第2話 【第一王子】

春風が吹く暖かい昼のこと。

国の中央に高くそびえるユグドラシル城の広い庭園にさいらは2人の侍女と花の冠を作っていた。

「さいら様ずいぶんとお上手になられましたね 」「ふみづき様は今度はきっとお喜びになるでしょう」と侍女はさいらを褒めた。

さいらも作りながら「うんうん」と頷いた。


「できた!」


さいらはそう叫び、花の冠を空に掲げた。

その時、庭園の石畳を踏む音がし、さいらは素早くそっちを見た。

見るなり石畳の方へ駆けて行った。


「さいら様!走るのは危険です!」


侍女の注意に耳も貸さず、一心に駆ける。


「お兄様!」


さいらは兄である第一王子ふみづきの前で急ストップした。

肩で息を整え、右手にギュッと握っている冠を差し出すなり、満面の笑顔で「あげる」と言った。

しかし、ふみづきは虫けらでも見るかのような目でさいらを見下ろし、冠を受け取りもせず、右手の甲で払い落とした。


「何度も言わせるな!そんなものいらん!」


そう言い捨て、歩き出す。

さいらは顔を曇らせ、兄を引き止めた。


「どうして?こんなに上手に編めたのに…」


ふみづきは足を止め、後ろを振り向いた。


「上手い下手が問題ではない。私は忙しいのだ」


そう言うなり、また歩き出した。

さいらは更に顔を曇らした。

侍女はさいらに寄り添い、「また作りましょう」と言った。

しかし、さいらは首を横に振った。


「ううん、もういいよ。お兄様はわたしを嫌っているの。諦めるわ」


さいらは無理に笑顔をつくり、城内へと入っていった。

――――――――――


ふみづきはさいらを昔から嫌っていた。

さいらが4つの頃から毎週花の冠を贈られていた。

しかし、ふみづきがそれを受け取ったことなど1度もない。

時には野花の花束も贈られた。

それすら受け取らなかった。

そのようなやり取りが6年続いた。

今日でさいらは10歳となる。

4つ離れた兄に執着するのは今日が最後。

その最後の贈り物でさえ、受け取って貰えなかった。

祝の言葉もない。

第一王子にとって、妹は邪魔なものでしかない。

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