新しい師匠
グリーナ・ミディランダ
リョウとプリシャの師匠にして、若干14歳にして認定魔法使いに認められた才女。
彼女も、リョウやプリシャと同じく孤児だった。とある魔法使いが彼女を自分の養子として迎え入れ、魔法の英才教育を行った。
彼女は類希な才能で、次々と魔法を習得し国家が認める功績を作ることに成功する。その後、認定魔法使い国家試験にも当然のように合格し、彼女は魔法使いとなった。その後、彼女は師匠の下から巣立ち、友好的な隣国であるゴードレア王国へと移住した。彼女が移住を決めたのは、ある事件が切っ掛けだった。
「魔物襲撃増加事件」
ミディランダ公国やゴードレア王国のみならず、フェッド大陸全体に影響を及ぼしている事案である。この異変は、彼女が14歳の時から発生しはじめる。昔から、魔物と呼ばれる種族が人間の住む領域に出没し、村や町を襲うといった事件は起きていた。しかし、ある年から急激にその件数を増やし、犠牲者が膨れ上がったのだ。
魔物による被害の影響は拡大した。
まず治安が悪化し、さらに農村での犠牲者が多かったため、同時に作物の収穫減少が起きた。すると、作物減少の影響で仕事を失い食料の物価も上がる。物流業界は道中に襲われることを警戒し、冒険者などの護衛を増やし、物流業界の護衛に冒険者が流れてしまった。さらに、魔物の討伐にも冒険者が流れ、街の中で治安維持を担う人材が不足してしまった。結果、治安はさらに悪化して盗賊も増加、食うに困った貧困層の増加まで起きる最悪な事態となった。
それが原因となり、グリーナは友達を失い、プリシャは孤児となる。
周辺の国々は、これを危機的状況と判断して行動に移した。まずは、認定魔法使いが所属するギルドを通じて、全ての魔法使いに積極的に治安維持及び魔物の討伐をする様に促した。続いて、冒険者ギルドにも同様に呼びかけた。さらに、治安悪化を改善するために、国や領主が管理している兵隊達を、巡回兵として各地に派遣させた。国の守りは薄くなるが、背に腹は代えられないとの判断だった。
グリーナは、魔法使いの友の仇を討つために行動を開始した。魔物の討伐とともに、魔物の襲撃が増加した原因を突き止めるため、彼女の旅が始まったのだ。そして、リョウはグレッタ村でグリーナに拾われた……。
「リョウ、嫌であれば断ってください。その時は違う指示を与えますからね」
「……いえ、師匠と共に魔物襲撃増加事件の解決に行きたいです!」
「本当ですか!? これは、私情でもあります。危ない旅になりますよ?」
「そのために、魔法の練習に励んできました。
師匠の力になれるなら、私は迷いません」
「……リョウ、私は幸せ者ですね」
本心だった。格好をつけたい気持ちもあったが、それ以上に師匠の役に立ちたいと考えていた。私を拾い、衣食住を与えてくれたその恩を、返すチャンスはここしかないのだと確信した。ただ、一つ気がかりがある。
「師匠、プリシャはどうしますか? 留守番は出来るでしょうが、少し心配です」
「はい、その事でプリシャに話があります。プリシャを呼んで来てください」
「……そういう訳で、私とリョウは2ヶ月を予定した旅に出ます」
「私も行く!」
「ダメです。まだプリシャには危険過ぎます」
「……行く!」
「ダメです」
「……」
「プリシャには、留守番をして貰うことになりますが、
それだとプリシャも心細いでしょう」
「……」
プリシャは俯いて返事もしない。目の端には涙が溜まり、頬を赤くし膨らませて拗ねている。隣に座っている私は、プリシャのサラサラになった綺麗な髪と一緒に頭を撫でた。
「そこで、以前から手紙で連絡を取り合っていたのですが、私のお師匠が来ることになりました」
(師匠のお師匠……どんな人なんだろう)
「……」
