第3章 笑う配達員の生活
笑う配達員の生活(1)
「やあヒビキ君。今日は良く来てくれたね」
軽い口調で、向けられる言葉。
しかし、言葉を掛けられた方は、とても軽い気分ではいられない。
今俺がいるのは、多元世界干渉通販会社『Otherwhere Zone』、通称『OZ』の 本社ビル内にある社長室。
そして、目の前にいる人物こそはこの部屋の主であり、会社の主でもある人物。
つまりは、『OZ』の社長なのである。
社長は、高級そうなデスクの傍に置かれた高級そうな椅子に悠然と腰掛け、組んだ手の上に顎を乗せて、こちらを見つめて来る。
一見して柔和そうな、カフェの店長と言われても通用しそうな中年男性を前にして、俺は全身ガチガチに緊張している。
乾き切った唇をどうにか押し開けて、返事をする。
「は、はい。ご無沙汰しております、社長」
「おや、どうしたんだいヒビキ君。随分緊張しているようだけど」
「い、いえ、別に、そんなことはない……ありません」
もうちょっとマトモに動いてくれ俺の口、と必死で願うものの、
まるで砂の中に埋まってしまったかのように、俺の口は動いてくれない。
本当、どうして、こんなことになってしまったのか。
まあ、その理由は簡単だ。
前回の美術館への配達の際、『夢現怪盗プリズマ』とか名乗っているふざけた輩と一悶着起こしてしまったから。
そしてその怪盗に、よりにもよって大切なガジェットを奪われてしまったからである。
『OZ』に戻って来るなり、俺の元には社長室への呼び出しが掛けられた。
呼び出された要件は、まだ何も言われていないが、決まっている。
説教されるくらいならまだ良い、耐えられる。
社員の間でまことしやかに噂されている、社長室呼び出しからの強制労働も、甘んじて受け入れよう。
何だったら、掘られるくらいまでならOKだ。嫌だけど。
だけど。
給料を減らされることだけは、絶対に駄目だ。
減給だけは絶対に、避けなければならない。
更に、そこから過去の勤務態度にまで言及されるようなことになっては、もう俺の未来は風前の灯。謝り倒してでも、何度土下座をして地を舐めようとも、この窮地を切り抜けないといけない。
その為ならば、俺の貞操さえも投げ捨てられるほどだ。嫌だけど。
それなのに。
「違いますよ社長! 先輩は別に緊張なんてしてませんから!!」
こういう、余計なことを言う馬鹿が、俺の横にいるのだった。
その馬鹿の名前は、
俺の配達のパートナーで、運転手で、後輩で、そして今は、ただの爆弾だ。
「見て下さい! この顔は、この場をどうにか切り抜けることだけを考えている顔です! プライドとかを叩き売ってでも、うやむやにしようとしているんです! そうですよね先輩!!」
「ちょっと黙ってろお前!」
社長に届かないような小声で、横にいるコハネを睨みつける。
しかしコハネは、俺の声などまるで気にしていないようで。
「え、違うんですか? 先輩って、基本的に問題を先延ばしにする傾向がある人なので、今回も、この場をやり過ごすことだけを考えていると思っていたんですけど!」
「おい、黙れって」
「表面上は反省しているように見せながら、頭の中では今日の夕飯をどうするかを考えているんですよね! 今月も金欠だから、大宇宙パン屋で貰って来たギャラクシーパンの耳だけで月末を乗り越える方法とか!」
「だから黙れっての!」
「痛ぁ!?」
どうにもコハネがどうにも止まらないので、その足を思い切り踏みつける。
「コハネさーん? 社長の前なんですから、大人しくして下さいますー?」
「うわ何ですか急に!? さん付けとか気持ち悪いんですけど!」
「お前には場の空気を読むことが出来ないのか!」
「え、でも、合ってますよね? 私の観察眼は伊達じゃないんですよ。どんな食品の賞味期限でも一瞬で見破る私の眼力、先輩もいつも御世話になっているじゃないですか!」
「お世話にはなってるけど、今それを言わなくてもいいだろ!?」
怪訝そうにこちらを見ている社長に聞こえないよう、
顔を近付けて、コハネに必死で語りかける。
「と、とにかく! 余計なことを言うんじゃない!!」
「余計なこと? 余計なことってなんですか?」
「だ、だから、怪盗に騙されたとか、ガジェットが奪われたとか、そういう余計なことだよ!」
「余計って……ちっとも余計じゃないじゃないですか。むしろ、いの一番に報告しなきゃいけない重要事項だと思いますけど?」
コハネの言葉は、確かに正しい。
俺達、『OZ』の配達員に支給される『ガジェット』と呼ばれる装備品。
それは、使用料を支払うことで、世界の理に反するほどの能力を発揮する、凄まじいアイテムである。
そんな強大な力を、見ず知らずの奴……しかも夢現怪盗プリズマなんていう、訳の分からない奴に奪われることなど、絶対にあってはならないのだ。
やっちゃったけどな!!
