずだな、あまりリン君を刺激しないようにしてくれないか?」
アイトは助手席のドアを開けて足元においてある水筒とパンの入った紙袋を取ってドアを閉めていった。
「どうして?」
するとブラマンは困ったような顔をして言った。
「リン君は君がジロン君を前線に飛ばすように王様に言ってジロンが飛ばされたのを知っているんだよ、そのことでリン君は君を恨んでいるんだよ」
「恨んでるねー」
水筒を取り出して水を一口飲んでからアイトは言った。
「だけど、俺だってリンとシーヴァとの人質交換で殺されかけたんだぞ、今ここでお前と話している可能性だってほとんど無かったし、人質交換でリンは助かったんだから本来は感謝のお礼を言われる立場だぞ?」
「まぁ、そうだがなぁ、リン君にとっては自分の命と同じくらいジロン君の事が大切なのだろうし、好きなんだろうな・・・」
自分で言ったことに照れたのかブラマンは少し笑い、アイトはため息をついた。
「女の考えることは良くわからんな、わかりたいとも思わないがな」
水筒の蓋を閉めた。
「それよりもどうしてリンやシーヴァ、ルドルがここに居るんだ?説明してくれないか?」
アイトが尋ねるとブラマンは入り口を見てこちらを見たり聞いたりしている人がいないことを確認してからアイトを見た。
「まぁ、理由としては簡単なんだ、彼女達も人質になり暴行を受けて心身共に傷ついているから王から休暇を与えられたんだよ、そして私も彼女達の治療をするために私の家に招待したんだよ」
連れてこられたのはどうやらブラマンの家らしくアイトもリンやシーヴァと一緒にブラマンの世話になるようだが、一つ疑問が残ったので聞いた。
「それじゃ、ルドルは?」
アイトが言うとブラマンはアイトから視線をはずして言いよどんだ。
「おい、どうなんだ?」
すると一呼吸置いてからアイトを見て言った。
「あの子の両親は二人とも死んだよ、父親は兵士でコンデ人との戦いで大分前に死んだらしく、母親がファル様の下で手伝いをして働いていたみたいだが、カズが食事に入れた毒で死んでしまったんだよ」
そういえばカズは食堂で働いていたんだった。
「何人死んだ?」
「食堂で食事をとった四十三人が死んで二十人以上がまだ中毒症状が出ている状態だよ、だから今のところファル様はフォレスト王と共に行動していて警備などは万全な状態だが、元々のファル様の警備や身の周りの世話を行っていた人は一端違う場所に配置されるらしい」
だから俺がコンデ人に襲われた時に大声を出して助けを求めても数人しか来なかったわけか、その時点でほとんどの人が殺されていて数人しか助けが来なかったのか。
「それでルドルは?」
アイトが言うとブラマンは不快なのか一瞬眉に皺を寄せた。
「ルドルはシーヴァ君になついていたからシーヴァ君が連れて来たんだよ、アカリ様に頼まれてね、どうやらルドルの父親はアカリ様の護衛をしていたこともあったらしい」
「大体判ったけどどうして俺とあいつ等が一緒なんだ?」
「それは私に聞かないでくれ、私もその理由は聞いてないよ」
このブラマンという医者は俺が嘘をついていないか調べる気かも知れないので注意したほうがいいな。
「わかったよ」
アイトはトラックの荷台方に回って荷台を覗いて自分の荷物を探したが暗くて判らなかった。
「アイト君、荷物は明日の朝でいいだろう、ここじゃ誰も盗まないよ」
「そうですね、明日の朝にします」
そういって建物の中に入った、建物はブラマンの家らしく先ほど出てきた小太りの女の人はブラマンの奥さんでユミという名の愛想のいい人であったがアイトを見たときは、驚いたのか動きが一瞬止まり凍ったように動かなくなったが「言葉わかりますか?」と聞かれたのでアイトが笑いながら「大丈夫ですよ、わかります」というと笑顔でいろいろ話しかけてきた、適当に話をしてからアイトとは自分のために用意された二階の部屋に入りさっさと眠った。