プリシャはチラッと上目遣いで様子を窺っている。
「予てより、私の弟子達を見てみたいと仰っていたので、留守番中のプリシャのご指導をお願いしたところ、快諾してくださいました」
「ふーん」
不貞腐れたプリシャは、無関心を装い反応をし始めた。
「数日中にお見えになると思いますので、その時に改めて紹介しますね」
「はい」
「……」
そして、数日後。
コンッ コンッ コンッ
我が家の扉をノックする音が響く。
この日は、私とプリシャと師匠の3人が居間で待機していた。そう、お師匠様の来る日だ。師匠はパタパタと小走りで玄関までいくと、ひと呼吸置いて扉を開けた。
「お久しぶりですわね、グリーナ」
「はい、お久しぶりです。お師匠」
「さぁ、狭い所ですが、遠慮せずにお上がりください」
「ええ、お邪魔しますわ」
師匠のお師匠様がお見えになった。その姿を視界に入れた瞬間、私の体に電流が走る、そんな錯覚を覚えた。身長は170cm以上の長身で、美しい赤髪が腰まであるロングストレート。体型は、グラマラスの一言だった。胸元が開いており、魅惑の巨乳に目が奪われてしまう。まるで、淫魔が実体化したかの様な肉体に、自分の意志とは無関係に目を奪われてしまった。
「ごきげんよう!
「あ、はい。ごきげんよう。私の名前は鈴木遼一と言います。皆からはリョウと呼ばれていますので、そうお呼びください。グリーナ師匠の一番弟子で今年で11歳になりました。よろしくお願いします」
「私はプリシャ・ハートラ。二番弟子、11歳です。よろしくお願いします」
私とプリシャは立ち上がり、自己紹介と共に深々とお辞儀をして挨拶をした。
「はい、よろしくですわ」
「お師匠、私の弟子達はどうですか? とても可愛いらしいでしょう」
「そうですわね……。将来が楽しみですわ」
セドナさんはそう言うと、私を見つめて意味深なウィンクを飛ばしてきた。
私は無意識のうちに鼻の下を伸ばし、頬を赤らめてしまったようだ。
プリシャに足を踏まれた……。
「それにしてもグリーナ、貴方は変わりませんね。
最後に会ったのは14歳の時でしたが、背も胸も成長していませんわね」
やめてあげて。私もずっと思っていましたが、傷つくと思い禁忌の話題として触れてこなかったんですよ。ほら、口を半開きにして絶望したかの様に青ざめて、師匠がぷるぷる震えてるじゃないですか。謝ってあげて!
「し、おし、お師匠様もお変わりなく。今年で147歳のお婆ちゃんですのに、腰は大丈夫なのですか? 若作りも大変かと思いますが、ご健勝で何よりです」
「あらあらあらあら、中々言うようになりましたわね。私の下で修行しているときは、緑のヒヨコの様に付いて来てとても愛らしかった純情な子が、汚れてしまった様ですね。師匠は悲しいですわ。それよりも大事なお話があるのでしょう?」
「……はい。以前にお伝えした通りですが、私とリョウはしばらく旅に出ます。その間、お師匠にはこの家でプリシャの指導をして頂けたらと思います。家は好きなようにお使いください」
「わかりましたわ。プリシャちゃんもそれで良いかしら?」
「……はい」
「ならば問題ないですわ。私が立派な魔法使いに導いて差し上げますわ」
「お師匠様、ありがとうございます。本当に助かります」
「フフフ。不出来な弟子の頼み事ですもの、断るわけないじゃない」
一時はどうなる事かと思ったが、あれは二人の挨拶の様なものだったのかもしれない。これで家の事はセドナさんにお任せして、心置きなく魔物襲撃事件の解決に向けて全力を尽くせそうだ。果たして、私は無事に師匠と共に帰ってくることが出来るのだろうか……。
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