爆走ケイトラバトル (2)

 遺跡の中を軽トラックは疾走して行く。

 どうやら、神谷レオンをはじめとした、『OZ』の配達員のガジェットトラップによって、既にレースの参加者はその数を減らしているようだ。

 どういうトラップを食らえば、車が地面に突き刺さったり、車が柱の上に乗っかったりするような事態が起こるんだろうか。

 何か全体的に焼け焦げている車もあるんだが、もうそこまで行くと事故と言うより事件じゃないのか。


「でも、妙だな……」

「やだなぁ、先輩。先輩の言動よりも妙なことなんてありませんよ?」

「お前の前では独白することも出来ないのか?」

「それで、何が妙だって言うんですか?」

「こいつは全く……。いや、このレース、どれだけの人数が参加しているんだって、思って、な」


 俺達とは別の場所からスタートしている参加者もいるということだったが、それにしても、リタイアしている人数が多過ぎるような気がする。

 というか、リタイアしている奴はほとんど見たことないような奴ばかり。

 ということは、まさか。


「このレースって外部の奴らも参加しているんじゃないだろうな……?」

「え、このレースって、社内レクリエーションなんじゃないんですか?」

「いや、リタイアしている奴らに見覚えがない。『OZ』の人間……少なくとも『配達員』じゃあ無いな」

「それは、先輩が人の顔を覚えていないか、顔を覚えられるのも嫌なぐらい嫌われているからなのでは?」

「殴るぞ。いい加減」

「じゃあ、きっと外部の方にも解放してあげているんですね。優しい社長の粋な計らいって奴ですよ」

「……そんな単純なことなら良いんだけどな」


 こうなっては、どんな輩が紛れ込んでも、まるで分からない。

 ただでさえ、ガジェットで妨害されること請け合いの危険なレース。

 更に、余計な闖入者も警戒しないといけないとは、本当なんなんだよこれ。

 あの社長、一体何を企んでるっていうんだ。


 そうして周囲で事故っている車を見ながら、辺りを警戒している俺のすぐ傍を、一陣の風が駆け抜ける。

 同時に聞こえて来るのは、懐かしく。

 そして、憎らしい声だった。


「久しぶりね、配達員さん」

「お前はッ!!」

 

 そいつは、俺のガジェットと、給料を盗んだにくい奴。

 夢現怪盗・プリズマ。

 黒色のバイクを駆り、俺達の目の前に現れたのだ。


「プリズマ! お前、よくも俺の前に顔を出せたな!!」

「あら、折角の再会なのに、随分なご挨拶じゃない」


 窓から身を乗り出して、大声で叫ぶ。


「うるさい! さっさとガジェットを返して使用料も払え! あと、ここまでガジェットを借用していた分の延滞料と、俺に対する迷惑料と、そして俺の被った精神的苦痛に対しての慰謝料と、あと諸々の経費、全部まとめて返しやがれ!!」

「若干吹っかけすぎではないかしら?」


 まくし立てる俺に対し、若干引いた様子で返答する怪盗だった。

 何だよ、その顔。

 全部お前がいけないんだろうが。

 

