11.捕獲依頼

 きょろきょろと辺りを見回しながら、レティシアは街の通りを歩いていた。舗装された道は綺麗に掃除されていて、ゴミ一つ落ちていない。家の壁も手入れされているようで、真っ白に保たれている。いつも彼女が歩く通りとは、様子がかなり違う。

 道の向こうから、豪華な身なりの女性が歩いてきた。複雑に編みこまれた髪は大きく盛られ、多数の髪飾りで華やかに彩られている。大きく開いた胸元には、手の爪ほどの大きさの宝石が付いた、高価そうな首飾りが揺れていた。

(パーティでもあるのかな)

 冒険者の、では無い方の。この辺りには貴族や裕福な商人が多く住んでいるし、近くの屋敷でパーティが開かれているのかもしれない。それとももしかしたら、あれが普段着なのかもしれないが。

 女性と目が合いかけて、レティシアは顔を伏せた。自分が身に着けている、着古された地味な服が目に入る。せめて汚れが少ないものを選んできたが、服なんてそんなにいくつも持っているわけではない。

 しばらく歩くと、目的の建物が見えてきた。木の扉には、花を編んで作られた輪っか状の飾りが掛けられている。レティシアは恐る恐る、その扉を開いた。

 建物の中は、小さなカフェになっていた。作り自体は酒場と似ているが、雰囲気は全然違う。大きな窓から日の光が取り入れられ、花や小物で飾りつけられた店内を明るく照らしている。客は大声で騒ぐこともなく、静かに談笑している。

 演奏する者も居ないのに、店内には落ち着いた音楽がかかっていた。硬質で透き通った音色が、耳に心地よい。レティシアは音楽に詳しいわけでは全く無いが、少なくとも今までに聞いた事のない音だった。魔道具でも使ってるのかな、と首を捻る。

 店内を見回すと、奥のテーブル席からクレアがこちらを手招きしていた。その隣には、ミルテが座っている。レティシアは席に向かう。

「クレア、よくこんなお店知ってたね」

 二人の向かいに座りながら、レティシアは感心したように言った。自分が他人に紹介できる店といえば、そこまで騒がしくない酒場か、精々デザートが美味しい飯屋ぐらいだ。

「ええ。知り合いの方に、教えてもらったんです」

 知り合いって? と聞こうとしたところで、店員らしき男性が近づいてくる。その男は、メニューをレティシアの前にそっと差し出した。

「あれと同じものをお願いします」

 レティシアは、クレアとミルテの前に置かれているグラスを指差した。中には、紫色の液体が入っている。何かは知らないが、果物のジュースだろう。

 男はメニューを胸元に引き寄せ、小さく頷いた。店の奥へと帰っていく。

「選ばなくて、よかったんですか?」

「うん」

 多分、どれを頼んでも美味しいだろう。迷い始めると止まらない性質たちだし、二人を待たせても悪い。

(誰の事だろう、クレアの知り合いって)

 聞きそびれてしまった。少なくとも、自分との共通の知り合いの中には、こんな店を知っていそうな人は思いつかない。クレアの一人仕事の時に、依頼人として会った貴族だか商人だかの誰かだろうか。