見事にやらかしたけどな!!
「報告しなきゃいけないって言うのは分かっているんだよ! でもそんなに堂々と言える訳ないだろ!? こういうことはもっとこっそり、反省して申し訳なさそうに言わなければいけないんだよ!!」
「申し訳なさそうに、ですか」
「そうだ。そうすると心証が違うからな!」
「わあ先輩、最悪ですね」
「うるさい! とにかく、お前は黙っていれば良いんだ!」
「分かりました。黙っていればいいんですね?」
よし、コハネへの説得は成功した。
ここで妙なことを言われて、俺の緻密な計画が崩れてしまったら困るのだ。
「分かりました先輩! 先輩がガジェットを怪しい輩に奪われて、しかもその失態を出来る限り誤魔化して、あわよくば何のペナルティも受けずにやり過ごそうとしているなんてことは、この絹和コハネ、断じて誰にも言いませんから!!」
「お前ここでそんなベタなボケをするのか!?」
社長室のど真ん中。
大声で何もかも叫び尽くしたコハネに対して、俺はベタなツッコミを入れることしか出来ない。
ああ、終わった。
何もかも終わってしまった。
「……チラ」
恐る恐る、社長の顔を窺う。
もう絶対、般若みたいな顔をしているに決まっている。
もしくは金剛力士像みたいな顔をしているに決まっている。
もう先手打って土下寝しかないと、そう覚悟を決めて顔を上げれば。
「はっはっは」
「……え?」
聞こえて来たのは、意外なことに快活な笑い声だった。
こちらを見つめる社長の顔は、信じられないことに笑顔だ。
俺とコハネのやり取りを、まるで漫才でも観賞するかのような様子で見ている。
てっきり、仁王像みたいな顔をしていると思っていたのに!
「ふむ、ヒビキ君のガジェットが盗まれたというのだね」
「も、申し訳ありません!!」
「ああ、別に謝る必要はないよ。そもそも、『OZ』のガジェットは、全て本社にあるコンピューターで管理されているからね。何か問題が起きれば、強制的に停止してしまえばいいのだからね」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、何しろ貴重な代物だからね。いざという時の為の備えはしているんだよ」
「じゃ、じゃあ、俺の責任は無いってことですね!!」
「……どうしてそうなるのかね?」
「え、ならないんですか?」
隣を見れば、コハネが俺のことを、ゴミ虫を見るような目で見つめていた。
そんなに俺はおかしいことを言ったのだろうか。
社長は咳払いを一つして、言葉を続ける。
「無論、ヒビキ君には責任がある。ガジェットは、使用する配達員が責任をもって取り扱い、管理するものだからね。それを奪われたことは、看過出来ないな」
「はい」
「だから、一刻も早く取り戻すことだね」
「……はい?」
「奪われたのなら取り返せば良い。ヒビキ君には、その怪盗から奪われたガジェットを取り返すことを命じよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。取り返しさえしてくれれば、問題はないよ」
「あ、ありがとうございます!」
社長の寛大な処置に頭を下げながら、しかしこっそりほくそ笑む。
怪盗からガジェットを取り返すのは、こちらとしても確定事項。
その程度の処分で済むというのなら、全く文句は無い。
「……ただし」
「え?」
しかし、安心する俺をけん制するかのように社長は。
「奪われたガジェットが、怪盗によって濫用された際に発生する使用料は、当然、ヒビキ君の給料から引かれることになるね」
そんな、とんでもない言葉を告げやがったのである。
「当然の事だろう? ヒビキ君に預けているガジェットなのだから、その使用料は、ヒビキ君から徴収するのが当然だ」
「で、でも、使っているは怪盗の奴で……」
「しかし、君のガジェットだろう?」
「そ、そうですけど……。そうだ! 強制停止して下さい! 本社のコンピューターで強制停止すれば使用料もかからない!」
「強制停止したら、再起動の為に、更に費用が必要になるが良いかね? ちなみに、そちらは桁が一つ上だ」
「こ、こんな酷い扱いが許されるんですか!?」
