ジークの手記


――何から書き記そうか……。


そうだな、俺のもう一つの記憶の話がいい。地球という世界で生きた、

架空の男の記憶を話そう……。彼は小説と呼ばれるものが好きだった。

中でも事故死して異世界へと転生して、人生をやり直して活躍する。

そんな話が好きだった。そんな情報が記憶として思い出せる様になった。


そこで、俺は疑問を持った。

あれ? この架空の記憶は、あの女性が作り出したモノのはずだ。

つまり、100%の純度であの人が創作した物語の情報という事になる。

小説の話も、男の記憶にある経験の話も全てだ。全てが女性の創作物となる。


その事実に気づいてしまった。

それを元に架空の記憶を思い出すと、面白いことが分かった……。

この架空の記憶には、自身への劣等感の多さは勿論の事。

好きな小説やアニメの内容が事細かに記憶されていた。


もしかして、彼女が考えた話なんだろうか……。

一人で考えた話を、ここぞとばかりに詰め込んだのだろうか。

何を伝えたくて奴隷の少女でハーレムを作る話を考えたんだろう。

何を思って転移者が孤児院を経営する、斬新な小説を書いたんだろうか……。

その奇抜な発想は天才のそれだ、理解には苦しむが間違いない。


あの女性は、記憶の世界に存在する小説家になりたかったんだろうか。

そう思うと、親近感が湧いてくる。彼女はお茶目な性格なのかもしれない。

今頃は息子さんを人工記憶で蘇らせたのだろうか……。気になる。

彼女達に聞きたい事は山ほどあるが、敵ではない事を祈る。


せめて、お茶目な彼女だけは幸せに暮らしているといいな。

記憶を全て消されたはずなのに、今も一部は残っている。

しかし、彼女達の顔は思い出せない。

いつか再び、出会う事はあるのだろうか……。


記憶に関しての話はこのくらいにしよう。

もっと、書いていて明るくなれる内容が書きたい。


師匠の話をしよう。

記憶が蘇った俺は、今まで溜め込んできた本音などを口にして、

積極的に思いを伝えようとしている。他人行儀な関係ではなく、真に通じ合った関係になりたいと思ったからだ。そのせいか、最近では色々な変化が起こった。


師匠が余所余所しくなったんだ……。

今までどれだけ感謝してきたかを伝えたくて、顔を見るたびに褒めたら、師匠が俺から逃げるようになってしまった。褒められるのが好きだったのに、何故だ?

最初はそう思っていた。だけど、少しずつ気がついた……。


師匠は照れている。

顔や仕草が可愛いと褒めるたびに、顔を赤くしてモジモジする。

師匠の性格が素晴らしく、いかに尊敬しているかを言葉にすると逃げる。

子供の頃から好きだったと伝えたときは、真っ赤になって動揺していた。

思い出しても可愛い。


師匠も満更じゃないのかもしれない……。

自意識過剰かもしれないが、もしかして脈はあるのだろうか。

いつか、師匠が逃げないようにして思いを全て伝えたい。


お断りされたら、独り立ちして旅に出よう……。隣町あたりに。

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