第18話 いっそ思い出まで捨ててしまえたら

 いっそ寝られないなら用事をしよう。ぼくはおもむろに部屋を片付け始めた。これならどれだけ階下が騒がしくても気にならないし、没頭できる。テスト前になると急に片付けだしたくなる気持ちに似ていた。

 学習デスクの引き出しの引き出しを開けると、あらひどい。テスト対策のプリントや、賞をもらった人権作文なんかが、いまだに取ってあった。どうしてあのとき捨てなかったんだろう。最後にこの辺りを触ったのは、確か二十歳の頃だった。あのとき捨てたプリントって、どんな内容だったかなぁ。ああ、そうか、小学校の頃の学級通信とか、律儀に全部取ってあったのをまとめて捨てたんだ。


 引き出しをそっくりそのまま引き出してしまって、中をさらった。小さなメモや、クリップなんかが落ちてくる。ホチキスの芯が剥き出しで突っ込んであったのには笑った。変に神経質なところと大雑把なところが同居しているのがおかしい。押入れの中の衣類は何年か前に全部リサイクルショップに出したんだけど、その代わり、幼稚園の卒業証書だの、夏休みの宿題だの、歴代のあゆみだのが、母親の手によって突っ込まれていた。小学校のときに作った木工の作品なんかは、早く捨ててくれって感じなんだが、母親からするとそれすらも申し訳ないのかもしれない。黙々と不用品を袋に詰める。オセロとかのボードゲームは置いておいてもいいかな。千ピースのパズルは、一度も完成させなかったけど。きっともう足りないパーツばかりになってるんだから、捨ててしまおう。


 困ったのがコミックや雑誌だった。この辺りは完全に実家というスペースに甘えて捨てるつもりも全くなく、この年まで生きてきていた。サンタクロースがくれた伝記や偉人伝なんかは捨てるとして、ハマっていた少年漫画、好きな俳優のインタビューの載った映画雑誌。この辺りはいかんともしがたい。状態があまり良くないので、売りに出すのもためらわれるし、かといって、捨てるのも忍びない。いやいや、ここは心を鬼にして、雑誌の類はガンガン括ってまとめてしまった。今度の廃品回収で持って行ってもらおう。


 そうこうしているうちに、窓の外ではすっかり日が傾いていた。一階ももうずいぶん静かになったようだ。紐で束ねた雑誌を部屋から出すついでに、そっと階段を降りて行ってみた。

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