「君がガジェットを奪われたのがいけないのだろう?」
「そ、それはそうですけど……そうですけど!」
社長は、それで話は終わりだというように言葉を切る。
「他に、何か意見があるのかね?」
「いえ……ないです」
隣を見れば、コハネが『まあ自業自得ですよね』みたいな顔をしている。
後で覚えていろよ。
「まあ自業自得ですよね」
「本当に言いいやがったな!?」
「だって、その通りじゃないですか。もうびっくりするくらい正論ですよ」
悔しいが、確かに、その通りだ。
ここで社長に食い下がっても、それで事態が好転するとは思えない。
何しろ相手は百戦錬磨、一癖も二癖もある『OZ』の社員を束ねる社長なのだ。
今ここで相手をするには分が悪すぎる。
だから、今は、怪盗をさっさと捕まえることを考えるのが先決だ。
あいつ、本当にもう、どうしてやろうか。
怪盗というからには、きっとビルの最上階かどこかにアジトなんぞを構えて、ワインとシャム猫を愛でながらフフフと笑っているに違いない。
いっそ、そのアジトを強襲して、逆に怪盗の持っているお宝を全て奪い取ってやろうか。
それがいい。そうしよう。
そんな風に、これからの復讐計画を脳内で立てていると。
「さて、ヒビキ君の失敗の話題は、これくらいにして」
「え?」
「そもそも、ヒビキ君のガジェットの件は本題ではないのだよ。君達を呼び出した理由は、他にあるのだから」
「じゃあやっぱり、先輩の不真面目過ぎる勤務態度の件ですか!?」
「じゃあって何だよ!!」
「だって目に余るぐらい不真面目なんですもん!」
「だから何でわざわざ今ここで言うの!?」
それを言っちゃいけない場所ナンバーワンだろ、ここ。
しかし社長は、それでも笑顔を崩さずに。
「ヒビキ君の不真面目な勤務態度については既に各所から報告を受けているから大丈夫だよ、コハネ君」
「そうなんですか。良かったですね先輩」
「良くねぇよ」
良い要素が一個も無いんだよ。誰だよ、報告したの。
ともかく、社長には俺の勤務態度について言及するつもりはないようで。
椅子から立ち上がると、そのままゆっくりとこちらに……いや、コハネに向けて、歩いて来る。
そして、戸惑ったような顔をしているコハネの前に立つ。
「最近、調子はどうかな、コハネ君?」
「え、わ、私ですか!?」
「ああ、配達員の仕事には、そろそろ慣れたかな?」
「は、はい! すっかり、にゃれました!」
まさか自分の方に来るとは思っていなかったのだろう。
コハネは、目に見えて戸惑っている。噛んでるし。
「そうそう、ヒビキ君だけではなく、コハネ君の勤務態度も報告を受けているよ。中々良い働きをしているみたいじゃないか」
「あ、ありがとうごじゃいます! 先輩よりも頑張ってます!!」
お前、それは今言う必要ないだろ。また噛んでるし。
俺の向ける視線に、しかしコハネは気付く余裕すらないようだった。
自分よりも小柄な社長に対し、コハネは非常に緊張しながら喋っている。
「普段の勤務態度も素晴らしい。また、イレギュラーな事態においての行動も優れている。ルールを守った上での迅速な配達という、一番大切な事をきちんと心掛けているようだね」
「えへ、えへへへへ」
「いやはや、私も優秀な部下を持って嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます! 勿体ないお言葉です! 私なんて、ただ先輩を反面教師としているだけですから……」
「おい止めろ」
「むしろ、先輩とは逆の事をやっているだけと言いますか……」
「だから止めろ」
そうやって俺を無意味に貶めるコハネを、社長は優しげな視線で見つめている。
いや、目の前でもう一人の部下がいじめられているんですから、ちょっとは叱ってくれてもいいんですよ社長。
「コハネ君。我が社の使命は、多数の世界と、そこにいる住人達から発せられた救難信号を受け取り、その状況に最適なアイテムを配達することで、陥っている危機から救い出すことだ」
「はい!」
「そうして、危機を回避した世界や住人達から得られるエネルギー、それこそが、我が社を動かす原動力となり、新たな危機を救う力となる。つまり、世界の行く末は、君達、配達員の両肩にかかっていると言っても過言ではないのだよ」
