第33話 懲りない男


 帰宅ラッシュのホームで、男は困っていた。


 OKのメールに、興奮した夜のことはよく覚えているのに。

 待ち合わせ場所がどこか、どうしても思い出せないのだ。


 彼女の携帯番号はまだ知らない。

 受信したメールも、家のパソコンからしか確認できない。

 男は、仕方なくスマホからメールを送った。


 約束の時間が迫る。

 いくら待っても返信はない。

 混乱と焦り、後悔が混じった嫌な汗が流れる。


 男はあてもなく繁華街を歩く。

 しかし、とうとう彼女からの返事がないまま、その日は終わった。


 男は後悔を胸に家路についた。

 自分の記憶力を過信し、面倒くさがってメモを残さない。その挙句に大切な用事を忘れ、人に迷惑をかける。似たようなあやまちを、どれだけおかしてきただろうか。


 さて。

 はたして男は、狼になりそこねたのか、カモにならずにすんだのか。

 あるいは、奇跡の出会いを逃したのか。


 男はりずに、今夜も出会い系サイトへログインする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る