第77話 決定的瞬間


 僕が撮影した写真がコンテストで金賞を獲った。

 「決定的瞬間」とタイトルをつけた写真は、立派な額に入れられてギャラリーに展示されることになった。


「いい瞬間をとらえましたね」

 その写真を見て、みんなは口々にそう絶賛してくれた。

 最初は喜んでいた僕だったけど、その後のみんなの反応を見て、逆にがっかりしてしまった。


 夕焼け空に浮かぶ雲が、翼を広げたドラゴンのようだ。

 言われてみれば、確かにそう見える。

 悔しいことに、そう見えてしまう。


 すぐに変わってしまう雲の形が、偶然この形をしていたのは、わずかな時間だっただろう。タイミングが悪いにもほどがある。

 悔しいことに、この写真を撮ったとき僕は、この雲に全然気づいていなかったのだ。


 相変わらず、みんなは雲ばかり注目して僕を褒めてくれる。その空の下を走る特別編成の臨時列車には、誰も気づいてくれないのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る