「はい!!」
「……あの、そんなに配達員の仕事が重要だったら、もうちょっと給料の方を上げてくれても良いのではないでしょうか社長」
「これからも我が社と、そして世界の為に頑張ってくれたまえ。期待しているよ」
「はい!!」
無視された。
「ところでコハネ君、何か困っていることはないかな?」
「困っていること……ですか?」
俺をすっかり放っておいて、コハネと社長の会話は続く。
「そうとも。何かあるのなら、言ってみるといい。社員の言葉に耳を傾けることも、社長の務めだからね」
「給料UPだ! 給料を上げて欲しいって言え!!」
コハネの背中に向けて必死で訴え掛けるも、やっぱり完全に無視。
コハネは、何事かを考え込んでいたかと思うと。
「……そうですね、私に、もっと仕事をさせて頂けませんでしょうか」
「ほう」
「先輩は、確かに不真面目でやる気も無くて、どこでもすぐ寝るし、もう本当にどうしようもない先輩なんですけど、私が使えないガジェットを使いこなして、何だかんだで配達をきちんとこなしているんです。やる気はないですけど!」
「褒めるか貶すかどっちかにしろよお前」
貶す方が明らかに多いじゃないか。
もっと褒めても良いんだぞ。
「私も、早く先輩みたいな一人前の配達員になりたいんです! ですから社長、私にもっと仕事をさせて下さい!」
そんな、コハネの真摯な言葉に。
社長は、ニコリと笑みを返すと。
「分かった。その旨は間違いなく担当の者に伝えておこう」
「ありがとうございます!」
「なに、別にお礼を言われることではないさ。優秀な部下が増えることは、我が社にとっても有益なことだからね。ただ、最近では物騒な報告も多数聞いている。気を付けてくれたまえ」
「はい! ありがとうございます!」
そう、コハネが元気よく叫んで。
とんでもなく長い時間に思えた、社長との面談はようやく終わったのだった。
◆ ◆ ◆
「失礼しました!!」
「失礼しました」
二人並んで、社長室から出る。
いかにも高級そうな扉を閉めたのと同時、
俺は大きく溜め息を吐き、コハネは逆に嬉しそうな声を上げる。
「私、初めて社長にお会いしましたけど、素晴らしい方ですね!!」
「お前、あんな訳の分からないプレッシャーの中で、良く普通にしていられたよな。しかも俺のことをちょいちょい罵倒して来るし」
「まさに紳士って感じでした! てっきり先輩みたいに底意地の悪い人かと思っていましたけど、そんなことなかったです!!」
「どういうことだよ」
そう言うと、何故かコハネは妙な笑いを浮かべながらこちらを見て。
「ははーん、先輩ったら、私だけが社長に褒められたので、妬いているんですね?」
「……はぁ?」
「もう、そんなに気にしなくていいんですよ? 真面目に仕事をしていれば、先輩もいつか必ず、社長に目をかけてもらえますから」
「お前何なの? 俺の先輩なの?」
「真面目にやっていれば、減らされた給料も元に戻りますよ!」
「まだ減らされてねぇよ!?」
そう、まだ減らされてはいない。
だから、減らされるよりも早く、あの怪盗をとっ捕まえて、ガジェットを取り返さないといけないのだ。
その為に、俺は一刻も早く社長室の前を離れようとして。
「どうしたヒビキ、悪いものでも食ったのか?」
その背中に、気怠げな声が掛けられる。
廊下の壁に寄りかかって煙草をくゆらせながら、こちらを見ているのは、白衣を羽織った眼鏡の青年。
髪の毛はぼさぼさで、いかにも身なりには興味が無いというように乱れているが、眼鏡の奥から向けられる視線はやけに鋭い。
「あんまり遅いから、来てみたのだが」
「今からそっちに行こうと思っていたんだ。悪いな、手間を取らせて」
「なに、問題ないさ」
青年は吸っていた煙草を見せると、それを白衣のポケットから取り出した携帯用灰皿に放り込む。
「どうせ、また何か厄介事が起こったんだろう?」
「ああ、給料が減らされそうなんだ」
「いつものことだな」
「だからいつもじゃねぇよ!?」
何でどいつもこいつも俺の給料を減らしたがるんだよ!!
