配達員とサンタのクリスマス (3)
俺は、軽トラックで、コハネを撥ねてしまった。
「…………しまったぁぁぁぁぁ」
やってしまった。
やってしまったぞ俺。
いや、いつかはこうなる日が来るとは思っていた。
コハネの無茶な行動は、いずれ絶対に事故を招くものだと分かっていた。
それなのに止めなかったのは、確かに俺の責任である。
悪かった。
しかし、今は残念ながらサンタとの勝負中だ。
配達を待っている男の子がいるのだ。
だから俺は、コハネのことを思って涙するのではなく、
コハネの為にも、サンタとの勝負を継続することこそが大事だと思う。
「お前の犠牲は無駄にしないからな……」
「誰が犠牲ですか、誰が」
「ひぃッ!? ゾンビ!?」
俺が後悔を乗り越えて決意を新たにしていたところで。
コハネが、上下逆さまの状態で、フロントガラスに張り付いていた。
いや、まあ、このくらいで死ぬやつではないと分かっていましたよ、ええ。
「勝手に犠牲にしないで下さい!」
「いや、だって、軽トラで撥ねたのに……」
「確かに撥ねられましたよ。まあ、直前でガジェットを作動させて、勢いをどうにか殺したので、助かりましたけど。さすがはアラタさんが修理してくれたバンパーですね、思い切り殴りつけても、耐えてくれました。これが無かったら、もっと大変なことになっていたかもですし」
「そうか、良かった……」
「ちっとも良くないですよね?」
「ソウデスネ」
フロントガラスに張り付いたコハネがめちゃくちゃ怖いので、素直に頷く。
いやこれ無理だし。悪鬼の顔だし。
というか、コハネも大概丈夫だよな。
もう人間を辞めているレベルなんじゃないだろうか。
「はあ、とにかく、平気なんだな?」
「大丈夫、身体は何ともありません。だけど、このまま無計画に突っ込んでも、また同じようにやられそうですよね」
「割と無計画に突っ込んでいたようにも見えたんだけどな。しかし、一体、どういう仕掛けなんだろうな」
「先輩の位置からは何か見えました?」
「いや。しかし、あのサンタがやったのは間違いないんだけどな」
コハネを吹き飛ばしたのは、間違いなく、あのちびっ子サンタの仕業だ。
その仕掛けが分からない限りは、繰り返しになるばかりだろう。
そもそもサンタクロースなのに、どうしてそんな技を備えているんだよ。
「このままだと、ガジェットの使用回数が尽きてしまいます」
「……お前、そんなに連続して使ったのかよ」
ガジェットには使用回数が存在する。
その使用回数を超えては、使用出来ないようになっている。
限界まで使用したガジェットは機能を停止し、それ以上は修理しても動くことはない。強大な力を持つ以上、その力が有限なのは仕方がないのかも知れないが。
しかし、この前見た時には残り100回ほどは使用出来る筈なのに、そんなに早く消費してしまったのか、コハネは。
「って、ちょっと待てよ。そんなに使ったってことは……」
コハネがガジェットを使うことで減るもの、それは何も、使用回数だけでは無い。いやむしろ、それよりもよっぽど大事な物が減るのだ。
「俺の大事な金がッ!」
そう、金だ。
コハネがガジェットを使用する度、俺の口座から使用料が引かれるのだ。
先程からの大盤振る舞い、一体どれだけの使用料が引かれているのか分かったものではない。
「お、お前! 俺の金だと思って!」
「いや先輩、今そういうのは良いので黙っていて下さい」
「良くねえよ! 1ミクロンたりとも良くねえよ!」
お金を軽んじて良いことなんて1つもない。
お金は大切だ。お金さえ有れば、大抵の事は出来る。
幸せだって買えるのだ。
何度でも言おう。お金は大事なのだ。
「分かりました。じゃあお金を払うので、あのサンタの攻略法を考えて下さい」
「分かった。ちょっと待て」
呆れるようにして俺を見る視線を感じるが、俺は何も気にならない。
それだけお金は大事だということだ。
俺は、コハネからの攻撃を全て打ち落として見せたサンタとトナカイの背中を見ながら考える。
まあ、急に殴りかかって来たら、普通は抵抗するよな。サンタじゃなくても。
