追加話 少女グリーナ その2


――リングナットの町に向かうまでの間、少女は昔を思い出す。



心が明るくなる、晴天の夏空。

その日、グリーナはお師匠であるセドナと買い物に出かけた。


「お師匠様! また私の服を買ってくれるとは本当ですか」

「ええ、お洒落は淑女しゅくじょたしなみですわ」

「ありがとうございます!」


彼女達はショッピングを楽しむついでに物見遊山に出歩いている。

一番の目的はグリーナに似合う衣服の購入である。セドナは、前々からグリーナの服装センスが気に入らず、買い物に出かけたいと考えていた。


「グリーナは、どんな服が着たいのかしら」

「緑色の服がいいです!」

「……この前も、緑色の帽子と服を買いましたわよ」


グリーナは緑色が好きだった。

自身の髪色とは若干違うが、帽子も服も緑系統の色でお洒落をしていた。

少女は緑のカラーヒヨコの様に、今も可愛らしく歩いている。

傍から見れば、赤いトサカの鶏の後ろを歩く、緑のヒヨコそのものだった。


「違う色の方が似合うと思うわ。色々な服を買いなさい」

「……緑がいいです」

「何故ですの?」

「死んだお母さんが、緑が好きで私も好きだからです」

「……そう」


セドナは諦めた。少女の拘りには意味があり愛があったからだ。

これ以上の押し付けは無粋と思い、静かに見守ることにした。


「お師匠様! お店に着きました」

「ええ、入ってゆっくり見ましょうか」

「はい!」


行きつけの店に入り、目の保養とばかりに練り歩く。

セドナは自身の艶かしい肉体に合う衣服を……。

そして少女は自身の好みの緑色を探して練り歩く。


「お師匠様! これを買ってもいいですか?」

「……う~ん。深緑と緑の帽子ねぇ」

「じゃあ、これはどうですか?」

「……若草色のパンツねぇ」

「あと、これも」

「……シャルトルーズグリーンのブラジャーねぇ。そもそも胸がないわよ」


少女は言葉を失う。

セドナの様に、精緻なデザインの下着を身に付けてみたかった。

しかし、少女にブラジャーは必要が無い事実を突きつけられた。

まだ少女の年齢は10歳で、成長の余地はあった。が、成長の兆しがなかった。


「…………」

「わ、悪かったわ。きっと成長するから買いましょう」

「……殿方に揉まれれば、本当に大きくなりますか?」

「本当に好きな相手なら……ね」

「……」


少女は思い詰めた様な表情で、自身のホワイトボードを見つめている。

いつか、自分にも好きな相手ができるのだろうか。

いつか、好きな相手と愛し合えるのだろうか。

10歳になったばかりの少女には、まだ分からない遠い話だった。


「お師匠様の、好きなタイプの殿方とはなんですか?」

「眉目秀麗で頭脳明晰、その上で将来有望な年下がいいわね♡」

「年下がいいのですか?」

「ええ、私は甘えるのより甘えられる方が好きですわ」

「甘えた方がいいのでは?」

「フフフ、年下の可愛い殿方を自分に依存させる快楽。

 貴方には、まだ分からないですわね」

「……わかりません」


この時の少女には、セドナの言葉の意味がわからなかった。

年下に甘えられる事の何がいいのか、理解できなかった。


少女が年下の良さを知り

愛弟子に依存してしまうのは、まだ先の話……。





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