新しい友達
「清浄な聖水は、全てを癒す糧となる【
詠唱が終わると、掌よりキラキラと輝くエメラルドブルーの色をした、美しい水が生成された。その水を少女の体に浸らせると、美しい輝きを放った後ただの透明な水として零れおちた。
「うわぁ、すごい! 綺麗で気持ちいいね!」
そんな少女の体には、もう傷はない。
まるで、最初から何もなかったかの様な綺麗な少女の肌だった。
「終わりです。体を拭いて服を着ていいですよ」
「うん! ありがとう! もう体が痛くないや」
「それは良かった。怪我をしたらいつでも言ってくださいね」
「リョウはすごいね! 本当に魔法使いなんだね!」
少女は喜色満面の笑で、はしゃぎながら服を着る。
私は後ろを向き、彼女の言葉に静かに答えた。
「まだ見習いですよ」
今、私は戸惑っている。あの怪我の数は異常だ。虐待だけでなったのか、盗みを働いて折檻でもされたのか、事情を知らない第三者の私がとやかく言うべき事ではない。だが、見て見ぬふりをしていい傷だったとも思えない。
「ねぇ、リョウ! 私も魔法使いになりたい!」
「……勉強しないとなれませんよ?」
「うっ!? ―――べ、勉強したらなれる?」
「ちゃんとすれば成れますよ」
その日の夜、私は師匠に相談した。
―――季節は巡る。
時が過ぎるのは早いものだ。
望んでも、望まなくても、時間は過ぎ去り大人へと成長していく。
嫌なこと、良い事、生きていれば色々とある。
苦しさに心が負けてしまう時もある。でも、なんとか元気です。
私は、10歳になりました。
「いただきます」
「いただきます!」
「いただきます。リョウは料理が本当に上手ですね」
今日は珍しく3人で昼食を取る。
いつもなら、師匠は仕事のため昼食はプリシャと二人で食べている。
今日のメニューはシジール芋とガンモ鳥を刻んで入れた、アグボラの乳を使ったクリームシチューだ。それに、柔らかくておいしいパンをシチューと一緒に食べる。
さらに、サージマル領最大のシーヌス川で取れたグレイフィッシュのムニエルまで付いている。
本日はプリシャの特別な日。
いつもより、豪華な食事にお腹が満たされていく至福の一時だ。
プリシャは、
プリシャを新たな弟子候補として迎え入れ、見習い魔法使いになるための国家試験に挑ませる。そのために、私は師匠が留守の間に勉強を教えた。
勉強以外にもモラルや法律に関する話もした。
すっかり私は教育係になってしまった……。
プリシャの飲み込みは悪く、算術が大の苦手だ。もとより、勉強嫌いの性格なため積極的に学ぶ姿勢がない。案の定、一回目の見習い魔法使いの国家試験には落ちた。それが昨年の話。
プリシャが10歳になる2ヶ月前、臨時の国家試験に二度目の挑戦をしてギリギリで合格を果たした。ラーナの街は人口が多いため、試験回数が年に一回以上は有り、
臨時試験が行われる月もあるため気軽に挑戦できるのがいい。
さすが、都会は違いますね……。
そんな訳で、プリシャは正式にグリーナ師匠の弟子となった。
私と同じ、卵のペンダントを持った見習い魔法使いになったのだ!
「清浄な聖水は、全てを満たす玉となる【
「不可視の強風は、空を切り裂く刃となる【
プリシャが見習いとなって1年が過ぎたころ。
魔法の練習に入った所で、彼女は瞳を輝かせて努力を始めた。
なぜ、その本気を算術と国語と歴史の勉強時に発揮しなかったのか、
小一時間問い詰めたい。魔法の基礎の勉強も終わり、魔法の実践訓練に入り彼女は水と風の初級魔法を習得した。
「ねぇ! どう? すごいでしょ!」
「あ、はい」
「私、才能あるかも!」
「あ、そうですね」
「やっぱり!? リョウを超えるのも時間の問題だね!!」
「お、そうですね」
妹弟子はうるさくて困る。
褒めるとすぐに調子に乗りはしゃぎ出す。私はすでに、水と風の中級魔法を全て覚えた。さらに、師匠の教えにより新たな種類の魔法、土魔法も中級をいくつか習得していた。
……土魔法。
それは、攻防力に優れたバランスの良い魔法だ。その中でも、魔法使いの致命的弱点とも言える、防御力を高める術が多くあるのが魅力である。熟練の魔法使いは、不可視の風魔法を土魔法で難なく防ぐことができる。土魔法を使える者がいるだけで、周りの人間は安全を得るに違いない。
「堅牢な産土は、同朋を守護する盾となる【
「堅牢な産土は、眼前を破壊する弾たまとなる【
初級土魔法【
硬く大きい石の弾丸が生成され、それを完全無詠唱ができるまでに練度を上げた、風魔法で射出させる。勢いよく射出された石の弾丸は、その暴力的な破壊力を盾へとぶつけ、盾は粉々に砕け散った。そう、私は風魔法を軸にして二系統の魔法を同時に操ることが出来る様になったのだ。
「すごい……!」
「フフフ……(どやぁ」
私にとってプリシャは手のかかる妹であり、弟子でもあり友達である。
彼女といると思う事がある。
心機一転して許可を頂いた空き地へ行き、私達は今日も魔法の練習に明け暮れる。 そして私とプリシャは11歳になり、師匠も21歳になってしばらくしたある日。
「リョウ、貴方に大事なお話があります」
「はい、なんでしょうか」
「貴方の魔法の力は、すでに認定魔法使いとしての最低限の基準に到達しました。あとは私が指示する事に従い、国家に貢献したと認められる成果が出せれば、認定魔法使い国家試験を受けることができます」
「はい」
「しかし、それが一番の難関です。
見習いのまま魔法使いになれずに終わる、そんな人が大半を占めています。
それが、認定魔法使いの権威にも繋がっているわけです」
「はい」
「リョウ、貴方に私から指示を与えます。必ずや国に認められる功績を挙げてください。ただし、絶対に命を散らすような危険には飛び込まないでください。
約束できますか?」
「はい、約束します」
「では、リョウは私と共に魔物襲撃増加事件の終止符を打ちに行きます」
「――――っ!!」
私と魔物との戦いが始まることになった……。
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