ましてや、ガジェットを手にしたコハネの一撃は岩をも砕き、ドラゴンすら打倒し得るほどに危険なものなのだから、無理もないことで。
「……待てよ?」
攻撃して来るコハネを、迎撃するサンタクロースの謎パワー。
しかし今、俺達の先を走っているサンタ&トナカイからは、攻撃が飛んで来ることは無い。あれだけの力があれば、この軽トラックくらい、簡単に吹き飛ばされそうなものなのに。
「……まさか」
それは。
こちらに攻撃をして来ないということではなく、
攻撃することが出来ないと考えたらどうだろうか。
そしてその力は振るうのはサンタクロース。
サンタクロースだからこそ、その力を持ち得ているのだとすれば。
「……そうか!」
「何ですか! 分かったんですか!」
「黒いサンタだよ」
「え?」
コハネの、フロントガラス越しの疑問に答える。
「お前を吹き飛ばした謎の力。あれは、サンタクロースに特有の能力なのかもしれない」
俺の考えは、こうだ。
「どこかの国のサンタクロース伝説においては、普通のサンタとは別に、もう一人、黒いサンタっていうものが存在する」
「そう言えばさっき言ってましたよね。何でも、なまはげみたいに、悪い子を痛い目に遭わせる奴だとか」
「ああ、それだ」
「それ、ですか」
「ああ。サンタクロースが使用しているのは、恐らく、その黒いサンタの伝承に関係しているものだ。悪い子に対して罰を与えるという黒いサンタ関連の伝承こそが、あの迎撃の正体なんじゃないのか」
サンタクロースとしての特性が、使用されている。
「コハネ、お前が吹き飛ばされる時、どんな感じだった?」
「え!? そうですね……何だか、大きくてそんなに硬くないようなもので殴られているような、そんな感じでした」
「確か、黒いサンタは、灰袋で悪い子供を殴るという話がある」
それを、迎撃に使用しているとすれば。
「お前は、悪い子供扱いされて、迎撃されていたんだよ!」
「そんな! 私のどこが悪い子だっていうんですか!!」
「いや、全面的に悪いだろ」
いきなり殴りつけて来るんだから、そりゃ悪い子だよな。
むしろ悪い子で済まされないレベルだと思う。もう完全に犯罪者だ。
「でも、それじゃあどうすればいいんですか?」
「ちょっと待て、今それを考える」
既に、俺達は結構な距離を走っている。
見れば、森の木々の向こう側に、屋敷の屋根のようなものが見える。
それはきっと、配達先の男の子が住んでいるという屋敷なのだろう。
もう、数分もあれば、到着してしまうほどの距離しか残されていない。
先行するサンタクロース組は、まるで速度を落とすことが無い。
更にこの森は、生い茂る木々によって、進むべき道がほぼ一直線に限定されてしまっている為、追い抜くことも困難だ。
強引に追い越そうものなら、木にぶつかってお陀仏になりかねない。
このままでは決して勝てない勝負。
しかし勝てなければ、俺がトナカイになる。
「って、何でトナカイにならなければいけないんだよ!!」
「今更何を往生際の悪いことを言っているんですか。覚悟して下さいよ」
「出来るかあ!!」
こうなったら、自爆覚悟でコハネと軽トラックごと突っ込んでやろうか。
しかしいくら変態とはいえ、人型のトナカイを轢くのはさすがに抵抗があるし、ましてあの少女を巻き込んでしまうのも辛い。
第一、この軽トラックごと吹き飛ばされて、それで終わりだろう。
ならば、荷台の上のチートアイテムだけコハネに持たせて、先行させるか。
要するに、チートアイテムさえ配達出来ればいいのだから。
しかしそれも、途中で気付かれて終わりだろう。
あのトナカイの速度は半端じゃない。軽トラックに乗っていないコハネはすぐに追い付かれて、打ち落とされてしまうだろう。
「どうすればいいんだ……」
運転しながらのせいか、頭が上手く働かない。
トナカイにはなりたくないのに、焦りばかりが先行してしまう。
もういっそトナカイでもいいんじゃないかという考えすら浮かんで来る。
いや、絶対に駄目だ。
トナカイだけは。
トナカイだけは!