釣れない釣りをやめて帰ってきたアイトとルドルは来るときに通った草の生えた砂利道を歩きながら帰るとブラマン邸の煙突から煙が上がっていくのが見えるとルドルが聞いてきた。
「今日の昼飯は何かな?」
「たぶん今日もお前の嫌いな野菜のスープだな」
「えー、あれ美味しくないんだもん」
思わずルドルの言い方に笑ってしまった、確かにアイトも美味しいとは思っていなかった。
「だが栄養があるんだろ、俺も詳しくはしらないが」
「だったら美味しく作ってもらいたいよ」
ルドルが力なく言った。
「そうだな」
「そうだなっていった?」
アイトがルドルと見るとルドルもこちらを見ていて丸い赤い瞳が帽子の下から見えたと思うとアイトの腕を掴み揺らしていった。
「ねぇ、そうだなってことはアイトも美味しくないとおもてるの?ねぇ!ねぇてば!」
言いながらアイトの腕を激しく揺らした。
「俺は違う国の人間だから口に合わないだけさ、それと腕から手を離せ」
腕を振りルドルの手を振り払った。
「みんな美味しくないと思っているのかな?聞いて見てよ!」
「俺が?どうして?」
ルドルを見るとアイトを見て勝ち誇ったように言った。
「今自分で言ったじゃんか?違う国の人間だから味について他の人に聞いても全然不思議じゃないし、僕がシーヴァやリンに聞いたってただの好き嫌いで難癖つけてるだけだと思われるよ」
確かに言われればそのような気がするが、このガキ意外と考えているな。
「たしかにお前の言う通りかもしれないな、暇だったら聞いておいてやるよ」
「お願いだよ」
その後は歩きながらルドルが勝手にしゃべりかけてくるのを聞き空返事をしていると、ブラマン邸に付き門を開けて中に入るとリンが玄関掃除をしているのが見え、ルドルが走りだしてリンに抱きついた。
「リン、ただいま」
「お帰りなさい、ルドル」
アイトがその横を黙って通ろうとするとリンが睨んできたのでできるだけ刺激しないように視線をそらして足早に玄関のドアを開けて中に入った。
するとちょうど靴を履こうとしていたブラマンが居て目が合った。
「お帰り、アイト君」
「ただいま」
返事をするとブラマンはアイトの持っている釣り道具を見た。
「今日は早いね、釣れたかね?」
アイトは頭を振ってから空の魚篭を上下さかさまにした。
「ダメですね、どうやら向いていないようです」
すると背後からリンとルドルが中に入り玄関のドアを閉めた。
「ただいま、ブラマン先生」
「お帰り、ルドル」
そういってルドルの帽子の上に手を置いてルドルの頭を撫でた、ブラマンとその奥さんのユミはルドルを孫のようにかわいがっていてシーヴァやリンの目を盗んでお菓子をあげているのを何度か見ていて見つかると黙っているようにお願いされていた。
ルドルがブラマンの靴を履こうとしている様子を見て聞いた。
「どこか行くの?」
「そうだよ、ちょっと町に行って郵便局に行って手紙を受け取ってから食料の買出しだよ、ルドルも来るかね?」
「行く、行く、ねぇいいでしょ?」
ルドルがリンに聞いた。
「シーヴァに聞いて見ないといけませんね、ちょっと待ってください」
そういうとキッチンのほうにリンが走っていった。
「アイト君もどうかね?たまには気分転換に町にでも出て見たら?」
アイトは玄関に釣りの道具を下ろしてから言った。
「そうですね、俺も町に行ってこの国がどんな感じなのか見てみたいですしね」
「だが、アイト君のその黒い髪と瞳はこの国では目立つからな、ちょっと待ってくれ」
ブラマンはそういってどこかに行ってしまったのでアイトは二階の自分の部屋に入って、机の引き出しに入れてあるニューナンブ拳銃を取り出して弾が三発入っていることを確認してからズボンのポケットに突っ込んだ。
