■第三章■~第二次魔人戦争~
初陣
私達は、事件解決に向けた準備を開始した。戦闘が予想されるため、入念に装備を整える。師匠と共に魔法使いがよく利用する店へと赴き、私の丈にあったローブを師匠がプレゼントしてくれた。
それは、綺麗な紫色で足元まで覆うフード付きのローブだった。胸元には、精緻なデザインで出来た銀色の胸甲が付いている。そして、手首を守るための
ローブは、斬撃や刺突の威力を減らす
「お金のことを気にしているのですか? ダメですよ。これは、リョウに死んで欲しくない私のために買ったんです。貴方が気にする事ではありません」
「……はい、ありがとうございます。師匠」
私は心の中で感動していた。感謝と尊敬と愛情と喜び、そんな想いが渦巻いていた。いざとなれば、私が師匠の盾となって守り抜こうと誓った。
その後、一通り買い物も終わり帰路についた。出発は明日。プリシャとはしばらくお別れだ。寂しがらない様に、今日だけは遊びやお喋りに付き合うことにした。
そして日は沈み、4人で食べに行くことにした。大師匠様の奢りで。なかなかの高級料理をご馳走になり、プリシャも私もご満悦となり最後の晩餐は終わった。
――出発の朝――
「それでは大師匠様、プリシャ、行って来ますね」
「お師匠、プリシャの事どうかよろしくお願いします。遅くとも2ヶ月以内には帰る予定です」
「気にしないで行ってきなさい。無理をして気持ちが焦ればミスをするわよ」
「師匠、リョウ、絶対帰ってきてね。待ってるからね! 絶対だからね!」
「ええ、必ず無事に帰ってきます。その時は、リョウは認定魔法使いの試験ですね。プリシャもお師匠様に鍛えられて立派に成長してくださいね。楽しみにしています」
別れ際にプリシャは泣き始めてしまったが、セドナさんにあやされながら、最後まで手を振って見送っていた。大丈夫。師匠と二人で、必ず無事に帰ってくるよ。私は荷馬車の荷台に座りプリシャ達に手を振り続けた。(ドナドナド-ナ-ド--ナ--)
出発後、まもなく。
「師匠、聞いておきたいのですが、今回の件を解決させる糸口は掴んでいるのですか?」
「勿論です。私がこの国に来て、調査と情報収集を経て導き出した確信があります。だからこそ、貴方と一緒に行こうと思ったのですよ。それに勝算の高い作戦もありますからね」
「流石です、お師匠様。
しかし、私の独力ではないのでズルみたいで気が引けますね」
「それは違います。師弟の信頼関係を測る目的もあるので、功績は師弟で作る事となっています。私もそうでしたし他の師弟も同様です。見習いは、師匠の監視下か許可が下りた場所でしか魔法が使えない法律もあり、それがルールとなってるんですよ」
「そういえば、認定魔法使いの証がなければ悪用防止のため、公に魔法を使えないと言ってましたね」
「そういう事です。安心して一緒に頑張りましょう」
「はい。よろしくお願いします」
師匠の話では、今回の魔物襲撃増加事件には、ある一定の法則があるという。
師匠は道中、丁寧に解説をしてくれた。魔物による、集落への襲撃や戦闘などは、昔からあった。しかし、それが同時多発的に激化したのが今回の騒動である。
ここで、大まかな可能性は二つになる。一つ目は、魔物自体が激増したから結果的に襲撃事件が増えた可能性。二つ目は、魔物の数自体は変わってはいないが、なんらかの原因で同時に襲撃を開始した可能性。大まかに分けると、この二つになる。では、さらに分解して考えていく。
魔物が激増した場合の原因についてから考えよう。一つ、異常繁殖の可能性。二つ、他の地域から移住してきた可能性。次は、同時に襲撃してきた場合の原因について考える。一つ、知能の上昇。二つ、何者かの操作。
以上の可能性を頭に入れた上で、師匠が収集した情報を上げていく。魔物達の襲撃箇所を地図に記入していくと、法則性があることが分かった。それは、森だ。森から半径10キロほどの範囲内でしか、襲撃は増えていない事がわかった。私がいたグレッタ村の近くにも森があった。