でも、このままでは、どうしようもなくトナカイになってしまう。
それはもう人間として完全にアウトになる選択肢じゃねえか、おかしいだろ。
そのまま、どうにもならないままで、ハンドルを握って煩悶していると。
「分かりました!」
コハネが、満面の笑みと共に声を上げる。
「私に、お任せ下さい!!!」
そう、何もかもを託しても良いと、そう思えるような力強い声と。
何もかもを任せたいと、そう考える程の、朗らかな笑みを浮かべながら。
コハネが、大きく胸を叩いた。
フロントガラスに張り付いたままで。
「どうした!? 何か良いことでも思い付いたのか!?」
「はい、この状況をどうにかする方法を!!」
「だけどお前、ガジェットの使用回数が、尽きているんじゃなかったのか」
「大丈夫。まだギリギリ一撃分だけ、残っていますよ」
言ってコハネは、ガジェットを起動している拳を掲げて見せる。
いや、頼もしいことは頼もしいのだけど、一々不安定なポーズを取るのは止めてくれないだろうか。ここでお前が落ちたら、もう一度轢いてしまうぞ。
「……本当に、どうにかなるんだろうな」
「はい。お任せ下さい!」
「そうか……それなら、任せる」
「任されました!!」
不敵に笑って。
コハネはフロントガラスを蹴り、飛び出していく。
最早、ゴールまでは猶予も無い。
これが最後になるのかも知れない。
コハネが、サンタに向かって飛び掛かる。
「……懲りずに来るか、小娘!!」
対するサンタの少女が、勝ち誇ったように笑う。
彼女の目は、既に空中のコハネを捉えている。相手を悪い子だと認定して吹き飛ばす黒いサンタの異能は、コハネを逃さない。
「だがそれも……無駄じゃ!」
僅かに勿体ぶるように僅かな時間を置いた後、サンタは指を鳴らす。
しかし。
その数瞬こそが、必要で、致命的だった。
コハネは、空中で身をよじると、隠していたガジェットを、発動させた。
それは、ここまでの攻撃では使っていなかったもの。
直接ぶん殴ったり、斬りかかったりする、バーバリアンスタイルのコハネからはかけ離れている為、滅多に使用することのないガジェット。
「この一撃は、逆転への布石! という感じで、今、必殺の『岩戸ランダー』、発動します!」
叫んだコハネの前に。
ガジェットの効果により、巨大な岩石が出現した。
「な、何じゃとぉ!?」
サンタ少女の絶叫が響く。
そう、黒いサンタクロースの能力は、相手のことを目視しなければ発動しない。
そもそも悪い子供に罰を与える為の能力なのだ。相手のことを見ないで発動するなんて、それは罰を与える態度ではないということだ。
だから。
目の前に大岩が出現してしまった今、コハネの姿は、サンタクロースからは視認出来ず。
このままでは、コハネに対して能力を使用することは出来ない。
出現した大岩は、そのまま、サンタクロースの頭上から降り注ぐ。
そう、視界を塞ぐ為の大岩は、転じて相手への攻撃ともなっているのだ。
予想外にして致命的な一撃。
しかし相手もさるもので、
「ルドルフ! 案ずるな、回避じゃ!!」
「了解」
命令に応え、トナカイが瞬間的に速度を増す。
ここまでとは違う、大きな跳躍。ここまでずっと走り通しだというのに、トナカイはまるで疲れた様子を見せなかった。あっさりと、大岩の範囲から逃れる。
「ふん、驚かせおって。しかしまさか、これで終わりではあるまいな!!」
大岩を躱してもなお、サンタの視線は周囲を注意深く窺っている。
大岩を避けたその隙を狙って、コハネが再び襲い掛かって来ることを、警戒しているのだろう。すぐに大岩から視線を外すと、そのまま身を屈めて、周囲へと警戒の視線を飛ばしている。
