第7章 白水晶は未来を託す

第105話 *1* 10月12日土曜日、深夜

「――なるほど、本当の目的はこちらでしたか」

 フレイムブラッドの声が聞こえる。こうは意識を取り戻した。

 ――ここ……?

 起き上がったつもりだが、周囲は真っ暗で何も見えない。気配だけ感じ取れるためにどことなく不気味だ。

「フレイムブラッド、状況を説明してくれない?」

 紅が意識を失っていても、魔性石であるフレイムブラッドが知覚しているらしいことを経験から知っている。すべてを把握しているとは限らないだろう。だが、彼女の先ほどの台詞も気に掛かる。とにかく今は情報が必要だ。

「ここは〝氷雪の精霊〟の結界内のようです。魔性石の力で、精神を飲み込まれたものと推測されます」

「なんでそんなことをする必要があるのかしら?」

 目的が理解できない。気を失う前に聞き取れた遊輝ゆうきの台詞――それでも彼女は抗うと思うよ――も、彼が何かに気付いたらしいことを示唆しさしているのだが、どういう意味なのか紅には想像できなかった。

「一番の目的は、他のタリスマントーカーに邪魔されるのを防ぐためさ」

将人まさと……?」

 声は将人のものに思えた。どこから聞こえてきているのか判別がつかない。彼の姿もこの暗闇の中では見えず、紅は警戒する。

「すべては千晶ちあきばあちゃんからの伝言が元になっている。おれはていの良いメッセンジャーだ。それを踏まえて聞いて欲しい」

「いいわ。聞くだけきいてあげるわよ」

 祖母の名を聞いて、紅は申し入れを受ける。将人の安堵する息遣いが耳に届いた。

「紅、おれは千晶ばあちゃんから託されたこの力を使ってお前に試練を与えなきゃならない。場合によっては、お前は二度と身体に戻れなくなるだろう。千晶ばあちゃんが〝フレイムブラッド〟に〝氷雪の精霊〟の浄化を頼んだ理由は、このための下準備だ。外野がしゃしゃり出てきてごちゃごちゃしたが、すべては今日この時のため。どうか、戻ってきてくれよ」

 その台詞を最後に、紅の意識は再び途切れる。

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