「これ、おいしいですよね。クレアさんのお勧めなんですけど、これにしてよかったです」

 ミルテは満足そうな表情で言うと、ジュースを飲んだ。クレアは頬を緩ませる。

「気に入ってもらえたのなら、私も嬉しいですよ。…ところでミルテさん、お酒は飲みますか?」

「え。いえ、あんまり得意じゃなくて……」

「それはきっと、エールのような苦いお酒しか、飲んだことがないからですよ。これと同じぐらい甘いお酒だって、色々あるんです。今度飲んでみませんか?」

「なんでお酒の話になってるの」

 再びやってきた店員からグラスを受け取りながら、レティシアは呆れたように言った。クレアは酒好きだが一人で飲むのは嫌らしく、いつも誰かを巻き込もうとする。

「近頃レティが、全然付き合ってくれないからですよ」

「クレアと飲んだら、後が大変じゃない……。ミルテも気をつけたほうがいいよ、クレア、こう見えて酒癖すごく悪いから」

「もう、最近はそこまで酷くないです」

「ほんとに?」

 レティシアが、疑わしげな目でクレアを見る。とりあえず、前は酷かったというのは否定しないらしい。

「お二人は仲がいいんですね」

 ミルテはくすりと笑った。

「ええ、ずっと一緒にいますから。ね、レティ」

「え? う、うん……」

 柔らかい笑みを向けてくるクレアに、レティシアはどもりながら答えた。改めてそういうことを言われると、なんだか照れる。素で言っているのか、半分からかわれているのか、クレアの目を見ても判断できなかった。

「ミルテは一人で仕事してるの? 薬草を採りに行ったりとか?」

 彼女が薬草に詳しいらしいということは、前に聞いた。ギルドに出される依頼としては、薬草採取はわりとポピュラーだ。薬草は種類が非常に多いし、採ってすぐ使わないと効果が無いものもあるため、店で手に入るとは限らない。

「はい。あとは、資料の整理みたいな、こまごまとしたお仕事を……」

「そうなんだ」

 レティシアたちがミルテと初めて会ったのは、王都の大図書館だった。その時も、ミルテは何か簡単な調べものをしていた気がする。

 ジュースを飲みながら、レティシアは知り合いの冒険者の言葉を思い出していた。彼は、冒険者なら冒険に出るべきだ、依頼ばかり受けているのはただの何でも屋だと言っていた。だが実際のところ、そうやって生活している冒険者は多い。

「お二人は、どんなお仕事をされてるんですか?」

「うーん、色々かな。冒険者ギルドの依頼を受けることがほとんどだけど、たまにダンジョンに篭ったり」

「あ、ダンジョンにも行くんですね。わたし一度も行ったことないんです」

「私たちが行くのは、簡単なところだけだけどね。財宝とかもないし」

 ミルテが尊敬を込めた、キラキラした視線を向けてくるのを見て、レティシアは慌てて手を振った。

 その後も、最近受けた依頼の話や安くて美味しい飯屋の話なんかで、三人は盛り上がっていた。ジュースはとっくに飲み終わり、空のグラスがテーブルに並んでいる。

 やがてクレアが、ふと思い出したようにレティシアに言った。

「そろそろ、行きます?」

「…うん、そうだね」

 本来の目的を忘れるところだった。このあと街の広場へ、薬草を買いに行くことになっている。冒険者ギルドで受けた依頼の達成のために、必要なものだ。

 三人は代金を支払うと、店を出た。


 レティシアたちは、街の中心にある広場に向かった。カフェから離れるに従って、舗装されていないむき出しの地面の割合と、道に落ちたゴミの量が増えていく。

 広場はいつも通り、大勢の人でごった返していた。所狭しと露店が立ち並び、まるで迷路のようになっている。

 三人の目の前を、慌てた様子の男性が走り去っていく。舞い上がる土煙を吸い込んでしまって、レティシアは咳き込んだ。

「…あれかな?」

 砂の入った目を擦りながら、レティシアは前方の露店を指差した。その店は、鮮やかな緑色の布で覆われていた。微妙に色合いの異なる布が何枚も重ねられていて、周りの店よりも少し目立っている。

 露店に近づくと、奥に座っていた店主が声をかけてきた。

「ようこそ、いらっしゃいませ……おや、レティシアさん?」

「お久しぶりです、ユグさん」

 レティシアが頭を下げる。店の中は意外と広く、たくさんの商品が置かれていた。薬草の類が多いが、魔道具が並んだ一角もある。

「ええ、お久しぶりですねえ。そちらの方もお知り合いですか?」

 後から入ってきた二人に、ユグは目を向ける。

「あ、よろしくお願いします。ミルテです」

「初めまして、クレアと申します。この間は、レティがお世話になりました」

「いえいえ、少しお手伝いしただけですよ」

 ユグはにこにこしながら言った。

「今日はどうされたので? 何かお探しですか?」

「はい。魔物の捕獲に使う薬草を探しています」

 レティシアがミルテに目をやると、少女はポケットからメモを取り出した。

「あ、はい。ええと……」

 ユグの近くに向かいながら、ミルテは必要な薬草について説明を始めた。

 手持ち無沙汰になったレティシアは、店内を見て回ることにした。とは言え、ほとんどの商品棚には(レティシアから見れば)同じような緑色の草が置かれているだけで、見るべきところもない。

