006:所属する委員会
「
ホームルームが終わり、1限目が始まろうと準備をしようとした時だった。
呼ばれて振り返る。そこには大量の女子を従えて――本人は本当は付き纏ってほしくはないのだが――僕を見下ろしてきた。
「なんですか大兄ぃ――大河先生」
一応、高校では教師と生徒の立場を弁えようと大胡――大兄ぃから言われていたのだが、どうしてもこの呼び方が抜けない。言いかえて聞き返した。
しかし大兄ぃもそこまで気にしていないのか、咎めはしなかった。その代わりに1枚の紙を渡された。
「出してないの、お前だけだぞ。とっとと書いてくれよ? ちょっと上から急かされてるんだよな」
紙を見るとすぐにわかった。委員会の所属希望書だ。
3日前に配られたのを思い出した。確かに出していなかった。
これは参ったな。と思い、僕はどの委員会に入りたかったのかを思い出しながら記入欄を恨めし気に睨む。
すると、ある疑問を覚えた。
「大河先生。なんで記入欄がすでに埋まっているんですか?」
なぜか僕が希望する委員会を記入するはずの空欄が、すでにひとつの委員会で埋められていた。
「ああ、言い忘れてたけど、もうそれしか入れるところ無いんだよ。ほら、さっさと名前書いてくれって。なぁに、ちょっとした親切さ。気にするなって」
あ、あれ? とそれだけでは説明が不十分だぞ。
と名前をサインしている内に言おうとしたのだが、大兄ぃが名前を書いた途端に所属希望書をパッと取り上げて持って行ってしまったために、なにも言えなかった。
急いで追いかけようとしたのだが、大兄ぃを取り巻く女子たちに妨害されて届かない。結局、僕の声は届くことなく、大兄ぃは教室を出て行ってしまった。
唖然とする僕。そしてどこに所属するのかを思い出し――
「よ、緋之。1年間よろしくな」
再び登場した爽やか馬鹿――隼人がバシッと背中を叩いてきた。
「へ? どういうことだ」
隼人の言葉の意味がわからず、振り返る。
「俺たち図書委員だろ。大河先生がそう言ってた」
つまり隼人も図書委員会に入っているのか。
同じ委員会に、仲が良くなった友人がいるのは嬉しい。大兄ぃの計らいなのだろうか。と感謝した。が、どこか嫌な予感がした。
僕は世の中を少しだけ知っている。こういう良い事があれば、逆に悪い事が必ず降りかかって来るという。それは
「でも今回は特別でさ」
「え?」
ゾクリ。――悪いのが来たかな。と嫌な悪寒を微かに感じた。
「隣の2組の図書委員がひとり。俺たち1組が3人。1年生は合計4人で、図書委員会の委員になることになっちまってよ。なんか配属のバランス悪いけど、まあ特殊みたいな感じで認められてるんだとよ。俺はそこまで特殊なんて思ってないんだけどな。………けど、まさかあいつが1組の3人目になるとはな。こればかりは俺も予想してなかったぜ」
――ゾゾゾ。虫が背中に這い上がって来たような嫌な感じ。
これは、もしや……。と心が警鐘を鳴らす。認識では理解できずとも、体は理解していた。その悪いものを。
もしそうだとしたら、全力で逃げたいと思う。それか委員会をそれ以外にしてもらうため、これから大兄ぃを殴りに行ってもいい。
「で、その最後のひとりって………まさか?」
「あ、ああ………そのまさかだ」
隼人が視線を180度回転させる。僕もその視線を追った。
「あそこの席の――月波だ」
ほら来たあああああああああああああああああああ!!
悪い予感がハイ的中! これが世の中の理。良い事ばかりは決して続かない。
わかってはいたがここまで絶望を与えるとは思ってもなかった。衝撃が大きすぎて、まるで零距離でホルンの低音を最大音量でぶち込まれたような衝撃が脳の奥をがんがんと叩いていた。
「なぁ鳴本」
「うぃ?」
「今から大兄ぃを今から殴りに行こうと、思うんだ」
死んだ魚の様な眼をしているであろう僕がポツリと呟いた。サァと隼人の顔から血の気が引いた。
「ちょ、待て。待てって。情報はそれだけじゃないんだよ。隣の2組の図書委員になった奴なんだがな、それがまた可愛い女子なんだって。なによりスタイルが良くって優しそうでさ」
「へぇ。でも僕には関係ないや」
「だ、だから頼むからそんな顔しないでくれよお」
少しだけダークになってしまった僕に対し、どうフォローしていいのかわからなくて困ってしまった隼人が狼狽する。
これを密かに横目で見ていた綾乃は、今度は誰にも聞こえない程度に舌打ちした。
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