間章

しゃべくりクリスマス

「……うーん」

「どうしたんですか先輩? そんな、悩んでいるフリなんかして」

「フリじゃねえよ! 悩んでいるんだよ!」

「あはは、まさか。先輩が悩んだりする訳ないじゃないですかー」

「なんだお前、喧嘩を売ってるのか?」

「だって、先輩の頭の中って、ゲスとクズで埋め尽くされていて悩む隙なんてないじゃないですか。もし悩むとしても、お金のことぐらいですか? もう少し高尚なことに頭を使った方がいいですよ?」

「やっぱり喧嘩売ってるんだな! そうなんだな?」


 配達を終え、多元世界干渉通販会社『Otherwhere Zone』、通称『OZ』の本社へと向かう途中。

 軽トラックの運転席に座る後輩、絹和きぬわコハネから、とんでもなく失礼な言葉を投げかけられるのも、もはや慣例になりつつある。

 この後輩は、どうしてこんなに口が悪いんだろうか。何かそういう呪いでも受けているのか。


「まあ、どうせ先輩の悩みなんて、大したことじゃないに決まってるんですから。ほらほら、このコハネさんに話してみて下さいよ」

「はぁ? 何でお前に話さなければいけないんだよ」

「先輩の悩みを、私が解決してあげると言っているんですよ?」

「お前のその自信は一体どこから出てくるんだ!?」

「何を言ってるんですか。私は、数多の相談人に悩みを解決してきた実績があるんですよ? 悩み事ブレイカーのコハネさんとは私のことです!」

「じゃあ聞くが、俺の悩みを聞いて、お前はどうするんだよ」

「殴ります」

「何で!?」

「だって、大抵の悩みは、答えの出ないことを悶々と考え続けることでドツボにハマって行ってしまう訳ですから。いっそ、一度意識を断ちきることで、強制的に思考を停止させて……」

「相談人を物理的にブレイクしてるじゃねえか! 新たな問題が発生し過ぎだろ!」

「はい。だから、小さいことで悩んでる場合じゃなくなりますよね?」

「そうだけども!」


 この後輩、油断も隙もあったもんじゃない。

 何でも暴力で解決しようとするのは、類人猿の頃で止めておくべきことだろうが。人間なんだからもっと、話し合ったり分かり合ったり出来ないのだろうか。

 

