第110話 落語『話のまくら』


「どうだいっつぁん、奥さんに愛してるって言えたかい?」

「それがねえ、ご隠居。いざ言おうとするとどうにも口が言うこと聞かねえんですよ」

「いきなり本題に入るからだろう。大事な話をするなら、まずは話のまくらが大切だ」


「なんです、その話のまくらってのは」

「相手の気持ちをほぐすためにする、まあちょっとした世間話のことだね。なにか楽しい話でもすれば場の空気もなごんで、言いたいこともさらりと言えるってわけだ」

「でも楽しい話なんて知りませんよ」

「なら、いくつか笑い話を教えてやろう」

 それから数日が経ちまして。


「どうだい、うまく言えたかい?」

「それが、なかなか笑ってくれないもんで、ご隠居から教えてもらった笑い話、ぜんぶ言うはめになっちまいまして」


「それで奥さんは?」

「ええ、話のまくらで寝ちまいました」



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