第7話 ★7★ 6月18日火曜日、放課後

 抜折羅は倒れてきた紅の身体を抱き止めて、床に寝かせる。

 ――しかし驚いたな。彼女が俺と同じタリスマントーカーだとは……。

 紅が放った〝浄化の炎〟は抜折羅が持ち歩くクラスターよりも数段上の威力を持つらしい。紅を襲っていた教師の全身を飲み込むと消失したが、彼が複数身に付けていた魔性石のすべてを無効化していた。

『脅威は去った』

 珍しく、話しかける前にホープがフランス語で告げる。

「だといいんだがな」

 念のために、伸びて気絶している男性教師の持ち物を確認する。左耳につけていた石はくすんで輝きを失っている。左手首に巻いていたブレスレットの石も力を失って沈黙しているようだ。また、彼のポケットには小さな布製の袋に入った指輪が見つかったが、魔性石としての気配は消え去っていた。また、いずれの石もホープの欠片ではなかった。

「ハズレ……ってわけでもないのか」

 ホープその物は見当たらないが、その痕跡ともいえる気配は読み取れたのだ。

「この前と同じか?」

『確実に近くを彷徨うろついているな。どこに潜んでいるんだか』

「とにかく、この先生の素性を調べておくか。最近の行動から絞り込めるかもしれない」

 男性教師の持ち物を戻すと、紅の様子を窺う。息が上がっているらしく、忙しく胸が上下を繰り返している。

「紅……?」

 真っ赤な顔をしている。抜折羅は彼女の額に手を当てた。思わぬほどの熱に、すぐに手を引く。

「ホープ、彼女はどうしたんだ? 浄化の炎の反動か?」

 すぐに答えが欲しくて、抜折羅はフランス語で問い掛ける。

『強すぎる魔性石の力に、器となる身体が耐えきれないのだ。処置を急がねば、この娘、命を落とすぞ』

「あぁ、くそっ」

 愚痴っても仕方がない。抜折羅はスマートフォンを取って電話をかける。

「――そうだ。至急回してくれ」

 電話を切ると、抜折羅は紅を抱き上げる。彼女の身体から放たれる激しい熱に、抜折羅は申し訳ない気持ちになった。

「俺が必ず助けるから、持ちこたえてくれ」

 祈るように告げながら、急いで校舎を立ち去った。

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