 とにかく、必死で探していた怪盗が、のこのこと目の前に現れたのだ。

 この機会を逃してはならない。ここで会ったが百年目だ。

 最早、金にこだわる必要はなくなったとはいえ、それとこれでは話が別だ。


「おい、コハネ!」

「な、何ですか先輩!!」


 俺は軽トラに並走するプリズマを睨みながら、運転席のコハネに告げる。


け」

「はい?」

「だから、轢け」

「……はい?」


 俺の的確過ぎる指示に、何故かコハネは躊躇っている。

 こちらを見るコハネの顔が恐怖に歪んでいるのは、どういうことだろうか。

 そうか、こいつも突然現れた怪盗の厚顔無恥さに恐れを抱いているんだよな。

 安心しろ、ひと思いにやってしまえば、そんな恐れとはおさらばだ。

 物理的にもおさらばだ。


「どうした、轢けよ」

「いえ、その、先輩、無茶や無謀で知られた私ではあるんですけど、流石にそれは、ちょっとどうかと……」

「ああ、後始末が大変だからな。そこに気が付くとはさすがは俺の後輩だ。良し、じゃあ、ねろ。思いっきり撥ねろ」

「そういうことではないんですけど……って、危ない!?」


 コハネが急激にハンドルを切って、強引に方向を変えた。

 どうやら、怪盗に気を取られていたせいで、目の前に迫っていた遺跡の柱に気が付かなかったようだ。

 間一髪で回避に成功。

 再び、怪盗が乗ったバイクと並走する。


「おのれプリズマ!! 卑劣な!」

「今の、私のせいではないでしょう?」

「うるさい! 今の急ハンドルで減ったタイヤの交換費と、俺達の精神的苦痛の慰謝料も追加してやるからな!」

「もう無茶苦茶ね」

「うるさい!!」


 というか、そもそも。


「何で怪盗のお前が、何でこんなところにいるんだよ!!」


 この怪盗、俺からガジェットを盗んだ挙句、そのガジェットを無断使用しているという大罪を犯しているのだ。

 見つけたら、すぐに牢獄にぶち込んでやるべき犯罪人。

 それなのに、どうしてこのレースに、当たり前のように参加しているのか。


「何でって言われたら……そうねえ……」


 そこで怪盗プリズマは、何故だか遠くを見るような目をして。


「参加しても良いって、そう言われたからよ」

「はぁ? 誰にだ?」

「それは勿論、そちらの社長に、よ」

「……はぁ?」

「ええ、レースで勝てば、褒美に望むものを与えると、そう言われたのよ。社員のガジェットを奪った私も誘うなんて、心が広いのかなんなんだか。奪わずに与えられるというのは、怪盗としてどうかと思うけど、こんなに美味い話、乗らない方が恥というものよね?」

「なん……だと……!?」


 またあの社長の仕業か。

 どうして社長は、こんな奴をレースに参加させたのか。

 これもまた俺の邪魔をする為、とでもいうのか。


「……ふざけやがって」


 いいだろう。

 いずれにしろ、怪盗の奴がまんまと現れてくれたのだ。

 ありがたく恨みを晴らさせてもらおうじゃないか。


「よおし、そこで大人しく走ってろよ! 今すぐに幅寄せして、盛大にクラッシュさせてやるからな……? それが嫌なら、今すぐに五体投地して許しを請うがいい! 許さないけどな!」

「別に、それはいいけど。アナタ、私なんかに構っている暇はあるのかしら?」

「何だと?」

「アナタを狙っているのが、私だけだと思って?」


 怪盗が、不敵な笑みと共に呟いた言葉。

 その意味を問おうとした背後、不意に叫び声がした。

 妙に甲高い声と共に迫ってくるそれは。


「そこな軽トラック、ちょっと待つが良いぞ!!」

「うわぁ……」


 身を乗り出して確認し、絶句した。

 そこにいたのは知っている顔。

 いや、知っているというか、確かに知ってはいるけれど、出来ることならあまり知りたくはなかったし、絶対に再会したくもない相手だった。

 何故なら、どう見ても、変質者だから。

 紛うことなき変質者だから。

 幼女を肩に乗せて疾走する全身タイツの大男。

 これを変質者と呼ばずに、なんと呼べと言うのか。


「そこの軽トラック、儂らの前を走るとは良い度胸じゃな! えええいルドルフ、もっと急げ! いくら勤務時間外とはいえ、奴らに遅れようものなら、全世界のサンタに申し訳が立たないではないか!!」

「あの、先輩、あれって……」

「言うな」

「でも、凄い勢いで追って来ているんですけど?」

「言うな」

「放っておくと、並走しそうなんですけど?」

「急ブレーキを掛けて撥ね飛ばすというのはどうだ?」

「あんなのを撥ねて、大切な軽トラに傷をつけるのはいかがなものかと……」

「まあ、確かにそれもそうか」


 今にも軽トラに肉薄しようかという変質者達の正体。

 それは、クリスマスの配達の際に一悶着を起こしたサンタクロースご一行。

 全身タイツの変質者ことトナカイのルドルフと、その肩に載っているサンタクロース少女、正当なるサンタ道の継承者であるロザリアだ。

 というか、この間はツッコミを入れている余裕が無かったからスルーしていたけれど、サンタ道って何だよ。


「ええい、ここで会ったが百年目じゃな! 先日の配達勝負では一敗地に塗れたが、しかし此度のレースは違うぞ! ルドルフも、度重なるトレーニングで十二分に仕上がっておるのじゃぞ!」