「それで? 先輩の悩みっていうは一体何なんですか?」

「言ったら殴るんだろ?」

「…………」

「……まさか、言わなくても殴るつもりなのか?」

「どちらを選ぶかは先輩の自由です」

「お前は王様か何かなのか!?」

「しょうがありません。先輩が言わずとも、私が当ててみせようじゃありませんか」

「はぁ?」

「ズバリ! 先輩は、可愛い後輩である所のコハネちゃんに、日頃の労いとしてどんなクリスマスプレゼントをあげようか悩んでいるんですね!」

「NO」

「何で英語で断るんですか? しかも妙に良い発音で!」

「絶対にNOだ。お前のせいで俺の給料がいくら減らされてると思ってるんだ。こっちが労いのクリスマスプレゼントを貰いたいくらいだ」

「拳ならいつでも?」

「止めろ!」

「はいはい、分かっていますよ。先輩のことだから、サンタクロース少女のロザリアが言っていた、トナカイの待遇が気になっているんですよね?」

「ぐっ……」

「やっぱり。配達員を辞めて、トナカイになった方が良かったんじゃ……なんて思ってるんですよね?」

「…………」


 悔しいが、コハネの言う通りだった。

 今日の配達の最中、配達先が被ってしまったことで、なし崩し的に勝負を繰り広げることになってしまった相手。

 それが、サンタクロースの少女ロザリアと、変態トナカイのルドルフ。

 そもそも勝負なんかする必要なんてなかったのだが、成り行きと、そしてそれ以上にこのバカ後輩の暴走によって、勝負する羽目になったのだった。


 勝負の結果は……引き分け。

 おかげで、敗北した場合、サンタクロースの下でトナカイとして働かされる、という罰も回避することが出来たのだけど。

 しかし。

 サンタクロース少女が告げた、トナカイの労働条件・待遇は、今考えて見れば無碍に断るには惜しいものだった。

 ぶっちゃけ、『OZ』の待遇よりも良かったんじゃないか、あれ。

 いくら、あの変態トナカイみたいな服装をさせられようとも。

 たとえ、あの変態トナカイみたいな服装をさせられようとも、だ。


「もう、何を言っているんですか! こんなにやりがいのある素晴らしい仕事なのに!」 

「やりがい、あるか?」

「何を言いますか。どこかの世界で困っている人の元に、その事態を解決するチートアイテムを配達するんです。間接的にでも、人や世界を救うんですよ! こんなに素晴らしい仕事はありません! 一体何が不満なんですか」

「MONEY」

「だからどうして英語!? また発音も良いし」

「いや、だって。もうちょっと、労働の対価として相応しいくらいの給料が必要だとは思わないか!? そんなに大層な仕事をしてるんだったら、それ相応の報酬があってしかるべきじゃないのか!」


 俺の熱弁に。

 しかしコハネは、ピンと来ていないような様子で。


「別に私は、そんなに不満はありませんけどねぇ。お給料も、そこそこ貰ってると思いますし。まあ、そもそもそんなにお金使いませんけど。服はいつも制服、ご飯は社食、休日は寝ているだけですし」

「お前、それでいいのか? 一応は年頃の女の子なんだよな?」

「お、セクハラですか?」

「止めろ! 拳を突き出すな!」

「まあ、そうですね。あえて言うなら、人間関係で悩むことはありますが……」

「……人間関係?」


 ちょっと待て。

 コハネが関わり合いになっている奴なんてほとんどいないよな。

 社長やアラタ、『OZ』の他の社員、配達先の奴と話すことはあるだろうけど、それだって数える程だ。

 それなのに、人間関係で悩んでいるということは……。


 まさか、原因は俺か?


 ちょっと待て。

 それは不味いぞ。

 先輩と後輩という関係上、後輩の悩みをきちんと聞いて、円滑な業務を進行するのも先輩の務めのうち。

 正直そんな面倒くさいこと、冗談じゃないと思うが、それが原因で更に給料が減らされるなんてことになったら目も当てられない。

 しょうがない、こうなったら。

 

「あー、おほん。コハネ君? もしも悩んでいることがあるなら、先輩の俺に相談してもいいんだからな?」

「どうしたんですか急に。死ぬんですか?」

「死なねぇよ!?」

「じゃあ、死にたいんですか?」

「死んでたまるか! 何だよ、たまに優しい声をかけてやったらそれか!!」

「って、今の優しい言葉だったんですか?」

「それ以外に何がある」

「……そうですか。まあ、その気持ちだけありがたく受け取っておきますよ。ありがとうございます」

「うむ。俺からのクリスマスプレゼントだな」

「…………」


 ちょっと待て。

 何だその、全てを諦めたような目は。


「はぁ……やっぱり先輩には、サンタクロースとかトナカイとか、そういうの絶対に向いていないですね。他人に夢を与えるようなタイプじゃないですし。先輩に合っているのは、『OZ』の配達員ですよ」

「……なんか、微妙にバカにされていないか?」

「いいえ。褒めてますよ」

「本当に?」

「はい。ちなみに、今の言葉が私からのクリスマスプレゼントです」

「あ、ズルいぞ! くれるんなら、ちゃんと金目の物をくれって、いつも言ってるだろ!」

「拳もプレゼントしましょうか?」

「NO」

「まあまあ、遠慮なさらずに」

「NO! NO! NOOOOOOOOO!!!」



そんな、たわいもない会話をしながら。

俺達は『OZ』の本社へ向けて軽トラックを走らせる。


まだ見ぬ配達先へ、まだ見ぬチートアイテムを届ける為に。

軽トラックは駆けて行く。



つづく

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