配達てらす

「つまりですね、我々のミッションは、イノベーションを起こす為のビジョンをコミットし、常にコンプライアンスをプライオリティの上位に持っていきながらも、クライアントとWin-Winのリレーションを構築する為のコンセンサスを取りつつ、しかしフレキシブルにベネフィットをクリエイトすることで……」


 俺はラジオの電源スイッチを押し、流れていた番組を強制的に停止させた。


「……なんだ、今の」


 多元世界干渉通販会社『Otherwhere Zone』、通称『OZ』の配達員として、今日もチートアイテムの配達をしている俺とコハネ。

 そんな俺達が次の配達先へ移動している最中、ふと付けたラジオから流れてきたのは、何だか意味不明なラジオ番組だった。

 まず、何を言っているのか分からない。

 言葉は分かっても、その内容がまるで理解出来ない。

 聞いているだけで頭が痛くなりそうだ。

 分かる言葉で喋れよ。カタカナが多い。


「ふんふん。成程、そういうことですか。成程、成程ねー」

「成程成程ってお前、今の放送の意味が分かったのか?」


 後輩である絹和きぬわコハネは、軽トラックのハンドルを両手で持ちながら、視線だけをこちらへと向けて来る。


「あれ、ひょっとして先輩は、理解出来なかったんですか?」

「そんな事言って、どうせ分かったフリをしているだけなんだろう、お前」

「いえいえ、そんなバカな。とっても感銘を受けたんですから。思わず抱腹絶倒で涙腺崩壊しかけましたし」

「だから、どんな放送なんだよ。やっぱりお前も分かっていないんじゃないか」

「まあ分かりませんでしたけどね!!」

「素直か。もうちょっと誤魔化したりしないのかよ」

「全くもって分かりませんでしたが、なんか、こう、手をこんな感じで前に突き出して喋ってそうな感じがありましたよね」

「ああ、こんな感じな」


 俺は、両腕を前に軽く突き出して、まるで陶芸家が壺を作る為に、ろくろを回しているかのようなポーズを取る。

 コハネの言う通り、確かにこんな感じだろう。

 しかも顔は相当なドヤ顔で。


「それじゃあ先輩、続きを聴いてみましょうよ」

「いや、もういいだろ。頭が痛くなるし」

「大丈夫。頭が痛くならないコツは、左耳から入った情報を、即座に右耳から出すことです。私が、いつも先輩から暴言を吐かれている時に使っている方法です」

「俺の話、聞いていなかったのかよお前は!!」


 コハネは、俺の言葉を受け流しながら、ラジオのスイッチを再び入れる。


「――成程、ありがとうございます。旧態依然の慣習を壊す新しい発想と、遙かな未来への展望、大変勉強になりました」


 スピーカーから流れてきたのは、先程、蕩々と語っていた男性の声とは異なる、女性の声だった。


「あれ? 番組が終わってしまったんでしょうか?」

「いや、違う。ちょっと待て」


 俺達は、スピーカーに向けて耳を澄ませる。


「いえ、こちらこそ少し喋り過ぎてしまったかもしれませんね。申し訳ない、美しい女性を前にして、つい張り切ってしまったようです」

「あら、お上手ですわね」

「ハハハハハ」


 女性の声に続いてスピーカーから流れてきたのは、先程の男性の声。

 どうやら、これはインタビュー形式の番組だったようだ。

 女性の声はインタビュワーのもので、男性の方が、さっきまで聞いていた意味不明な言動の主。

 意味不明な言動だけでなく、こんなキザっぽいことまで言うなんて、一体どんな面をしているのだろうか。

 

「では、最後に一つだけ宜しいでしょうか」

「はい、何でも」

「あなたにとって、クリスマスとは、一体何でしょうか?」


 どうやら、これが最後のようだ。

 僅かな緊張感が、声から伝わってくる。


「創造、つまりクリエイトですね」


 その言葉を締めとして、番組の内容は終わったのだろう。

 インタビュワーの女性は、ラジオのこちら側に語りかけて来るように声を上げ。


「本日のお客様は、サンタ道継承者ロザリア・サンタクロース様のトナカイを務めるルドルフさんでした。ルドルフさん、本日は本当にありがとうございました。特に、軽トラックとの死闘は手に汗を握りました」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「それでは皆様、また来週ー」


 俺は再びラジオのスイッチを押し、電源を切った。

 その時、脳裏に蘇るものがある。


「サンタ……トナカイ……ルドルフ?」

 

 ちょっと待て。

 まさか……あいつか? あいつのことなのか?

 

 脳裏に浮かんでくるのは、ついこの前、ちびっ子サンタクロースのロザリアとプレゼント配達対決をした時のことだ。

 ロザリアの従者のトナカイ……というか、全身タイツの変態がいた。奴の名前こそ、確かルドルフとかいう名前だった筈だ。

 

「いやいや、まさかそんな筈はない、よな?」


 だって、あいつは全身タイツの変態だ。

 確かに立派な肉体をしていて、思慮深い眼差しと、やけに渋い声をしていたが、服装が完全にアウトだった。だって全身タイツにトナカイの角を着け、ちびっ子サンタクロースを乗せて走っているんだぞ。

 そんな変態が、ラジオに出演して、何だか無駄にカッコ良さげなことを言うなんて、そんなことがある筈がないじゃないか。


「って、先輩! 聞きましたか! ルドルフって、あの変態トナカイですよ! あー、気が付きませんでしたね。でも確かに、声が似てたかも!」


 運転席にいるコハネも声を上げる。

 やっぱりか。やっぱりあいつなのか。


 脳内で、全身タイツの変態トナカイが、ろくろ回しのポーズを決めながらドヤ顔でインタビューに答える姿を想像しようとして……。


「無理だ、俺にも想像力の限界というものがあるし……」


 言葉のパワーが強すぎる。

 何だよ、クリスマスはクリエイトって。

 そもそも、どんな番組なんだよ。毎週様々な変態を紹介する番組か何かなのか?


「良いですねー。私もラジオとか出てみたいですよ」

「はぁ?」

「ほら、さっき林の中での死闘がどうとか言ってましたよね。その繋がりでオファーが来たりしないですかねぇ。美人配達員に密着インタビューとかどうでしょう」

「お前、正気か?」

「何かいけないんですか。そこからスターの道が開けたりして……」

「たとえオファーが来たとして、変態トナカイの言葉を大真面目に紹介するような番組に出たいのかよ。そこからどんなスターに繋がるって言うんだよ」

「…………」

「…………」

「真面目に配達しましょうか」

「そうだな」


 そして、コハネは改めて前を向いて。

 俺も、妙な番組に当たらないことを願いながら、ラジオのスイッチを入れる。

 そうして、俺達は次の配達先へと向けて軽トラックを走らせる。

 まだ見ぬ配達先へ、まだ見ぬチートアイテムを届ける為に。

 軽トラックは駆けて行く。



つづく

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