第65話 究極の選択


 高級和牛ステーキ二百グラムか、それとも本マグロの中トロか。

 冷蔵庫の前で、私は究極の選択を迫られていた。


 どちらを食べようか。私はなかなか決められない。

 額から汗がたらりと流れてきて、あごから床へぽたりと落ちる。


 お腹もすいているし、早く調理をはじめないと食材が痛んでしまう。

 最高の食材なのだから、やはり美味しく食べたい。


 小食の私には、両方とも食べるという選択肢はない。

 だけど悲しいことに、食べなかった方の食材はゴミ箱行きになってしまうだろう。もったいないけれどそれは仕方がない。


 私は選ぶのが苦手だ。

 レストランのメニューだって、いつも決めるのに時間がかかってしまうくらいなのだ。そんな私にとって、この選択はあまりにもハードルが高すぎる。


 うだるような蒸し暑い真夏の夜。

 壊れてしまった冷蔵庫の前で、私はまだ決められないでいる。 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る