ハリティの手記

わたくしはハリティ・マッカート・キュライ、14歳。


あと2年で成人してしまいますので、それまでには魔法使いになりたいですわ。

本当でしたら師であるリロイの下で修行に励み、今の兄弟子と魔法使い試験に合格してたはずですの。コリアコの森での件がなければと、枕を濡らす日々でしたわ……。リロイは良い師匠でした。厳しくもあり優しくもあり、ユーモアに溢れていましたの。私の尊敬するただ一人の師です。せめて、神の下へ召されていると願っております。


コリアコの森。私の人生のターニングポイントですわ。


この森に行かなければリロイは死なず、グリーナ師匠の下には行かなかったでしょう。ミディランダ公国の才女グリーナ様の話は聞いたことがありますが、お近付きになれるとは思いませんでしたわ。そしてあの時、師匠が魔人によって殺された時に、今の兄弟子と騎士団長がいなければ私はここに居ないでしょうね。


あの時の光景は鮮明に覚えていますわ。灼熱の炎が襲ってきた時に、リロイは身を挺して守ってくれて死にました。私は絶望の中泣き続けましたが、今の兄弟子が窮地を救ってくれましたの。見習い如きが使えるはずもない高位魔法、【雷霊波状ライトニングウェーブ】。それを、私より3歳も下の少年が使ったのです。正直、衝撃を受けましたわ。


私……いえ、あの場にいた者なら分かっているはずです。彼が居なければ全滅していたと。年下に劣っているのは悔しいですが、完全に負けを認めてしまいましたわ。私は彼を尊敬しております。帰路に就く時は、あまりにも愛らしい容姿で馴れ馴れしくしてしまい後悔しましたわ。軽薄な女と思われてしまったでしょうか……。


あれから実家に戻り、リロイが亡くなった事を伝えました。魔法使いになる程度の力量や教養がないと、貴族の世界では相手にもされません。報告を受けた家族は私のために新しい師匠を用意してくれようとしましたが、お断りしましたの。新しい師と仰ぐなら、グリーナ師匠が良いと思いましたの。あそこなら尊敬できる兄弟子が居り、得るものが大きいと考えました。なのに……。


何故か私を目の敵にする、不真面目な二番弟子がいましたの。年下とは言え姉弟子ですから、新参者の私がとやかく言うべきではないでしょう。ですが、限度がありますの。私が兄弟子と親交を深めようと話し掛けると、決まって邪魔をしに来るようになりました。修行にしてもそうです。私はもっと強くなりたいのに、私よりも実力が劣っている姉弟子が、師匠の指導時間を多く奪っているのです。私は仲良くしたいのに、敵視もされて我慢の限界ですわ。そう思っていた時でした。


姉弟子の、兄弟子に向ける感情に気づいたのです。兄弟子が師匠のお師匠様に可愛がられている時や、私と会話をしている時に、不機嫌そうな顔をした後に兄弟子との間に割って入る様になりましたの。明らかに嫉妬や独占欲からの行動に見えましたわ。これだから、子供は嫌いですの。同い年の兄弟子に比べて、知性でも実力でも劣っている自覚を持って、身の程を理解するべきだと思いますわ。


そこで私は、兄弟子に直接相談しに行きましたの。そうしたら兄弟子は、プリシャの事は好きではないと断言して、放っておけば時間が解決すると言いましたわ。確かにそうかもしれないと、私は納得したんですの。その後で兄弟子は他に好きな女性ひとがいるのかと、疑問に思い質問しましたら、急に赤くなって目を逸らしました……私は気づいたんですの。兄弟子は私に惚れていますわ。


本当は気づいていましたの。お風呂から上がった私を見つめていたり、私の胸や足をチラチラと見ていることにも……全部。当然の事かもしれません。私は自身の容姿やプロポーションに自信がありますの。同年代の女性に比べても勝っていますし、道を歩けば殿方の視線が私に向いているのがわかりますから、兄弟子が私に惚れてしまうのも分かりますわ。ですが、愛らしい容姿をした優秀な兄弟子が、私に惚れていると確信を得たら、私まで意識し始めてしまいましたわ……。


それでも、下級とは言え私は貴族、身分は釣り合うのかしら……。ミディランダ大公の血縁者の孫弟子とはいえ、彼自身は貴族ではありません。しかし、彼は優秀な魔法使いで将来に期待ができますわ。そう考えるようになったら、彼の愛らしい顔を見るだけで胸が高鳴る様になってしまいましたわ……。


年下ですが容姿は好みですし、理知的で実力もあります。

将来性もあり、ミディランダとの繋がりもあります。



……ありですわね。

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