「ってかお前ら、どうしてこのレースに参加しているんだよ! クリスマス以外は休みだって、そう言っていたじゃないか」

「それは当然、貴様等のところの社長に誘われたからじゃ! 何でも、勝てば望みのものを与えられるという話だったからのう! のうルドルフ!」

「はい、確かに」

「お前らもかよ……」


 頭を抱える。

 あの社長と来たら、無差別にレースの参加者を募ったらしい。

 犯罪者だろうが、商売敵だろうが、お構いなく。


「ああもう、何でこんなことに……」


 少しやる気を見せてみたら、これだ。

 結局あの社長は、どうしたって俺の邪魔をしたいらしい。


 目当ての薬、俺の妹、サツキを救う為の薬は、既に俺の手にある。

 だから、単純に完走すればいいと、そう思わせておきながらのこの布陣。

 しかし実際は、こうして訳の分からない連中……基本的には知っている連中だが……がこぞって参加しているという始末だ。

 こうなると、簡単にレースを走り切ることさえ難しいかも知れない。


「……いや、違う」


 そんな、走り切るなんて、弱気なことを考えていては駄目だ。

 レースを完走するのではなく、勝つ。

 あんな訳の分からない奴らに対抗するには、それぐらいの気概が必要だ。

 ここに来て、社長の意図がようやく見えてきた気がする。

 社長は、俺にあっさりと薬を渡しておきながら、しかしここで俺がやる気を出すところまで考えていた、というのか。


「チッ」


 社長の手の平の上で転がされているのは面白くないが、そこまでお膳立てされてはしょうがない。

 この、訳の分からないレースに勝利して。

 真っ正面から、サツキを救う薬を手に入れてやろうじゃないか。


「おい、コハネ」

「何ですか、先輩」

「このレース、勝つぞ」

「……勝つ?」

「ああ、あんな奴らに負けてたまるか」

「それは……命令ですか?」


 コハネは、ぽつりと零す。

 それは、普段のコハネとは違う声音。

 普段のテンションとはかけ離れた、感情を欠いたかのような声音で。

 しかし、その声は、確かな響きを伴っていた。


「それが命令だと言うのなら、応えますよ。先輩の目的の為に、私は全力を尽くしてみせます」


 コハネの瞳に宿るのは真剣な色の光。

 その光が、真っ直ぐに俺に向けられる。


「だった私は、先輩のパートナーですから」


 だから俺は。


「ああ、頼りにしているぞ。相棒」


 つい、そんな言葉が口をついて出た。

 自分でも、似合わないことを言ってしまったことは分かっている。

 つい、コハネの眼差しに押されるかのように零れてしまった。


 案の定、コハネは一瞬フリーズしたかのように動きを止め。

 そして。


「先輩の口からそんな言葉が出るなんて、明日は雪か、もしくはカエルですね!」


 いつもと同じ、先輩を先輩と思わない言葉が飛び出す。


「俺が言っただけで異常気象になるのかよ!? つーかカエルは天気じゃねぇ!」

「先輩が本気を出せば、ナメクジくらいは行けると思いますけどね」

「どういう本気なんだよ、それは」

「ふふふ」


 コハネは笑って。


「そこまで言われたら、私も張り切るしかありませんからね! それじゃあ、気合入れて勝ちに行きますよ!!」


 力強く、アクセルを踏み込んだ。

 俺とコハネを乗せた軽トラックは、ライバル達と並び走り出す。


   ◆    ◆    ◆         


 そこからのレースは、激しいものとなった。


 レースに参加していたのは、怪盗やサンタクロースではない。

 多種多様、とにかく色々な連中がレースに乱入しており、その中には、俺が知っている顔も多数含まれていた。


 いつか身体を小さくする薬を配達下巨大なドラゴンは、竜使いの少女を背に乗せ飛んでいた。

 飛ぶ時点で色々と反則じゃねぇかとか、

 巨大な身体に戻ってるなら俺達が薬を配達した意味はとか、思ったけれど。

 久しぶりに空を飛ぶのが気持ち良かったようで、そのまま巨体を翻して何処かへ飛んで行ってしまった。

