004:爽やかな朝
僕は朝が好きだ。
小鳥が囀り、暖かい木漏れ日がカーテンの隙間から頬に当たる。例え曇りの日でも雨の日でも、香ばしく焼いたパンを食べれば1日を頑張ろうと思える。活力が出る。
それがなにより、外に出て触れる外気が気持ちが良かった。
その日は晴れだった。雲ひとつない澄んだ青空が見える朝。季節は春。カレンダーは変えたばかりのものだ。つまり4月。
クラスにもそこそこ馴染み、友達もできた。そして部活にも入った。
神明高校にはいくつも部活があったのだが、そこのなかの奇妙な名前が目立つ部活に入部した。その名も無敵武道部。名だけでネタだとわかる故、周囲はからかいの種にして見学はするものの入部まではできなかった。
部員は数人しかいなかった。僕はひやかしとか、そういった類ではなく、ちゃんとした理由があって訪れた。男子が5人。女子が3人。合計8人の2、3年生が狭い部室で武道を嗜んでいた。
僕は心躍った。純粋に心が躍動した。これだ! ――と直感的に思った。
無敵武道部は自由格闘を主に体を鍛えようと言う部活だった。そこにはルールなんていう無粋なものはない。つまり空手対テコンドーで組手を行っているようなものだ。それぞれの種目にルールや禁じ手もあるだろうが、それらの一切を排除した格闘技。それが無敵武道部。
しかしそこには一応、禁じ手はあった。急所への攻撃。殺意を込めた攻撃。これらを破る事は許さない。と、毎回部活を行う際に叫ぶ。言葉にして出すことによって、体に覚えさせているのだという。
一種の暗示と言っても過言ではないだろう。だがそれは良いことだと思う。殺すことを目的として設立した部活動ではないのだから。
僕はその日に入部希望を出し、無敵武道部の一員となった。平和で充実した高校生活のために。
SILVER BLITZ
純粋な学生生活を望んで、健全に体を動かそうと決めた。
毎朝6時に家を出る。朝練に出るためだ。無敵武道部は朝練も欠かさない。その日に入部した僕を無敵武道部は大歓迎し、僕自身の希望で容赦はしないと決めた。
元々僕は体を鍛えていた方だし、体力もそこそこ自信がある。しかし着痩せするタイプのようで上着を着ていては筋肉が目立たない。
顔も女顔とからかわれたりもした。中学生の頃は少し苦労はしたが、舐められないように鍛えて、からかう同級生達を片っ端から倒した結果、自然とからかわれない体質になった。体質というのは変かもしれないが、本当のことだ。あれから僕をからかう輩はいなくなり、逆に友人が増えた。
それからは地道にトレーニング量を倍増して体を強化し、この女顔と低い身長からおさらばしたいと考えていたのに――結果がこれだ。
筋肉は着痩せするせいで目立たず、女顔は治らず、身長も高校1年生で未だ165センチだった。それでもまだ伸びると信じたいところだ。
「いってきます」
リビングに飾っていた数枚の写真立てに笑顔で挨拶する。そこには数人の大人の写真があった。
それが僕の両親、そして3ヶ月前まで面倒を見てくれていた祖母の遺影だった。僕の保護者はすでに全員他界していた。両親は僕が小学3年生に事故で亡くなり、祖母は寿命で亡くなった。
僕はその家にひとりとなってしまった。学費は奨学金でなんとかしているし、両親がなにやら世界で大切な研究をしていたというので、莫大な遺産を残してくれている。相続権が僕しかいないため、生活費として使っている。因みに僕の祖父は聖の生誕前に他界している。
不幸の連続で精神が参ってしまうと思ったが、祖母の教えが良かったためになんとか立ち直った。
なにより祖母の死に目に立ちあい、『聖と生活できて、幸せだった』とこれ以上とないような至福そうな顔で息を引き取った。
親の死に目には立ちあえなかったし、遺体そのものがなかったため虚しかったのだが、祖母の死に目に立ちあえて良かったと思う。
祖母の表情に救われた気がする。余計な言葉はいらず、「幸せだったよ」と一言言ってもらえれば、自分は今まで大切な人に幸福を与えていたと思える。後悔が無く、プレッシャーもなにもない。
僕はひとりでもたくましく生きて行こうと決心を決めた。
そして今日も元気に朝練に向かうため、通学路を全速力で走った。
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