発端
「ワッ、なんてこった。何だ、これは!」
驚愕のあまり声を張り上げたのは、
調べるまでもなく、この男女は息を引き取っていた。この二つの死体はうつ伏せで重なり合っていて、下の女の方はよく分からなかったが、上の男はひどく頭を殴打されたのだろうと見当がついた。頭頂から多量の出血をしており、グロテスクな凝固し掛けの血の沼が、ぬめり気を帯びて光っていたのだ。
「ヒィ、け、警察を……」
浅倉刑事は激しく動揺していたが、川原警部は既に落ち着きを取戻し、低い声で、
「浅倉君、呼ぶまでもなく、我々が警察じゃあないか。まあ落ち着きたまえ。署の方には私が連絡するから、君は、チョット外に出て、あいつらを捜してきてくれ」
「そ、そんなァ、川原さん。無理を言わないで下さいよ。あんな、いつも宛もなくぶらぶらしている書生っぽを、どうして僕が見つけられるんです? それに、民間人に協力をあおぐだなんて、警察として……」
「書生っぽなんぞと侮るなよ。あいつ、ああ見えて相当頭が切れるんだから。ははは、浅倉君、そんな顔をするな。民間人ったってなあ、あいつらは特別なんだよ。心配ないよ、君。何処にいたってね、彼らは事件の傍にいるんだ」
「はァ、そうですか……」
川原警部の乾いた笑いに、浅倉刑事は、なんだか腑に落ちないような、曖昧な返事をした。
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