 店の端に、色とりどりの花が集められている棚があった。魔法で処理されているのか、どれも今採ってきたかのように鮮やかな色をしている。その中の一つを取って、手に乗せた。

「不思議な色」

 誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。茎も合わせて手のひらに収まるほどの、小さな花だ。ピンクの花びらと青い花びらが、交互に並んでいる。

「あらレティ。それ、欲しいんですか? プレゼントしましょうか?」

 声に振り向くと、クレアが満面の笑みでこちらを見ていた。

「え、なに。これって何に使うものなの?」

 レティシアは、思わず嫌そうに顔を歪める。クレアがああいう表情をしているときは、大抵ろくなことを考えていない。

「薬の材料ですね。飲むと精神を高揚させ、性欲を増進するような……まあ要するに、惚れ薬です」

「ええ……」

 レティシアは、花をそっと元の棚に戻した。手のひらを見つめる。

「…触っちゃったけど、大丈夫かな」

「さあ、どうなんでしょう。触ったぐらいでは、効果は無いと思いますけれど」

 立てた人差し指を口元にやりながら、クレアが首を傾げた。

「ああ、大丈夫ですよ? 表に出している薬草は、そこまで効果が高くないものばかりですから」

「なるほど」

 ミルテとのやり取りが終わったのか、ユグがレティシアたちの方へと近づいてきた。レティシアはほっとした。

「もっと効果が高いものも、お出しできますよ。なんでしたら、調合済みの惚れ薬もありますが……」

「いえ、大丈夫です」

 相手の言葉に被せるように、レティシアは言った。ぶんぶんと首を振る。

「なんのお話ですか?」

 ミルテが不思議そうに尋ねてくる。彼女の背中には、パンパンに膨れた背負い袋があった。

「なんでもない。買い物終わったなら、帰ろっか」

「はい」

 レティシアの言葉に、ミルテは素直に頷いた。

「色々相談にも乗ってもらって、ありがとうございました」

「いえいえ、またいつでもいらしてください」

 ミルテが丁寧にお辞儀すると、ユグは笑顔で応える。レティシアも軽く頭を下げて、店を出た。

「惚れ薬、本当に必要ないんですか? 飲ませたい人がいるなら、協力しますよ?」

「そんな人いないから!」

 後をついてきたクレアの言葉を、レティシアは全力で否定した。


 次の日、三人は森の中を進んでいた。先頭には、緊張した様子のミルテが歩いている。彼女は、周囲に注意深く視線を送っていた。

 三人が居る辺りには、腰ほどもある背の高い花がたくさん咲いていた。だいたい歩幅ぐらいの間隔で生えている。花は手のひらほどの大きさで、紫色をしている。

 不意に、ミルテが立ち止まった。後ろの二人も足を止める。ミルテはしゃがみ込んで、目の前の花をじっと見つめる。花に触れないように、微妙に距離を取っていた。

「これだと思います……たぶん」

 立ち上がりつつ、少し自信なさげにミルテは言った。レティシアは周りを見回す。

「じゃあ、このへんの草を刈ればいい?」

「はい。ええと、ここから手前にしてください」

 ミルテは花の少し手前の地面に、足で線を引いた。残り二人は頷いて、荷物からナイフを取り出した。

 三人がかりで、花やその他の雑草を刈っていく。しばらくすると、人が寝転べる程度の範囲から植物が取り去られ、土が露出した。

「これぐらいで、大丈夫でしょう」

「そだね」

 クレアの言葉に、レティシアが同意する。ミルテは背負い袋を下ろして、中の薬草をむき出しの地面に固めて置いた。

「少し、離れていてくださいね」

 クレアはそう言うと、右手の人差し指に嵌めた指輪を弄って位置を直した。その指輪は銀色のシンプルなもので、小さな赤い宝石が付いている。クレアの手には、他にも同じデザインの指輪が二つあり、宝石の色はそれぞれ白と緑だ。