 俺達に向けて手を振る少女の笑顔が、とても楽しそうだったから、少しだけ安心したけれど。


 クリスマスに、サンタと一緒に配達に行った屋敷の少年も、ロボットに担がれる形でレースに参加していた。

 まるで、何処ぞの地域の豊穣を祝う祭りみたいになっているけど、そいつはいよいよ乗り物じゃねぇだろ。良いのかレースとしての体はそれで。

 というか、あの世界の唯一の生き残りとして、大切にされている筈じゃなかったのか。

 こんな危険極まりないレースなんかに参加して良いのか。

 あとロボットさん、攻撃をしてこないで下さい、お願いします。


 そうやって、続々と現れる、見慣れたレース参加者達。

 しかしこちらとしても負ける訳には行かない。

 だから、必死に……と言っても運転は全てコハネ任せだったけれど、俺も自分で出来る限りのナビゲーションなどして、必死に走る。


「行け! 飛ばせ! 撥ねろ!」

「いや、やっぱり流石に撥ねたら駄目なんじゃないですか?」

「労災が下りる筈だから問題ない!!」

「あの、社員じゃない人が巻き込まれても労災は下りませんよね!? というか保険とは別のところで普通に犯罪になりますよね!?」

「分かった。俺が撥ねる! ハンドルを寄越せ!!」

「もう撥ねることの方が主目的になっていますよね!?」

「撥ね飛ばせぇぇぇぇ!!!」


 そんな会話を繰り広げながら、俺とコハネは遺跡の中を走る。

 次々と迫り来る知った顔、知らない顔、何処かで見たような顔を追い抜き、追いつかれながらも、軽トラックは走る。


「行けえー!!!」

「ダメですってばぁー!!!」


 そんなやり取りを。

 自分が今置かれている状況とは、離れたところで。

 少しだけ、楽しいと感じてしまう自分がいた。

 きっと、長かった目的の達成が、すぐそこに迫っているからこそ。

 そんな、普段ならば思わないようなことを、考えてしまったのかも知れない。


 そうして軽トラックは全てを置き去りにして駆け抜けた。


「よーし! 大分引き離しただろ!」


 バックミラーで確認しても、追いついて来る相手は見えない。

 それどころか、後方ではかなりの数の噴煙が上がっている。

 かなりの数の対戦相手がリタイアしたと見るべきだろう。


「いやあ、こんな被害者が続出するレースを開くなんて、あの社長正気じゃないよな」

「大部分は先輩の手で引き起こした事態のような……まさか床をまるごとぶち抜いて一斉に落とすなんて、皆さん大丈夫なんでしょうか?」

「言っておくが、実行犯はお前だからな」

「私に罪を押し付けるつもりですか!?」

「まあまあ、そう不安になるなよ。人は誰でも、生まれながらに罪を抱えているものだ。一つや二つ増えても大したことはないさ」

「妙な諭し方を止めて下さい」

「とにかく、これで大分足止め出来たろう。俺達の勝利は間違いないな」

「そういうこと言う人って、大体最終的に負けますよね?」

「不安になることを言うんじゃない」

「お互い様ですよ」


 しかし、コハネも後続を断ったことで安心したようだ。

 ハンドルを握る力も、大分軽くなっている。

 ふと、弛緩した空気が流れる車内。

 そんな空気を嫌うように、コハネが呟く。


「あの、先輩?」

「ん、何だ?」

「先輩は、このレースに勝って、何か欲しい物があるんですか?」

「何だよ、急に」

「だって、スタートの時はあんなにやる気がなかったのに。いきなりレースに本気になるなんて変ですよ。一番になって、何か欲しい物があるんですよね?」

「……」


 そういえば、コハネに対しては、その辺りの事情を話したことはなかったか。

 ここまで来て、もう隠す理由もない。

 良いだろう。話してやるとしよう。


「ああ、俺は薬が欲しいんだよ」

「薬、ですか?」

「ああ、どんな病でも治すことの出来る、万能薬。まあ、その薬自体は、既に手に入っているから、このレースに勝つのは、半分意地みたいなものなんだけどな。最後ぐらい、気持ち良く終わらせたいっていうか……」