「しかしまあ、社長室に呼び出されて、五体満足で帰って来れただけ幸運だったじゃないか。社長室に呼ばれ、それ以降、姿を見ることは二度と無かった……なんて話も聞くぞ」
「いや、今はそんなヨタ話はどうでも良いんだよ。何でもいい、新しいガジェットを用立ててくれ。ガジェットを奪ったあの怪盗を捕まえるのに役立って、使用料がそんなに高くない奴を!」
「まさか、ガジェットを奪われたのか? お前、何をやっているんだ?」
「……色々あったんだよ」
「実に愚かだな」
「うるせえな。ほら、こんな所でぐずぐずしている暇はない。ドックに行くぞ!」
「それは構わないが。そちらのお嬢さんのことはいいのかい?」
「え?」
言葉に従って後ろを振り返ると、コハネがそこで固まっていた。
何と言うか、奇跡でも目撃したかのような、そんな表情をしていたかと思うと。
「せ、先輩が……」
「何だよ?」
「先輩が、普通に、他人と、話をしていますよ!?」
「……はぁ?」
コハネは、口をあんぐりと開けて、俺達のことを凝視している。
どうやら本気で驚いているらしい。
「そんな!? いつも憎まれ口か、適当なことしか喋らない先輩に、普通の人付き合いなんか出来ない筈なのに、当たり前の人間関係なんか不可能な筈なのに、どうして普通に会話出来ているんですか!?」
「おい」
俺、とんでもなく失礼なことを言われているよな。とびきりだぞ。
しかしコハネは本気のようで、急に俺の頭を掴むと。
「分かりました、あなたは偽物ですね!?」
「はぁ!?」
「おのれ偽物、先輩に化けて私を騙そうとしているみたいですけど、先輩の性格の悪さを甘く見ていたようですね! さあ大人しく正体を現して下さい!!」
「痛い痛い痛い痛いッ!? 首を引っ張るな!!」
「む、これだけ引っ張っても正体を現わさないとは。まさか、ガジェットの力を使っているんですか!?」
「使ってねえよ! 完全に生身の俺だ。だから止めろ! 首が抜ける!」
「そうか、あなた、夢現怪盗プリズマですね! 敵ながら見事なガジェットさばき。流石はあの性悪先輩を手玉に取っただけのことはあります!」
「何を感心してるんだお前。ちょっと待て、骨が変な音をし出した。おいこれ本気でまずいって!」
「分かりましたプリズマさん。離してあげるので、私にそのガジェットの使い方を教えて下さい。先輩は返さなくても良いですから」
「返して! 俺の命を!!」
ああもう、何でこんなにヤケになっているんだこいつは!
「おいアラタ、お前も笑っていないで、コイツを止めろ!」
「面白い光景だ。もう少し見ていても良いんじゃないか?」
「俺の首が取れる前に止めろ!!」
「……仕方がないな」
そう言うと、白衣の青年は指を鳴らす。
それだけで、俺とコハネが、急激に弾き飛ばされた。
まるで、見えざる手によって引き離されたかのように。
「え? 一体何が……?」
白衣の青年は、茫然とするコハネの傍へと歩み寄ると。
「初めまして、絹和コハネさん」
コハネを見据えるようにして、口を開く。
「僕の名前は、
つづく
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