020:なんのために戦うのか
耳を疑った。意味がわからない。
その意味を補うために小泉先輩はさらに続けた。
「傷や衣服が元通りに治っているのがそれだ。だから月波がどれだけ他校の生徒を倒そうと、戦闘が終わったあと、この現実世界ではその倒された生徒は生きていることになる。ちゃんと命を持って戻ってこれるんだ」
「え………?」
「まぁ確かに、仮に殺した時は罪悪感はあるけどな。シルバーブリッツではもうひとつの命を与えられたと考えればわかりやすいだろう。戦闘開始と同時に与えられ、戦闘終了と同時に返却。だから元々の命に影響はないんだ。――だからって開き直るつもりもないけどな。それと、殺された生徒は戻って来た以降、シルバーブリッツを辞めさせられる決まりになっている」
少し驚いていた。
だが説明を受けてみれば「そうかもな」と意外と納得してしまった。
なにより非現実的な世界を見せつけられたのもある。そういう現実世界では絶対不可能なことが起きてもそこまで不思議ではないのかもしれない。
もしかしたら綾乃は僕のようにシルバーブリッツとして戦うことを嫌がる生徒を解放してやっているのかもしれない。ならばそこまで邪険に扱う必要はないのではないだろうか。
「ま、シルバーブリッツでの戦いはこんなところだ。今日呼び出したのは、魔術の属性とか
小泉先輩はYシャツの胸ポケットから1枚のカードを取り出した。まるで手品のようだ。種も仕掛けもない。
「俺たちシルバーブリッツのカード補充場所はここだ。Yシャツの胸ポケットか、ブレザーの裏ポケットか。常に数枚手に取れるから、その中から5枚選択して腕輪にセットできる」
数枚の内、1枚を破いてみせてくれた。そして鞄の中からクリアファイルを取り出し、数枚のカードを見せてくれた。
そのカードには見覚えがある。シルバーブリッツで使うカードだ。クリアファイルから出した数枚のカードはすべてプリントした偽物で、色が少しぼやけていた。
「これを見てわかると思うけど、属性は全部で10ある。炎、水、風、地、草、雷、念、光、闇、闘、だ。これらの属性は変化と進化のパターンがあるんだが、例がこれだ」
クリアファイルからプリントを取り出す。そこには『属性の変化と進化』とタイトルがあり、ひとつの属性から枝分かれのような線がいくつも引かれていた。
「例えば炎属性。最初から使える技はファイアという小規模な炎なんだが、それを大きくできる。つまり簡単に言えば
「それってもしかして、レイ・バーストとかですか?」
「そう。それだ」
進化の覧を指差し、そこにレイがあるか確認する。
「進化は技名のあとに特徴が刻まれる。月波のレイが進化した形。レイ・バースト。他にもレイ・タワーとかあったな。まぁ光属性は俺は得意じゃないから、あまり知らないんだよな。威力は高いんだけど使い辛くてな。この高校で使ったことがあるのは月波と………結構前の図書委員長だったな。10年前くらいかな。ふたりとも同じレイ・バーストでな。完全に使いこなしてる」
「そんな大変なことを………」
「あと
「最初だと制限されて、なにもできないんですね」
「そう。だから
「へぇ………小泉先輩は今、何
「俺か? 俺は今、第17
「じゅ、17……」
大兄ぃから話は聞いていたが、やはりシルバーブリッツの戦いにはかなり長い歴史があると知った。
そして僕も話を聞いている内に、シルバーブリッツの戦いという認識を改めていった。
確かに殺し合うが命は失われない。もしかしたら健全とはとても言い切れないものの、スポーツと同じなのかもしれない。
しかし、まだわからないことがある。ルールやルーツ、魔術での戦いよりももっと気になることだ。
「あ、あの……」
「ん?」
今までの説明について何か質問があるかと小泉先輩が聞こうとするよりも早く、僕が先に尋ねていた。
「今までの説明とはなんの関係もないっていうか、いや、そもそもの原因というか本質というか。そういうのを聞きたいんですけど。いいですか?」
今までの態度が一変し、緊張した面持ちとなった僕を見て、小泉先輩もなにかくるなと思ったのだろう。気持ちを切り替えて臨んでくれた。
「ん、いいよ」
許可を得たので発言する。
今まで覚悟がなかった。大兄ぃや綾乃に聞くにも覚悟が足らなかった。情報が足りずに自分だけで判断するには怖かった。
命のやり取りをする場だ。それは当たり前なのかもしれない。
けど今なら聞ける。小泉先輩は正直に応えてくれる。今なら勇気もある。
「先輩たち、シルバーブリッツはなんのために戦っているんですか?」
戦うためには理由が必要となる。必要としないものは狂っているか、愉しんでいるか、おかしい者たちだけだ。
だが目の前にいるシルバーブリッツたちは、そんな愚かしい者たちではないと思えた。少なくとも、小泉先輩は。
必ず理由がある。そう信じたい。
「俺たちシルバーブリッツが戦う理由?」
小泉先輩はそれだけは迷わずに即答した。強い意思を持って。揺るがない強い意思こそ、この高校を動かすべく必要とされているものである。
「それはな――」
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