 瞬間、車内の空気が僅かに固まったような気がした。


「その薬さえあれば、俺の目的は達成される。配達員の仕事を続ける理由も、無くなる」

「……え?」

「ようやく、終わる。この『OZ』ともおさらばだ。そうなりゃ、いよいよお前も自由だな。俺みたいにどうしようもない奴じゃなくて、もっとしっかりしたパートナーが見つかるさ。だからお前も、もっと真面目な……」

「そんな……」


 消え入りそうな声と共に、コハネは俯いた。

 それは、何とも妙な態度だった。


 コハネにとって、俺みたいなパートナーから解放されるのは、良いことだ。

 自分で言うのも何だけど、俺ってばどうしようもない奴だからな。

 

 いくら、妹のサツキを助ける為に薬が必要だったり、入院費の為に金が必要だったからといって。

 何かもう好き放題にやらかしているし、

 やるべきことは適当にやるし、

 何よりも自分の都合を最優先するし。

 自分で言っておいて何だけど、本当どうしようもない奴だな俺って!!


 そんなどうしようもない俺がいなくなるのは、コハネにとっても良いことの筈。

 それなのに、コハネの態度は、どんな俺の期待とは全く外れている。


 どうしてそんな不安そうな、悲しそうな、絶望的な顔をしているのか。

 それを問おうとした、その時に。


「ッ!?」

「アウッ!?」


 軽トラックの向かう先、遺跡の通路の先に。

 聞いたことのないような不吉な音と共に、闇が、辺りを包み込む。

 そして、空が、割れた。


「あれは……!?」

「な、何なんですか、一体……」


 軽トラのフロント硝子越しに見えるのは、現実味に欠いた、冗談のような光景。

 空が砕かれ、ヒビが入っている。

 まるで卵の殻を割るように、空の一部が崩壊しているのだ。

 

 この状況を、卵に例えるのならば。

 当然、次に起こることは。


「先輩! 何かが出て来ます!!」


 コハネの言う通り。

 割れた空の向こうから、何かが這い出して来た。

 それは、酷く醜悪な形をした、名状しがたい形状の何か。

 

 怪物。


 あえて言うならば、そうとしか形容出来ないようなものが、卵から孵るようにその姿を現して……そして、落ちて来ようとしている。

 俺達の軽トラックが進む、その進路へと。


「ヤバい! コハネ、避けろ!!」

「は、はい!!」


 コハネが急いでハンドルを切る。

 そのまま遺跡の通路の脇にある段差に乗り上げる形で停止する軽トラック。

 次いで、遺跡中を振るわせる轟音と共に、怪物が落下して来たのを感じる。

 あのまま、まっすぐ進んでいたら、丁度軽トラックの真上に落ちてきただろう。


「クソ! 何だってんだよ!!」


 これもレースの障害の一環だろうか……そう考えて、すぐに否定する。

 これは、これまでに用意されていた妨害とは明らかに違う。

 伊達に配達員として、様々な世界を渡り歩いている訳ではない。

 こういう危険には敏感なのだ。

 これは、明らかな異常事態。

 急いで軽トラックから降りると、コハネもそれに続く。


「気を付けろよ、コハネ」

「はい、先輩。でも、あれって、一体……」

「分からん。分からんけど、とにかく、ヤバいやつだ」


 すぐ傍に落ちてきた怪物を観察する。

 近くで見ると、その異様さが良く分かった。

 地面にヒビを入れながら蠢いている、怪物。

 皮膚と呼ぶのかどうか分からないような、黒ずんだ表皮。

 あちこちに向けて伸ばしているのは、触手か何かだろうか。

 近くで見ても、余計に訳が分からない。

 今までに見たどんな生物にも似ていない。

 

「こいつ……見たこと、あるぞ」


 そう、あれは確か、怪盗にガジェットを奪われた後のことだ。

 アラタと共に、『OZ』の地下倉庫に忍び込んだ時、突如出現した、謎の怪物。

 群れで現れて、火を噴いて大暴れしたあの正体不明の怪物に、似ているのだ。

 この黒い表皮も、触手のようなものも、似ている。


「せ、先輩! 誰かが、います」

「何だって?」

「ほら、あいつの上に!!」


 コハネに言われて気が付いた。

 怪物の上に、確かに誰かが立っている。



つづく

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