 他の二人が離れたのを確認してから、クレアは右手を開いて薬草の方へと向けた。しばらく、薬草をじっと見る。

「炎よ」

 クレアが呟く。指輪の赤い宝石が、きらりと光った。ぼっ、と音がして、開いた手のすぐ前に拳大の火球が出現する。それは真っ直ぐ飛んでいき、薬草の塊へぶつかった。薬草が燃え上がり、煙がもくもくと立ち上る。

「これでいいですか?」

「はい、大丈夫です。それって、魔道具なんですね」

「ええ。魔力の燃費が悪いので、あまり何度も使えないんですけれど」

 クレアの魔道具は、発動するのに使用者の魔力を必要とするタイプで、同威力の魔法と比べて消費が大きい。攻撃に使える魔道具は需要が多く、性能がいいものは非常に高価だ。クレア程度の冒険者では、何か欠点があるものぐらいしか買えない。

 ミルテはポケットから、赤い実をいくつか取り出した。それを火にくべると、煙の色も真っ赤に染まった。

 荷物から出した布で、ミルテは炎をあおいだ。先ほどミルテが見ていた花の方へ、煙が流れていった。草が燃えるぱちぱちという音だけが、辺りに響く。煙の赤い色が薄れるごとに、ミルテは実を追加で投げ入れる。

「実を切らしちゃだめなんだよね。私たちも持ってたほうがいい?」

「あ、そうですね」

 ミルテは実を一掴みずつ、レティシアとクレアに渡した。

「これ、一回分です。煙の赤色が消えそうになってたら、入れてください」

「わかった」

 レティシアは、実をポケットに仕舞った。何かイレギュラーが起こるまでは、ミルテに任せておけばいいだろう。

 しばらく待っていると、花がゆらゆらと揺れだした。一本だけではなく、近くの花も一緒に揺れている。ミルテがいつに無く真剣な表情で、花を凝視している。

「そろそろ出てくると思います」

「わかった」

 レティシアは、メイスを構えた。

 その直後、花が大きく持ち上がるとともに、花のある辺りの地面が盛り上がった。地面の下から、羽毛布団のような大きさと形の塊が、姿を現す。塊の下半分は、まだ地面に埋まったままだ。

 それは、親指の太さほどの根が複雑に絡まった物体だった。何本かの花が、そこに繋がっている。塊から飛び出したたくさんの根が、うねうねと動いていた。話に聞いていた通りの姿だ、これが依頼対象の魔物だろう。

 いくつかの根が、様子を窺うようにゆっくりと伸ばされる。一部は炎を避けつつ、冒険者たちの方へと近づいてきた。レティシアは一歩前に出ると、メイスを振って根を叩き落とす。

 根の動きは遅く、対応するのはさほど難しくなかった。近くまで寄ってきたものから、順に叩いていく。

「わひゃ!?」

 根を叩く作業に慣れてきたころ、後ろにいるミルテが変な声をあげた。急いで振り返ると、ミルテの左腕に根が巻きついている。その根が繋がる先を目で追うと、さっきまで相手していたのと別の塊が、少し離れた後ろの方の地面から顔を出していた。

 左腕を根に引っ張られて、ミルテは大きく体勢を崩す。足が縺れて、危うく転びそうになっていた。レティシアは、ミルテのもとへと駆け寄る。

「ミルテ、しゃがんで!」

 ほとんど尻餅をつくような勢いで、ミルテがその場に座り込んだ。レティシアは、ミルテの前方にメイスを振り下ろす。魔物とミルテを繋ぐ根が、地面に叩きつけられてぺしゃんこになった。

 ミルテは、動かなくなった根をほどこうと苦労していた。レティシアもそれを手伝おうと、ミルテの隣にしゃがみこむ。

「炎よ!」

 クレアの声が響いて、レティシアは顔を向けた。魔道具の炎が、すぐ近くまで来ていた一本の根に命中する。最初に出てきた方の魔物から伸びてきたものだ。先端に火がついたその根は、徐々に燃えていきながら、地面にぼとりと落ちた。