続く攻撃を防がれて、完全に追い込まれた形になったコハネ。
このまま迂闊に顔出そうものなら、また迎撃されてしまうに違いない。
しかし、それでも。
この瞬間、サンタクロースから見て、確かに死角となっている場所が一つだけ存在している。
その場所に潜んでいたコハネが。
この瞬間を待っていたといように、最後の突撃を開始した。
「なにッ!?」
サンタ少女が、それに気付いた。
油断せずに、注意を払い続けていたからこその超反応。
攻撃を放つ為には、コハネはどうしても姿を現さなければならない。
それは即ち、こちらの敗北を示している。
本来ならば、それで全ては終わるものだった。
しかしそれも、僅かに一手だけ、上回る。
何故なら、コハネが出現したのは、サンタクロース達のちょうど背後。
背後に、潜むように、コハネは現れていた。
たった今回避された大岩の、その内部。
大岩によって視界から消えた筈のコハネは、出現させた大岩のその中に、潜んでいたのだ。
無論、大岩の中に隠れる為には、それなりの力を要する。
その為に、残り一発となっていたガジェットの力を使用してしまったくらいに。
しかし、その甲斐あって、完全に死角を捉えていた。
不可侵の射程内に、ようやくコハネは侵入したのだ。
「捉えたッ!」
「くッ……!」
サンタは、背後から迫り来る予感に突き動かされるように、身体を動かす。
コハネの姿をその目で確認して能力を叩き込む為に。
ちらりとでも見てしまえば、それで何もかも終わりの、能力を。
しかし、敵は己の背後にいる。
自分の背後から襲い掛かって来る敵を視界に収める為には、180度自分の身体を回転させなければいけない。
本来ならば一瞬で済む程の隙。
しかし今、その一瞬こそが、どうしようもない程に致命的だった。
「うおおおおおおッ!!」
叫び。
矢のような軌道で、コハネは進む。
既にガジェットの使用回数は尽きていて、コハネの両拳には何の力もない。
それでも、大岩を蹴り飛ばして得ていた加速度は、確かな力を秘めていて。
そこに、コハネの気合が乗った。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
必ず相手を討ち果たすという、そんな気合が、叫びと共に空を跳ねる。
視線が己を捉えるよりも早く、その速度は敵に届いて。
そして。
相手の隙を、逃すことなく。
身体は、相手を貫き。
振り絞られたコハネの拳は、
サンタ少女のロザリアと、
トナカイのルドルフを、
まとめてこの世から消滅させたのだった。
「って、消滅させちゃったの!?」
消えたの!?
消してしまったの!?
勝利に喜び、一瞬突き上げかけた拳を慌てて下ろす。
消滅!?
消滅ナンデ!?
ガジェットの使用回数を使い果たしたコハネの拳は、ただの拳と化している。
だからこそ、当たったとしても、大したことにはならない筈だ。
そもそも相手の体勢を一瞬でも崩してしまえば、それで目的は達成出来ると思っていたので、そこまで気にしていなかったのに。
しかし拳は直撃して。
相手は、跡形も無く消し飛んだ。
いや、ぶっちゃけて言うと、これ殺人だよな?
あの後輩、サンタクロースを殺害したよな?
「やってしまった……」
いくら配達中の事故とはいえ……いや割と本気で挑んで行ったので事故じゃないな。しかし事故ということにしておかないと色々とまずいのではないか……どうにか会社の権力でごまかしたり出来ないだろうか……いやいや相手は有名なサンタクロースなのでどうやっても責任問題は免れないのではないか……あれ、もうこれ詰んでる?