(とりあえず3発でいいか、それよりも拳銃の弾が無くなってからの武器を心配したほうがいいようだ、この国ではアメリカみたいに兵士の持っていたような銃は売っているのだろうか?そこも調べて見たほうが良さそうだ)
階段をドタドタ駆け上がる音が聞こえたと思うと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「アイト、ブラマン先生が呼んでるよ」
「わかった」
返事をすると拳銃が入っていた引き出しを閉めてその上に飾られた刀を見た。
返してもらったときはコンデ人の血が固まっていてさびのようになっていたが、ブラマン邸に来てから固まっている血を洗い流すと錆びている様子は無く刃も欠けている所は無かったので、ブラマンに刃物の手入れ用の仕方を教えてもらい、与えられた部屋の机の上において置いていた。
「アイト」
ルドルが呼ぶ声が聞こえて部屋から出るとルドルは階段の手すりにつかまってこちらを見ていて部屋から出たのを見ると階段をドタドタと下りて行ったのでアイトも後に付いて階段を下りるとブラマンがこちらを見上げた。
「これをあげるよ、そのままじゃ目立つからこれで隠すといい」
一階の玄関に下りるとブラマンが帽子とメガネを差し出され、それを受け取った、帽子はカウボーイが被っているようなカウボーイハットで被って見たが髪の毛が少しはみ出ていたがそれくらいは仕方ないだろう。
受け取ったメガネを良く見るとうっすらと黒い色が入っているサングラスでそれをつけるとブラマンが左手で顎の髭をなぞりながらアイトを見て言った。
「無いよりはましだな」
「でも、帽子やサングラスをつけたからなんか怪しい感じがするよ」
ルドルが笑いながら言った。
「そうだな」
ブラマンが返事をしてルドルと笑い合ったのでアイトはブラマンを少し睨むと、気が付いたブラマンはアイトの肩を叩いた。
「そう睨むなよ、つけないよりはましなんだから」
「わかりましたよ、それじゃ、さっさと出発しましょう」
言いながら玄関のドアを開けようとするとルドルが言った。
「待って、まだリンが来てないんだ」
「リン?」
思わず声に出しながら振り返るとリビングのドアが開き外行き用の綺麗であるが目立たない灰色のワンピースのような服を着たリンが手に小さなバックを持ってエプロンをつけたシーヴァと何か話しながらこちらに向かってくるのが見えたのでブラマンを見た。
「ブラマン、リンは俺が行くことを知っているのか?」
「言ってはあるんだが、彼女も何か郵便局に用があるらしいんだ、アイト君は彼女を刺激するんじゃないぞ」
「何もしてないのに顔を叩かれたのは俺ですよ、ブラマン先生、注意するならリンのほうにしてくれ」
アイトは不満に思い文句を言ったがブラマンは聞いているはずなのに無視してリンに向かって言った。
「準備はできたかい?」
「すいません、待たせてしまって」
リンはそういって頭を下げるとルドルがその腕を掴んでいった。
「いいから早く行こうよ、ほらアイトも」
ルドルがリンの腕を掴んだまま玄関のドアを開けて引っ張りながらトラックまで走って行き、その後をブラマンが歩いて付いていく。
「あんた、いつ帰ってくるの?」
声のするほうを見ると洗物をしていたのか洗濯物を干していたのか判らないが、ユミがエプロンで手を拭きながらリビングの扉から出てきていた。
「夕方までには帰ってくるよ、ユミ」
ブラマンは言って玄関を出ていくのでアイトも後に付いていく。
「いってらっしゃい」
若い声がして振り向くとシーヴァが笑いながら手を振っていた、アイトはどうしていいかわからずに目が泳いでどうするか固まっているとブラマンの声が聞こえた。
「行ってきます」
そういえばいいのか、アイトは玄関を出ながらシーヴァに背中を向けて言った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
