第83話 *5* 10月2日水曜日、放課後
数分後、
ここまで来てしまえば、学校の連中の目は届かない。
「――ありがとう、
「一度やってみたかったのです。こういう楽しみができるのも、卒業まででしょうから」
本当に楽しそうに蒼衣は笑う。彼なりの
「あたしは結構恥ずかしかったんだけど」
「照れている
「……バカ」
呟いて、紅は横を向く。蒼衣はくすくすと笑っていた。
「――それはそうと、〝氷雪の精霊〟探しはどうにかしないと。期日が迫って来てるし。もう二週間もないわ。どうしよう」
「そうですね。私も気になっています。今日はもう少し生徒が減ってから捜索をしようと思っていたのですが、
「協力してくれるなら嬉しいわ。――だけど、入試に備えなくて大丈夫なの?」
「何を
申し訳ない気持ちで蒼衣を見上げると、彼は立ち止まり、手を繋いでいた紅の左手を両手で挟んだ。
「私のことよりも貴女の方が大事に決まっているではありませんか。万が一、推薦入試が流れてしまったとしても、そのあとで挽回することは可能です。しかし、紅、貴女は違います。貴女を護ることもできずに婚約者であることを強要などできましょうか?」
見つめてくる蒼衣の目は真剣そのものだ。心の底から紅を心配しているのが伝わってくる。
「うん……気持ち、ありがたく思うわ。ごめんね、心配掛けてばかりで」
「構いませんよ。貴女を愛してしまったからには、避けて通ることなどできないのですから」
蒼衣は紅への愛情表現として「愛している」という言葉を口にする。兄としてしか彼を見ることができない紅には難しい感覚で、受け止め方や返しにいつも困る。
――異性として見ることができれば、ちゃんと応えられるのかな……。
「……うん。――えっと、とりあえず、中に入れてもらえるかしら? 外だと、誰が聞いているかわからないし」
結局、紅は逃げることを選択して、提案する。いつまでも手を握られた状態でいるのは、やはり照れがある。
「そうですね。お茶でも飲んでひと息ついたら、学校に戻りましょう」
学校を出て来たときと同じように、蒼衣は紅の手を引く。ふと、幼い頃にも同じようにしてもらった記憶が蘇り、紅は懐かしく思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます