■第五章■~魔法使いの金儲け~
魔法使いの仕事
―――今、私は家庭菜園をしている。
私の夢に、庭付きの家で家庭菜園をする事がある。ここは師匠の家であり、私の家ではないが、家を持てるほど稼ぐまでは使わせて貰う事になった。初めての作物には、シジール芋を育てることにする。栽培が簡単で綺麗な紫色の花を咲し、花も茎も食べられるシジール芋は優秀な作物だからだ。花の部分はお茶にもできて、非常に良い香りもする。ちなみに、普段食べている芋の部分は、根ではなく茎なので、間違えないようにね。
貴族も住んでいる高級住宅街なためか、値段の割に土地は狭い。それでも、私が一人で管理しきれる広さの庭ではないため、一区画だけで栽培している状態だ。植えてから10日が経ち、シジールの種芋から芽が出てきたところだ。
作物の成長は嬉しいものです。大きく育ってくださいね。
何時か自分の家を購入したら、改めて育てる予定です。
「リョウ~、私も手伝うよ!」
「ありがとうございます。でも、殆ど終わりましたから大丈夫です」
「そっか~、早く育つといいね! シチューにしようね」
まず始めに、土魔法の応用で小石を粉砕し
「……さて、そろそろ時間なので行ってきますね」
「行ってらっしゃい! お仕事頑張ってね!!」
「行ってきます。プリシャも魔法の練習頑張ってくださいね」
―――そう、今から仕事に行くのだ。
魔法使いになりギルドへ加入した私は、初心者用の依頼などを受けて、稼げる様になったのだ。若い新参者のため、信用が無く良い仕事は紹介されないが、これから信用を積み重ねていくしかない。
そして、魔物の討伐依頼を受けた。魔物襲撃事件を解決させるために、各国が動き出したものの、まだまだ影響は残っている状況だ。魔人が倒された後に、正気に戻った魔物達が移動を開始し、各地で悪さをしているため依頼は多かった。魔物の討伐は、証拠となる物を持ち帰りさえすればいい。例えば、耳や眼球などでいい。討伐対象の魔物が特殊であれば、部位を指定されたりもする。
正直な話、気持ち悪いですね。人間の生存を脅かすので、その辺は割り切って戦いますが、好き好んで殺そうとは思いませんし、部位を持ち帰る行為が気持ち悪いです。それでも人々の安全と、自身の収入のためにも大事な仕事です。
そう、大事な収入源なのです。何故なら私は、
―――借金を背負っているのですから。
私も魔法使いとなり、一人で行動を開始しました。本当は師匠と仕事をしたいのですが、規約上それはできません。弟子の独り立ちを促すために、認定魔法使いになって以降は同じ仕事はできません。ギルドが認める特別な依頼や、ギルドが介入しない仕事であれば可能ですが、そうそう無いです。そこで、荷馬車が必要になったのです。
一人で行動するには移動手段が必要ですが、我が家の荷馬車は師匠が使うため、私は徒歩になってしまいます。討伐対象がいる場所まで、徒歩で時間をかけて行き、魔物の部位を持って帰る……。非常に重労働です。魔物の部位次第では大変な事になります。私も荷馬車を買おう、そう思いました。
「一番安い荷車ですかい?