なぜかシーヴァの返事が聞こえ胸の辺りが熱くなるのを感じたが、気のせいだと思い息を大きく吸い込んでから外に出て玄関の扉を閉めた。
ルドルとリンとブラマンはトラックの鍵を開けてトラックに乗り込もうとしていたので助手席側に近づくと助手席にルドルが座っていた。
「おい」
いいながら助手席の窓を叩くとルドルが驚いてこちらを見ると窓を開けた。
「降りろ、ルドル」
「アイトは後ろに乗ってよ、僕は前がいい」
「いいから降りろ」
怒鳴るように言うとルドルが叫んだ。
「やだ、やだ、やだ、やだ」
「アイト君、後ろに座ってくれ」
ブラマンが運転席でエンジンをかけながらいい、アイトが後部座席を見るとリンがブラマンの後ろの席で外を見ていたのでアイトが言った。
「でも・・・」
「私はいいので早く乗ってください」
リンがこちらを見ないで言いブラマンが頷きルドルが言った。
「早く後ろに乗って!」
仕方ないので黙って後部座席のドアを開けて助手席の後ろに乗り込んだ。
「それじゃ、出発―!」
ルドルが社内の中に響くような大声で言いトラックが動き出した。
町に向けて先ほどルドルと釣りを終えて帰るときに通った道をひたすら進んでいき、アイトはリンと顔を合わせないようにずっと外の景色を見ていると先ほど会ったカイトの家が見え、遠くて顔がわからないが二人が畑の土を耕しているのが見えた。
来るときにも使った道だったが、そのときは気が付かなかったたぶん寝ていたからだろう、それにしても道が砂利道なのでよく揺れるのでよく寝ていたなと自分に関心した。
車内ではルドルがしゃべりそれにブラマンとリンが返事をしていて、たまにルドルやブランがアイトに話を振ってきて生返事で答えていた。
しばらく走って町に着くとブラマンは商店街のように店が並ぶ通りを通るとルドルに聞いた。
「私の家に来るときにもこの場所は通ったんだけど覚えているかね」
「全然覚えてないよ、リンは?」
ルドルが振り返りリンを見て言いリンが言った。
「私も思い出せないわ」
「アイトは?」
「寝ていたから覚えてないね」
するとブラマンが言った。
「みんな疲れていたから仕方ないさ」
そういって一人笑った。
商店街から小道に入ってすぐの駐車場にトラックを駐車した、駐車線からはみ出しているが強引に止め、車から降りるとアイトは硬くなっている体を伸ばした。
ブラマンはトラックの鍵をかけるとアイトたちを見て言った。
「私は郵便局に行くがどうするかね」
リンがブラマンに言った。
「私も郵便局に用事があるので一緒に行きます」
「そうか、そうか」
ブラマンは癖なのかわからないが右手を腰に当てて顎の髭を左手で撫でるように触っているとルドルがアイトを見た。
「僕は本屋に行きたいな、アイトはどうするの?」
「どうって俺は町を見てみたいと思って付いて来たただけだからな、別に用事なんてないからな」
「じゃあ、僕と一緒に本屋に行ってよ」
「ガキのおもりか・・・」
思わず口に出た。
「ガキじゃないよ」
大声でいいながらルドルがアイトの足を蹴飛ばし、その足が脛にヒットしてジンジンと痛む。
「おい、ガキ」
アイトが怒りながらルドルを捕まえようと手を伸ばすとルドルは後ろに下がってトラックの前を回ってブラマンのところに逃げていった。
「そういうなよ、アイト君」
ブラマンがいいながら笑いかけてきて、リンの方をチラッと一瞬見るとアイトを睨んでいた。
「アイトの馬鹿!」
ルドルが叫び、アイトはため息をついていった。
「しかたない、おもりをしてやるよ」
「じゃあ、頼むよ、それにこれを渡しておこう」
いいながらブラマンはやわらかい革でできた小袋をポケットから取り出してアイトに向かって投げ、片手でキャッチすると中に小さいものが入っている感触があった。
