after write

 別れ際の君の笑顔を、僕は忘れることが出来ない。



 ♭



 蝉の鳴き声が、聞こえる。


 初めて君と言葉を交わした日と変わらない日々。


 僕は相変わらず、向日葵に水をやっている。


 君が行った次の日、向日葵は大きな花を咲かせた。太陽に恋をする花。


 流れる汗をシャツの袖で拭いながら、空を見上げる。

 太陽がこんなに照っているのに、どうしてこんなに寒いのだろう。


 ホースの口を押し潰すと、水が勢いよく弧を描いた。太陽に背を向ければ、淡く虹の橋が架かる。

 その儚さを君に重ねてしまって、少し切なくなった。



 ♭



 君は言った。

 最初で最後の我が儘だと。


 寂しくないと言えば、嘘になる。

 ひりつく胸を抱えてでも、僕は歩き続けると決めた。この退屈な日常を。


 間違ったオプティミズムでも構わない。


 僕はそれを受け入れよう。


 たとえ誰もが否定したとしても、僕だけは、君の言葉に頷き続ける。もしそれが、僕の偽善に過ぎないとしても、僕は。


 君が、確かに此処に居たことを、僕の心臓に刻み付けたい。


 不意に湧いた塩水を堪える為に、向日葵の真似をした。

 ぎゅっと固く瞑った目を、ゆっくりと開く。


 青、青、青。

 深い深い、蒼だ。


 今日も空は、君の色に染まっているよ。



 ♭



 天を仰ぎながら、僕はくちずさむ。

 心の奥で、君の美しい名前を。


 季節外れの風が駆け抜けた。



 ――嗚呼、寒いなぁ。



 世界は廻り続ける。


 君と僕を、置き去りにして。






                 ―― end.

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幸福論 ららしま ゆか @harminglululu

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