第128話 ある文学賞


 今年も、あの有名な文学賞の発表シーズンがやってきた。長い歴史を持つ、とても名誉ある賞だ。


 去年までは、ひとりの本好きとして賞の発表を待っていた。だけど今年は違う。私もひとりの作家として一矢報いようと思い、賞に応募したのだ。


「いよいよ発表ですね」

 一緒に連絡を待っている妻も、どこか落ち着かない様子だ。私も緊張を隠せずに、黙ってうなずいた。


 この文学賞では、応募作品を公平に評価するため、賞を選ぶ側には作者の正体がいっさい明かされない。誰が書いたのかは一切考慮されずに、作品だけが純粋に評価されるのだ。


 その公平さが評価され、今年も多くの関係者が固唾かたずんで発表を待っている。今年は、いったいどんな結果になるのだろうかと。


 やがて電話が鳴って、私のもとに受賞の知らせが届いた。10年も続いた人工知能の受賞を、ついに人間が止めた瞬間だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る