引く動物を抜きで、ゴードレア金貨7枚は必要ですが、払えるんで?」
「……ふぁっ!?」
「魔法使いでも、旦那は若いから厳しいでしょう?」
「なんでそんなに高いのですか?下手な家より高いじゃないですか」
「作れる車大工が少ないもんで、さらに贅沢品という名目で税が高いんですよ。
それに、今回の騒動で木材が高騰しちまってね……」
森の近くの村々が襲われ、木こりが壊滅。危険地帯で仕事なんてしたくないだろうし、当たり前の話だ。しかし、私の全財産でも買えないのは予想外だった。安い二輪の荷車でも金貨7枚とは高すぎる。材料を揃えて、自分で作ろうかと思ったが、法律上それはできなかった。国や領主が認めた業者の職人しか、作ることができない物なのだ。物流の必需品で売れるのが分かっているから、税金を搾り取るための監視なのだろう。しかし困った。諦めて移動用の動物だけ購入するか迷っていると、後ろからセドナさんがやって来たのだ。
「あらあら、どうしたのかしら? リョウ」
「大師匠!? 何故ここにいるのですか」
「いてはダメかしら? 可愛い孫弟子の後ろを、付けて来たわけじゃないわよ」
「…………付けて来たんですか、いいですけどね。
荷馬車を買おうと思ったのですが、高いですね」
「荷馬車を? お金が足りないのかしら」
「はい、予想以上の値段でしたね。金貨は4枚しかないので次の手を考えます」
損傷したローブの修理と、プリシャの誕生日用に大きいサイズのパジャマや服を購入予定なので金貨は4枚しか使えなかった。
「それなら、私が貸しますわよ」
「お気持ちだけ、ありがとうございます。
ですが、お金の貸し借りは嫌なので、自力で解決します」
「……(チッ)遠慮しないでよろしくてよ。
可愛い孫弟子を信頼していますもの、利子は無しですわ」
セドナさんは、そう言いながら肩に手を回してきました。
「いえ、自力で解決しようと思います。大師匠に、迷惑はかけられません」
「(チッ)気にしないでいいのよ。貴方の役に立てるなら、私が嬉しいの。
私のためと思って……ね?」
胸を押し付けて耳元で囁き始めました。正直、興奮しました。
「いや、ですが」
「大丈夫。貴方は優秀な魔法使いですから、すぐに稼いで返せますわよ。
しかも利子無しで!」
「……うーん。ですが、やっぱり悪い事だと……」
「(もうひと押し)大丈夫ですの。これは、貴方と私だけの秘密です。
グリーナにも言わないわ。ね!」
「借りても、返せる保証がありませんし……大金ですから」
「私は、ミディランダ家の者ですのよ? 金貨の100枚や1000枚、端金ですわ!」
「……」
「貴方の幸せが私の幸せですの。罪悪感があるなら良い案がありますわ」
「良い案……?」
「ええ、私の頼み事を聞いて下さらないかしら。
貴方にしか頼めずに、困っていたの」
「頼み事とは、なんでしょうか?」
「ええ、倒して欲しい魔物がいますの。
貴方への修行も兼ねて、お願いできないかしら?」
「師匠やギルドに頼んだ方が、確実なのでは?」
「グリーナには断られたわ。ギルドは嫌なのよ。個人的に嫌なの」
「……そうなんですか、私にも倒せる魔物ですか?」
「勿論!だからこそ、貴方にしか頼れないのよ。私を救ってくださらない?」
「……わかりました」
こうして、私はセドナさんからお金を借りて、セドナさんの薦めるがままに4輪の荷馬車を購入しました。ゴードレア金貨14枚という大金を支払い、金貨10枚の借金を背負いました。しかし、セドナさんの依頼を達成できれば、借金を帳消しにしてくれるという、破格の条件を提示されました。内容を詳しく聞いたところ、ラーナの街より東に4日ほどの草原に、森から移動してきたオーガの群れがいるらしいので、それを討伐して欲しいとの個人的な依頼でした。
「群れがいると分かっているなら、ギルドから討伐依頼が出てると思いますよ。 大師匠が、依頼する意味がないのでは?」
「私の独自の情報ですの。ギルドは把握していないはずですわ」
「……大師匠が自ら行けば余裕なのでは?
やはり、ギルドに頼んだ方が早いでしょうし」
「ギルドは嫌だと言ったでしょう!
それに、私が汚れ仕事に行くわけないじゃない」
「……そうですね。ですが、大師匠のメリットが分かりません」
「平和のためですわ!」
理由に納得できない。怪しすぎる。でも、お金が欲しい。絶対に裏があるのは、間違いない。しかし、セドナさんはそれ以上口を割らなかった。そして私は、欲望に負けたのだ……。ギルドで適当な魔物の討伐依頼も受けて、道中で遭遇したらついでに倒して稼ぐ予定だ。
―――こうして、魔法使いになった私の、初めての仕事が始まった……。
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