さらに、魔物の構成についても不可思議な点がある。ここ、フェッド大陸に棲む魔物達は他種族と決して群れない。 例えば、有名なところでゴブリン、オーク、オーガ、トロルなどの魔物が存在しているが、ゴブリンはゴブリンだけで群れを作りトロルはトロルだけで群れを作る。しかし、今回の事件では違う。
ゴブリンの群れの中にオーガやオークがいたと、各地から情報が上がっている。それどころか、4種類以上の魔物達が存在する大型の群れの確認もされている。それが近隣の国でほぼ同時にだ。明らかに異常と言っていい。ミディランダ公国では森が少ないため、襲撃事件に巻き込まれた者もいたが少数だった。そのために、師匠は情報を求め森が多いゴードレア王国に移住し、事件の調査に当たっていた。
森、混合の群れ、同時多発。このキーワードを調べていくと、ある歴史にぶち当たる。それは、魔法使いの力が悪用されないように、認定魔法使い制度を各国が導入した切っ掛け、歴史の授業を学べばまっさきに習う事になる、忌まわしき歴史。
「魔人戦争」
一人の有能な魔法使いがいた。彼は度重なる戦争に疲弊した祖国を救うため、ある魔法を完成させる。その魔法の詳細は禁忌とされ歴史の闇に消え去ったが、起こった惨劇は今も歴史に残っている。彼が生み出した技術と魔法により造られた存在、魔人。魔人の魔力量は大したことがなかった。問題なのは、特殊な魔力の質から生まれた特殊魔法だった。
それは、魔物を操る能力。自然界には魔力が濃い場所が存在しており、その場所の魔力を取り込み、己の魔力量をカサ増しして魔物を操る。それが魔人の能力だった。そして、その魔人は一人の有能な魔法使いの手によって、何体も製造された。
その後、魔法使いは魔人の群れを各地の魔力の濃い場所に派遣し、戦争に終止符を打つために行動を起こした。そして悲劇の歴史が生まれた。
ここまで説明されたら、頭の悪い私にも理解できた。答えは一つ。
今回の魔物襲撃増加事件は「魔人」が深く関わっている。そうとしか考えられなかった。そしてこの時、歴史の勉強の時に抱いた違和感を思い出していた。
「魔人」という単語を、どこかで聞いた気がするが……思い出せない。
「師匠、二人だけで解決できる問題とは思えません……」
「フフフ、勿論です。二人だけで解決する訳ではありませんよ。
命は大切ですからね」
「では、どうするのですか?」
「答えは、あそこです」
荷台に座り、会話と考察に夢中で気づかなかったが、私達はラーナの街中央広場の門前に来ていた。ここから広場を見渡すと、殺気立った人の群れが視界に飛び込み思わず息を飲みこんだ。
それは、冒険者と認定魔法使い。そして、正規兵で構成された討伐隊がひしめき合う光景だった。よく見ると、私と同じ卵の絵が刻まれているペンダントを付けている人もいた。恐らくは私と同じ理由で来たのだろう。
「戦争ですかね……」
「ええ、恐らくは魔人との」
「生きて、我が家に帰れますかね」
「大丈夫、こちらの戦力の方が圧倒的に上ですから。さらに、味方はラーナの街だけではなく、各地からの援軍による包囲戦になります。勝算が高いと言ったのはそういう事です」
「なるほど。さすが、師匠です!」
「さらに認定魔法使いギルドからの信憑性の高い情報によりますと、国の危機でもあるため、今回の討伐隊に参加して魔物を多数討ち取った見習いには、国家が功績として認めるとの事です」
「私以外にも見習いが多いのはそのためですか」
「ええ。中々ないチャンスですからね」
暫くして、 今回の討伐隊最高責任者である王国第三騎士団長マグウェル・ダルカスにより、有難いご高説と騎士の心得という長話を賜った。
その後、作戦内容が説明された。私達はこれより、ラーナの街から馬車で南に1週間ほどの距離にある、サージマル領最大の森、コリアコの森へと出発する。
これが、私の初陣となる。
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