(全体を見なきゃ)

 レティシアは立ち上がった。前からも後ろからも、根が迫ってきている。片方を任せられるほど、クレアの魔道具は連発できない。逃げることは可能だろうが、実を燃やすのをやめてしまえば、魔物の捕獲はできなくなる。最初からやり直しだ。

「クレア、根はできる限り私が落とすから、間に合わないのを攻撃して。ミルテは実を燃やし続けて、余裕があったら腕に付いた根を外して」

「わかりました」

「は、はい」

 腕に絡まった根にまだ苦戦していたミルテは、慌てて実を炎に投げ入れた。ほとんど灰色になっていた煙が、また真っ赤に染まる。

 レティシアはメイスを振り下ろし、ミルテに迫ってきていた別の根を叩き落した。素早く身を翻すと、クレアの前に出る。メイスを横に振って、二本の根をまとめて弾き飛ばす。

 クレアが再び魔道具を発動させ、前方から近づいてきた根が燃え上がった。前の方に余裕があることを確認して、レティシアは再び後ろを向いた。一歩踏み込むと、近づいてきた根を真正面から叩く。

「と、とれました」

 ようやく腕に巻きついた根を剥がしたミルテが、泣きそうな顔で言った。立ち上がって、クレアの横に移動する。

「クレア、あいつから攻撃されない所に移動した方がいいと思う?」

 レティシアは、後方の魔物を指差す。

「根の届く範囲が分かりませんし、実を火にくべる必要があるので、難しいでしょうね。今の状態のまま、維持すべきです」

「わかった」

 自分も同じ意見だった。クレアの魔力残量が気になるが、あと数発は撃てるはずだ。なんとか持ちこたえられるだろう。

 引き続き根を打ち落としていると、前方に居る魔物の動きが鈍ってきた。やがて全ての根が、ぼとりと地面に落ちて動かなくなった。

「魔物を遠くに運んで!」

 言いながら、後ろから伸びてきた根にメイスを叩き付ける。クレアとミルテは、動かなくなった魔物に近づいた。地面と繋がっている根をナイフで切りながら、大きな塊を引っ張りだそうとする。

 完全に魔物を地面から引き剥がすと、二人はその塊を前の方に移動させていった。レティシアは残った後方の魔物の動きに注意しながら、まだ燃えている薬草をメイスで叩き、足で踏みつける。完全に火が消えてから、二人の後を追った。

「もう大丈夫そう」

 クレアたちに追いついたレティシアは、後ろを振り向きながら言った。遠くの方に、魔物の姿が見えている。まだ根をうねうねと動かしていたが、さすがにここまでは届かないのか、伸ばしてきてはいない。

「すみません、魔物がもう一匹居ることに気づかなくて」

 仮死状態の魔物を地面に置きながら、ミルテが申し訳無さそうに言う。

「ううん、仕方ないよ。私なんて全然区別付かないし」 

 レティシアは、魔物に付いている花と、周囲に咲いている花を見比べた。ミルテには違いが分かるらしいが、自分にはさっぱりだ。

 魔物には、全部で十二本の花が付いていた。十本も無いのが普通と聞いていたから、そこそこ大きな個体なのだろう。報酬も多めに貰えそうだ。

「でもレティシアさんがちゃんと指示してくれたおかげで、助かりました。魔物退治に慣れてらっしゃるんですね」

「え、うん、少しは」

 またしてもキラキラした視線を向けてくるミルテに、レティシアは若干たじろいだ。クレアが面白がるようにこっちを見ている、ような気がする。

「…早く持って帰っちゃおう。交代しながら二人で運べばいいかな」

「ええ、レティは一番疲れてるでしょうから、最初は私たちで運びますね」

「わかった、ありがとう」

 クレアの提案に、レティシアは頷く。運び役を交代したり、休憩したりしながら、三人は帰路に着いた。

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