第104話 *6* 10月12日土曜日、深夜
非常灯の光で緑色に浮かび上がる階段を慎重に上がっていくと、不吉な気配は濃くなっていった。放課後にやってきたときと違って薄気味悪く、ひんやりとした空気がいっそう恐怖を煽る。
――肝試しでもしているみたいな気分ね……。
先頭を
足下で何かが動いたような感触がして、びくりとしながら目を凝らすが、紅の目には何も映らない。止めるのも悪いので、無視して進むことにする。
――うぅ……あたしにも視力強化能力を分けてちょうだいよぉっ! 三人ともずるいっ!
ここで初めて知ったことだが、サファイアには目に関した言い伝えがあるそうで、視力を強化できるそうだ。つまり、蒼衣のしている眼鏡は度が入っていないものである。眼鏡を掛けていることについて訊ねれば、「ファッションですよ」と眼鏡に触れながら答えたので、おそらく理由は他にあるのだろう。
「さて、ついた。
二階に到着。閉められた状態の扉の脇に二手に分かれて隠れる。
「
「って、何でいきなり仕切っているんですかっ!? 囮なら俺だって――」
「抜折羅くんには紅ちゃんを護る仕事もあるでしょ? 僕、魔性石同士の対決になっちゃうと弱いから」
告げると、遊輝は長い銀髪をなびかせてホール内に踏み出した。
「閣下は戦況指揮、頼みますよ」
開け放たれた扉。その奥は真っ暗で、紅には何も見えない。そして、異様に静かだ。
――三人には何か見えているのかしら?
「……へぇ。なるほど、そういうことね」
遊輝の独り言が小さく響く。他に物音がしない。
「うん、いいよ。それなら僕も協力してあげる。興味があるんだ。やってみるといい。――それでも彼女は抗うと思うよ?」
――一体誰と何を話しているの? ひょっとして……。
ある結論を導き出すとともに、身体が、いや、意識が闇に飲まれていく。
――この力は魔性石!?
声を出したくても声にならない。闇を見ていただけだというのに、いつの間にか術中にはまっていたのだろうか。
――もう限界……。
フレイムブラッドの力に頼ろうとしたのに応答がない。薄れゆく意識の中、漆黒の闇の中に真っ白な雪の花が舞うビジョンが見えた。
(第六章 闇に寄り添う白雪の花 完)
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