ダメだ。
もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
保身と後悔と、不安と罪悪感と、様々に入り混じって、もう訳が分からない。
それでも、軽トラックのアクセルを止めていないのは、職業柄か、それとも現実逃避か。
とにかく、一度コハネと話し合って、それから後のことを考えよう。
いざとなったら、あいつだけ突き出そう。
そう心に決めながら、改めて前を向いた俺の視界に。
「……は?」
消えたと思っていた姿が、存在していて。
消えたと思っていた声が、響いたのだ。
「ふははははは! 小娘、その程度で儂らを倒したなどと、侮るなよ!!」
それは、サンタクロースの少女、ロザリアの声。
先程までと変わることのない、変態の肩に乗ったままという状態で、彼女は確かにそこにいた。
つい先程、消滅した筈の、その姿が。
それを見た時に浮かんだ感情は、安堵よりも、疑問。
この世から消し飛んで消滅した筈の存在が、どうして、何事もなかったかのように現れて、なおも走り続けているのか。
「……そうか」
気付いた。
ここまで先程まで散々苦しめられていた、悪い子をぶっ飛ばすという、黒いサンタクロース特有の能力。それが、サンタクロースにまつわる伝承を、自分の力として捻じ曲げ、使用することが出来るのだとすれば。
考えられるのは、サンタクロースとしての、一番の伝承。
サンタクロースは、世界中の子供達にプレゼントを届ける、という点だ。
「そういう、ことか」
先程、あのトナカイは、少女こそがサンタ道の正統な後継者だと言っていた。そしてサンタクロース活動は、一人きりで出来ることではない。
プレゼントを求める子供達は世界中に分布していて、それを一人で全てこなすなんていうことは、普通の方法で出来るものでは無い。
ならば逆転の発想。
普通ではない方法を使えばいい。
ただ一人で、全てのプレゼントを配達しようとするならば。
自分が、分身でもするしかない。
己の身体を、分割する。
たとえ一体が消滅しようとも、その他の身体で、目的を達成する為に。
一夜にて世界を巡るという大困難を、踏破する為に。
「これこそが、正当なるサンタ道に伝えられる秘奥! 普く呼び声に応える為の手段! 『
サンタクロースは、そこにいた。
確かに消滅した筈だったのに、実体をもって、そこにいた。
コハネの一撃を貰う瞬間に、とっさに分身を発生させて、身代わりにすることで、自らの身を守ったのだ。守られた本体は、こうして今も現存している。
そして、その能力の真価は、防御だけではない。
もう、自分の目ではっきりと確認してしまっている。
今や、森を走るサンタクロースは、無数に増殖していた。
俺達の前だけではなく、横や後ろにまで、360度展開される、トナカイとサンタクロースのコンビ。
視界が、ほとんどがサンタクロースで埋まっているという、とんでもない光景へと変化していた。それらをいくら打倒しようとも、1組でも残っていれば、きっとサンタクロースはそのまま無事に走り抜けてしまう。
「せ、先輩! 何なんですか、これは!!」
大岩から、軽トラの荷台に飛び乗ってきたコハネも叫び声を上げる。
すぐにガジェットを起動させて、サンタクロースの殲滅に移ろうとするが、しかし既に使用回数は限界を超えている。
いや、たとえガジェットの力を使えたのだとしても、無意味だろう。
単純な物量。
数の暴力。
数で押し通すという単純にして明快なやり方を前にしては、どうしようもない。
津波を相手に挑むような無謀では、決して止まらない。
俺も、軽トラックのアクセルをベタ踏みし、最早撥ねることもいとわないような全力で走るが、それでもなお、届かない。
「くそっ!」
「先輩!」
そして。
タイムリミットと言わんばかりに、周囲の景色が変わる。
鬱蒼とした森を抜け、開けた場所に飛び出していく。
水が漏れるように、相手の猛攻は止まらず。
俺達は、その後塵を拝すことしか出来ないままで、到着してしまった。
森の向こうの屋敷。
ゴールと定めた目的地に、こうして、着いてしまった。
「あ……」
「あー」
そう、簡単なことだ。
悔しい程に簡単な、一つの事実。
俺達は、サンタに負けてしまったのだ。
敗北。
その事実が、両肩にのしかかる。
その事実が、じんわりと身体中に染み渡って行く。
力を失って軽トラックから降りた俺に、荷台から飛び降りて来たコハネが、そっと肩に手を置く。
その手は、不思議なほどに、慈愛に満ちていて。
その声もまた、優しいもので。
「それじゃあ、トナカイの仕事頑張って下さいね、先輩!」
「お前、ぶっ飛ばすぞ!?」
つづく
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