配達員の連休

「よし、今週は休みだ!!」

「突然何を言い出すんですかこの先輩!!」


 2人の配達員が軽トラックに乗り込もうとする直前のこと。

 男性の方の配達員が、突然叫び声を上げた。


「はぁ? お前こそ何を言っているんだよ。ちゃんとカレンダーを見ろ。今日は一体何日だと思っているんだ」

「えっと……5月ですね。日付を明言するのは、後々面倒くさいことになりそうなので止めておこうと思いますけど、5月の前半です」

「そう! 5月の前半といえば、ゴールデンウィークだ!」

「はぁ、そうですね」

「……どうしてそんなに反応が薄いんだ。ゴールデンウィークと言えば、連休だぞ、大型連休だ!」

「いや、我々配達員には、連休とかあんまり関係ないですし。というか連休だからって休んでたら、色々と成り立ちませんよね」

「何だお前、ブラック企業の手先か何かかよ。ブラックエンジェルズか」

「そんなこと言って先輩、きちんと振り替え休日貰ってるじゃないですか」

「いいんだよ、細けぇことは!!」

「全然細かくないですよ。ほら、行きますよ。私達の配達を待ってる人が沢山いるんですからね!」

「いーやーだー!」

「いーきーまーすーよー!」


 まるで子供のように駄々をこねる男性配達員を前にして、

 女性配達員は、すっかり困ってしまっているようだ。


「というか先輩、さっきから連休連休って言ってますが、実際にはもうゴールデンウィークが終わった後ですよね?」

「ああ、しょうがないな。タイムラグがあるからな」

「連休の最中ならギリギリかもしれませんが、終わった後でこんなことをやらかしたら、もう完全にアウト、ただのサボりとしか思われないのでは」

「サボって何が悪んだよ!」

「あ、開き直りましたね? 最低ですよ、この先輩」

「皆、もっとサボれば良いのにな!」

「先輩は結構頻繁にサボっている方だと思いますけどね……」

「ふん、まだ俺は本気を出していない。俺のサボり力の前では、いかなブラック企業といえど、プール後の数学の授業と同じだからな」

「あの、良く意味が分からないんですけど」

「いつでも寝られるということだな」

「ちっとも褒められたことじゃありませんし。もっと真面目にやりましょうよ、全く……」


 軽トラックに乗り込むつもりもなく、ただ喋り続ける男性配達員に対して。

 呆れたという視線を送る、女性配達員。


「もう、どうせ休んだからって、遊びに行く予定も、一緒に遊んでくれる友達もいないくせに……」

「おい、言ったな!? 言いやがったな!?」

「だって、事実ですもんね。一緒に遊んでくれるような友達が、先輩にいるんですか?」

「い、いるに決まってるだろ!?」

「それじゃあ名前を言ってみて下さいよ」

「ぐっ……」

「ほらほら」

「……ば、バカ野郎! 休日っていうのは、身体を休める為にあるんだ! それなのに、遊びに行って逆に疲れるなんて愚の骨頂。1人でじっくり、自由に、救われながら休むのが……」

「まあ、そうなりますよね」

「話を聞け! そして、そんな可哀想な人を見るような目で見るんじゃねぇよ!」

「ほらほらほら、そんなこと言っているうちに時間も迫って来ましたし、さっさと行きますよ」

「いーやーだー!」

「……殴りますからね?」

「暴力か! 暴力なのか! 暴力には屈しないからな!」

「じゃあ、まずはお腹辺りに一発いっときますか」

「畜生、逆らうことが出来ない……! だって痛いのは嫌だから! ああ、こうして俺は、体制側に屈することになるのか!!」

「はいはい、そう言うのはもういいですから。とっとと乗り込んで下さい!」

「しかし、俺の身体は屈しても、心は決して屈しないからな……」

「もう、先輩のせいで遅れちゃったじゃないですか! 超特急で行きますからね!」

「あぁ、サボり道よ、永遠なれ……!」


   ◆    ◆    ◆         


 コハネは、再生していたラジオドラマを止めると、俺の方を見た。

 その瞳は、やけに嬉しそうに輝いている。


「どうですか先輩! 面白いですよね!!」

「あ、あぁ……」


 『先輩! 面白いものを見つけたんですよ!』と言って、コハネが突然再生を始めたラジオドラマ。

 それは、2人の配達員がひたすら掛け合いを繰り広げながら配達をしていく、というものだった。

 コハネはそれを妙に気に入ったようで、今日だけで数十回も再生している。

 別に内容がつまらないとは言わないが、そんなに何度も聞かされたら、単純に飽きて来るというものだ。台詞も覚えてしまいそうだ。

 

「ところで、このラジオドラマの中の人、先輩に似てませんか?」

「はぁ? どこが俺に似てるって言うんだよ」

「そりゃあもう、何かにつけてサボろうとしたり、屁理屈ばかりこねるところがソックリじゃないですか。あと、後輩への乱暴なな接し方も」

「……そんなこと言ったら、女の方は、すぐに暴力で解決しようとする辺りがお前ソックリだよな」

「え、本当ですか!? 私って、あんなに可愛らしい声をしていますか。いやぁ、照れちゃうなぁ」

「……皮肉も効かないのかよ」


 次元を越える通販会社『Otherwhere Zone』、通称『OZ』の配達員である俺達は、次元を越える軽トラックに乗って、チートアイテムを運んでいる。


 そこには勿論、ゴールデンウィークなんてものは一切関係なくて。

 今日も今日とていつものように、軽トラックは次元を駆ける。

 

「よーし、じゃあ、もう一回頭から再生してみますか!!」

「いーやーだー!」



つづく

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