「その中に金を2000C(セイ)入れておいたから好きに使ってくれ」
「C(セイ)てのはこの国の金の単位か?」
「そこも分らなかったのか、すまんな、アイト君の言う通りC(セイ)この国の金の単位だよ」
「悪いな、金をもらって」
首を振ってブラマンが笑った。
「いや、気にする必要は無いよ、私も君の面倒を見るために金をもらっていてそこから出しているからね」
「なら安心だ」
小袋を拳銃が入っているほうとは反対側のポケットに入れた。
「じゃあ、ルドルを頼んだよ、我々も用が済んだらそっちの本屋に向かうから、それじゃリン君行こうか?」
「はい、ブラマン先生」
そういって二人が歩き出すとルドルが言った。
「早く迎えに来てね」
二人は振り返りルドルを見て手を振りルドルも手を振って二人を見ているのでアイトは気が付かれないように足音を立てず近づいて驚かせるよう様にいった。
「それじゃ、俺達も行くか?」
アイトが声をかけるとルドルはびっくりしたのか素早く振り返ってアイトを見たがすぐに前を向いて無言で歩き出した、アイトはルドルの様子を気にしないで帽子とサングラスを付け直してからルドルの後に付いて歩き出した。
ルドルの後に付いて歩くと街中は田舎の駅前商店街とい感じであった、建物は石やコンクリート、レンガを積み上げたような二階建ての建物が多く一階を商店として使用しているものが多かった。
服屋、鞄屋、八百屋や魚屋などがあり何処も数人の客が買い物をしているのが見え、買い物客はリンやブラマンと同じ髪の色をしていてアイトと同じような黒色の髪の毛をしているものやコンデ人はいなかった。
前を歩いていたルドルが急に左に曲がり店に入るとそこには本が飾られていたのでアイトは看板を見るとフォートレー王国の言葉で「ミズト本屋」と書かれていた。
ブラマン邸に来てからはシーヴァやブラマンやユミに少しだがこちらの言葉を習い少しは読めたがまだ分らないことが多かった。
ルドルは「ミズト本屋」の中に入って行ったのでアイトも後を追って中に入った。
「いらっしゃいませ」
中に入ると丸いメガネをかけた若い店主が出入り口で店番をしていて入ってきたアイトを見た店主が言ったのでアイトは店主を見た。
「すいません」
若いメガネの店主はアイトの姿におびえたのかそういって頭を軽く下げたが、アイトは無視して店内に入りルドルを探すと、ルドルは他の子供と並んで子供用の本を読んでいた。
アイトは写真が多く乗っている雑誌をとって流し読みをしてみたが、単語が読めても意味が分らないものが多くすぐに元の場所に戻した。
店内を暇つぶしに歩き回っていると地図売り場があり手当たり次第に開けて中身を確認して見たがどれもシーヴァに見せてもらった地図よりも記載されている範囲が狭く、小さい道などを細かく書いてあって、トラック運転手や旅行者が使うようなものでアイトが探している世界地図ではなかった。
「やはりダメか・・・」
シーヴァが持ってきた地図が最新のものだといっていたが嘘を付いている可能性があったがシーヴァやバルアートが言っていることは正しかったようだ。
アイトは開いてた地図を元の場所に戻してから店内を歩きなにか手がかりになりそうな図鑑や辞書などを探して見たがアイトがほしい情報が載っている物は見つからなかった。
周りの店はどうなっているのだろうと思いアイトは先ほどルドルが居た場所に行きルドルに言った。
「おい、ルドル」
「なぁに、アイト?」
先程は呼んでも返事をしなかったのに今回は返事をした、雑誌を読んで機嫌がよくなったのであろう。
「おい、他の店に行くぞ」
「えぇ、まだ読んでいたいんだけど・・・」
ルドルが呼んでいる本を見るとルドルと同じくらいの女の子が派手な色の服を着てポーズをとっていた、ファッション誌なのだろうか?
