第二話《裏》 新聞部部長・田口さき、見てはいけないものを見る。
私の名前は
新聞部三年、“ハイエナ部長田口”とは私のこと。
さっきの突撃インタビューでは、あの三人組に軽くかわされてしまった。
でも来月の校内新聞では、彼ら民俗学研究部の記事を一面に持ってきたい。
この野望は止まらない止められない!
奴らはさっさと帰っちゃったし、なんか浅草の駅前スーパーで肉を買い
と言う訳で、真実を求めて民俗学研究部の部室までやって来た所だ。
「さてさて部室は留守だし、漁り放題。良い情報は無いかな〜。出来れば読者が知りたい面白い情報が欲しいんだけど〜」
誰もいない、
まず気になったのは、この
そして……ホワイトボードに書かれた謎の言葉の羅列。
『なぜ我々あやかしは人間に退治されなければならなかったのか』
〜死亡エンドは、いったいどうしたら回避できたの?〜
・
・そもそも
・
・
・源頼光が“
・というか源頼光めっちゃ外道 ←わかる
・酒呑童子が全力を出せていたら……っ ←はあ?
・そもそも我々があやかしじゃなかったら? ←はあ?
・諸行無常の響きあり ←わかる
・盛者必衰の
・結論→→→→おごれる者も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
〈〈〈 超訳:鬼神に横道なきものを! 〉〉〉
「…………はあ?」
当然、声が出た。意味不明すぎたからだ。
ここでゲームでもやってんのかな……
安倍晴明とか、酒呑童子とか……なんか武器とかアイテムの名前があるし。
ぶっちゃけ気恥ずかしい単語が羅列している。
最初こそ真面目に議論してたっぽいのに、途中なぜか
誰もが
ちょっと信じられない。
「ほ、他に何か無いかな」
こんな電波なのじゃなくて、私は皆がキャーキャー言ってくれる情報が欲しいのよ。
ふと目についたのは、木造の長机の引き出し。
私はそれを何となく開けてみた。
「……部活動日誌?」
おっとー……これは掘り出し物じゃないの?
面白い事が書いてあるかもと思って手に取った。
しかしパラッと開いてみると……
『なぜ我々あやかしは人間に退治されなければならなかったのか』
なんのこっちゃ。
見開き一ページ目からこれだ。更に……
『平安時代、優雅で最強なあやかし業をしていたのも久しからず、ド鬼畜外道な安倍晴明および、あやかし皆殺し系男子源頼光に退治され、なんと現代に転生☆ 我々の凡人系ライフはこれからだ!』
などという、意味不明な記述をしており……
平安時代? は?
転生? あやかし? 凡人系ライフ? ……なにそれ怖い。
「い……痛っ……イタ過ぎるだろ……っ!」
思わず一人で、日誌に向かってつっこんだ。つっこんでしまった。
派手に痛めた電波でカオスな会話を、みんなが憧れるあの美形三人組がしているの?
「ま、まあいいわ。この日誌、今日借りて帰って、少し熟読しよう。考えるのはそれからにして、明日の朝一でここに返せば良いんだわ」
とりあえず日誌を脇に挟んで、本棚に置きっぱなしにされているものを物色する。
やれ“あやかし百科事典”、やれ“未確認生命体の足跡”、更に“本当にヤバいパワースポット”などの怪しげなタイトルの本や雑誌ばかりが出てくる。
なんなんだよ!
ほんとあいつら何やってんだよ!!
「…………」
夕暮れ時にひと気の無い部屋に居るせいだからだろうか。
チッチッチッチッ……
埃
「と……っ、とにかく。あの三人は、かなり電波な研究をここでやっているって事ね。趣味なのか本気なのかわかんないけど、かなりオカルトチックで中二病な……こんなネタ、誰が喜ぶのかな……ま、まあ良い。真実を記事にしなくっちゃ。謎のヴェールに包まれたあの三人組の活動が今こそ……」
なんて、メモ帳とペンを取り出し、独り言を言って士気を高めようとしていた時だ。
いきなり背後から鋭い視線を感じて、バッと入り口の方を振り返った。
「……え?」
そこには確かに、人影があった……
だけど、直後に頭がクラっとして、目の前が真っ暗になる。
そして遠く響く、低い男の声。
……今見たものは全て、忘れろ。
暗い視界の奥で、ちらちらと揺れる美しい金の尾を見た気がした。
「先輩、田口せんぱーい……ちょっと起きてくださいよお」
空も、淡い紺色に覆われ星が見え始めた頃。
私は旧館と本館の間にある中庭のベンチに座って、居眠りをしていたらしい。
二年生の新聞部員、みっちゃんこと
「先輩ったら、何でこんな所で寝てるんですか〜?」
「はれ……なんでだっけ?」
「もー、先輩しっかりしてくださいよお〜。突撃インタビューするって出て行ったきり帰ってこないから、あたし迎えに来たんですよ〜。例の三人組の情報、手に入ったんですか?」
ああ、そうだ。私は、民俗学研究部の部室へと潜入したんだった。
主に天酒君の情報が、特に恋愛系のがあったらなと思ったんだけど……
「……それが、なーんにも分からなかったんだよね。あの部屋には小汚い美術用の備品ばかりで、めぼしいものも、情報も無かったの」
あれ、そうだっけ?
なんか見つけたものもあった気がするんだけど。
まだ寝ぼけてるのかなあ、私。
「じゃー、ここは同じクラスのあたしが頑張るっきゃないですねえ。二年生は林間学校や運動会、文化祭や修学旅行なんかのイベントが目白押しですしー。新聞部はイベントごとで起こった事件や、湧いたカップルを特集して記事にしてますけどー、今後は例の三人は執拗に追ってみます〜」
「みっちゃん……流石は私の一番弟子……」
私は新聞部の後輩の成長にうるっときつつ、立ち上がって背伸びをした。あくびも一つ。
やっぱり、私はさっきから夢見心地。
確かにあの部室に入って、めぼしいネタが無いかを
何も無かった。何も無かった……?
うーん、でもどうして私はこんな所で寝てたんだろう……?
少し冷たい、風が吹いた。
民俗学研究部の手前にひっそりと
「……おごれる者も久しからず ただ春の夜の夢のごとし……」
ふと、口をついて出て来た言葉。
なぜ平家物語? 何かで見かけたっけ……?
「せんぱ〜い、もう下校時間ギリギリですよ。さっさと帰りましょうよお」
みっちゃんが呼んでいる。
私は「ごめんごめん……」と彼女の方に駆けて行きながら、柳越しに見える、先ほど侵入した美術準備室の窓の奥をチラッと見た。
「……あれ」
立ち止まったのは、人影を見た気がしたからだ。
スーツ姿の、この学校の先生らしき男が、今あの部屋を出て行ったような?
残像にも似た、金色の帯の様なものが、チラチラと目の端に流れて消える……
ぼんやりしていたせいか、私は特別気にしたりはせず、足早にこの場を去ったのだった。
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