「いくらだ、その本?」
ルドルは本を閉じて裏表紙を見て言った。
「200C(セイ)だよ」
アイトはポケットからブラマンから渡された金の入った小袋を取り出して中身を見ると大小四種類の硬貨が入っているのが見え一番大きい効果を取り出すと500C(セイ)と書かれた硬貨を取り出した。
「これで買って来い」
言いながら硬貨をルドルに渡した。
「ありがとう」
雑誌を大事そうに抱えながらルドルは店の出入り口に居る店主に向かって走って行くのでその後に付いていく。
ルドルは店主に雑誌を渡して500C(セイ)を払うと本を紙袋に入れてもらいお釣りと一緒に受け取りお釣りをアイトに差し出したので受け取って小袋に入れた。
「行くぞ」
「でもいいの?ブラマン先生やリンがここに来るって言ってたのに・・・」
「いいんだよ、少し見てくるだけさ」
アイトは店の外に出てあたりを見渡してとりあえずブラマンたちが向かった郵便局とは反対側に向けて歩き出した。
アイトは武器を扱っていそうな店を探しながらしばらく歩いたがそんな感じの店は無かった。
「ねぇ、何所まで歩くの?」
ルドルは疲れたらしく元気がない。
「おい、フォートレー王国ってのは武器は売ってないのか?」
「武器って城の兵士が持っていた銃みたいな奴の事?」
疲れているのか下を向いて地面を見ながら言った。
「そうだ、その武器を手に入れたいんだ」
「それは僕もわかんないよ、ブラマン先生に聞いて見てよ、ブラマン先生なら必要の無い銃一丁くらい持ってるかも知れないよ」
「余計な詮索をされそうだからあまり聞きたくないんだよな、俺としてはシーヴァやリン、それにユミにも知られたくない」
「僕がしゃべっちゃうかも知れないよ」
下を見ていたルドルがアイトを見ると帽子の下のいたずらっ子のような瞳と目が合いアイトは乱暴に雑誌の入っている封筒をルドルから奪った。
「返してよ、大人気ない」
ルドルが必死に手を伸ばして奪い返そうとする。
「黙ってるって約束するなら返してやるよ」
アイトが言うとルドルが伸ばす手を引っ込めると急に冷静になりしっかりとした口調で言った。
「アイト、勘違いをしているよ、約束するのは君のほうだよ」
頭でもおかしくなったのかと思い、アイトは黙ってルドルの様子を見た。
「アイト、君は僕に黙っているようにお願いしなきゃいけないんだよ、雑誌なんて読まなくても困ることは無いけど、アイトが武器を売っている所を探している事をブラマン先生が知ったらどうなるのかな~、たぶん面倒なことになると思うけどいいのかな?」
(このガキ、俺を脅してるのか?)
そう思うと段々とおかしくなってきて必死に笑いをこらえようとしたがこらえることができずに笑ってしまうと困惑したルドルが言った。
「どうしたの?」
持っていた雑誌をルドルに差し出した。
「受け取れよ、さぁ」
「どうしたの?急に?」
「お前のことを少し見くびっていたよ、見直した、むしろ気に入ったよ」
雑誌を受け取ったルドルは気に入ったといわれたことに気をよくしたのか笑顔になった。
「そろそろ本屋に戻るぞ、ブラマンやリンを待たせているだろうしな」
「うん」
ルドルと一緒に今来た道を戻り本屋に向かった。
「アイト、あれ」
ルドルを見ると脇道を指差していてその先を見ると若い男の連中が四人くらいで女に声をかけていた。
「おい、放っておけ」
「でも、リンがあそこに」
言われてよく男達のほうを見ると四人でリンを取り囲んでいた。
「どうするかな?警察とかいるのか?」
アイトは助けを求めるためにあたりを見渡したが買い物客ばかりであった。
「アイト、行って来てよ、お願いだよ、さっきのこと聞いてあげるからさ」
ルドルが懇願するように言い、ここでリンを見捨てるとめんどくさいことになりそうだ、思わずため息をついた。
「仕方ないな」
近くに落ちている鉄パイプのような一メートルより長い金属の棒を持ち上げて片手で振ると空気を切る音が聞こえた。
「これで十分だな」
「相手に怪我をさせちゃダメだよ」
鉄の棒の先を掴んでアイトはルドルに向かっていった。
「それは聞けないな、必要ならばあいつ等を殺す」
男達をアイトが見るとルドルもつられて見た。
「ダメだよ、アイトの国とは違うんだよ」
「俺の国でもダメだ、でも俺はやったんだ」
アイトはルドルの返事を聞かずに男達に近づいていき五メートル近くになったところで足を止めて男たちに落ち着いた声で言った。
「おい、お前らその女を離せ」
すると男達が全員こちらを見て、その隙間から泣きそうになっているリンの顔が見えた。
「何だ、お前、あっち行けよ!」
「その女を返してくれないか?」
すると一番下っ端ぽい男がリンから手を離してアイトにガンをつけながら近づいてきた。
(何所の世界もチンピラってのは同じ感じなのか?)
アイトは近づいてくるチンピラの頭を狙い鉄の棒を水平に殴りつけると、近づいてきたチンピラは腕で鉄の棒を受け止めたがその場に崩れ落ちた。
「てめぇ、やりやがったな!」
「だからそいつを離せって言ってるだろ?こいつがどうなってもいいのか?」
うずくまっている若いチンピラ男の頭の上に鉄の棒を持ってきて振り上げた。
「こいつを死なない程度にぼこぼこにするぞ、そんな女ほっといて他の女に乗り換えたほうが割がいいと思わないか、今ならこいつの腕も折れては無いだろうし」
言って笑うとまだリンの周りに居た男達がヒソヒソと小声で話を始めた。
「・・・・ヤバイ奴だ・・・・」
「・関らないほうが良さそうだ・・・・」
「そうだな」
するとリンを捕まえていた手を離すと、リンはアイトに向かって走ってきて後ろに抜けていった。
「覚えてろよ、この野郎!」
リンを捕まえていたチンピラたちが叫んだので叫び返した。
「忘れるんだよ!馬鹿野郎!」
鉄の棒を振り下ろそうとすると慌てたようにリーダー格らしい男が叫んだ。
「わかった、忘れる、忘れるよ」
「だったらこいつを連れてさっさと消えろ」
言いながら目の前で腕を押さえてうずくまっている男を蹴飛ばすと男は青白い顔をしていて三人に体を支えられてリンとは反対側に逃げていった。
四人が視界から消えたのを確認して振り返るとリンとルドルの姿は無く、鉄の棒を道に捨てルドルと歩いていた道に出て周りを見渡すと本屋があるほうからルドル、ブラマン、リンの三人が走ってきたのでそちらに向かって歩いていった。
「大丈夫かね、アイト君?」
息を切らせながらブラマンが言った。
「大丈夫?」
ルドルも心配そうにアイト見たので笑って言った。
「大丈夫ですよ、まぁ軽く脅してやりましたけどね、それよりもリンは大丈夫か?」
アイトがリンを見ると下を向いたまま小さい声で言った。
「・・・はい・・・・」
「ならよかった、それよりもブラマンとリンは用事は終わったのか?」
ブラマンは呼吸を整えるために両手を腰に当てて大きく深呼吸をしてから言った。
「私もリン君もすぐに用意は終わったんで本屋に行ったんだが君たちの姿が見えないんで二手に分かれて探していたんだよ」
「そうか、それはすまなかったな、ちょっと他の店を見てみたいんで歩いてたんだがこんなことになるとはな、すまなかった」
「いやいいんだ、私もこの町で女性が一人歩いていて変な奴らに捕まるとは思っていなかった、昔はこんな事なかったのにな・・・・」
ブラマンは言いながら少し悲しそうな顔をするとルドルがブラマンの腕を掴んで見上げていった。
「元気を出して先生」
「あぁ、そうだな」
言いながらルドルの頭を帽子の上から撫でた、そういえばこいつ何時も帽子を被っているな。
「それよりも買出しはどうする?リンとルドルをトラックに残して俺とブラマンで行くか?」
「いや、みんなで行ったほうが良さそうだ、トラックにリン君とルドルが残ってても安全というわけではないし、まだ我々と一緒に行動したほうが安全だろう」
「そうかな」
アイトは疑問に思ったがそれ以上は口出しをしなかった、ブラマンはアイトも納得したと思いリンに聞いた。
「それでいいかね?」
「はい」
リンも答えて四人で食料の買出しに向かい何事もなくトラックの所に戻り買った野菜などを荷台に入れてくるときと同じように乗り込んで帰路に着いた、疲れたアイトは後部座席で頭を窓ガラスに何回かぶつけたが眠ってしまった。
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