第81話 鋼のような

野外で全身を散々はたかれまくったのに、浴室の床には荒い粒の砂がいくつも転がって、ちょっとした川底のように見える。排水溝に向かって流れるラインはゆるやかな曲線状になっており、踏んづけると痛い。


丁寧に体をシャワーで流し、熱い湯船に体をつけると、自分の体がいかに冷えていたかに気づかされた。なんとも言えない疲労感、指先を動かすことすら気怠い。入水自殺を試みたと思われているぼくのために、脱衣所では吉澤が待機している。気まずさをごまかすためだろうか、ドア越しに

「湯加減はどう?」

と尋ねてくる彼女の声はやけに明るい。

「ちょっと熱いけど、ちょうどいいよ」

肩までつかった水の中で体を動かすと、せっかく体が慣れつつあった熱さがまた骨身にしみる。ぼくは湯船から頭だけを突き出してシャンプーをした。もこもこした泡は海水に濡れていた頭髪に触れるとあっという間にハリを失ってしまう。何度も注ぎ足してやっと満足のいく泡立ちを得られたぼくは、丁寧に頭皮に指を立てた。


こういう泡じゃ、なかったんだよな。


もっとハリがあって、そのくせ柔らかくて。


炭酸みたいに、しゅわしゅわ弾けながら、


全身をこう、包み込むような。


シャワーヘッドを手探りでたぐりよせ、勢いよく水を被った。押し寄せるような水圧に、泡がみるみる流されていく。丁寧に、何度も頭の上を往復させながら、シャンプーの泡を流した。洗い残しはハゲの原因になると聞いたので、それはもう丁寧に。

それでもどこからか転がり落ちる砂のしつこさについて思いを馳せながら、リンスを手に取った。ネットリとした感触、髪に馴染ませるとぬるぬると滑る。これでいつもの日常に戻れますように、きしむ髪の感触を思い出しながらそんなことを考えた。


手についたリンスを洗い流した後、ふと頬に触れると、痛い。下から撫でるように手を押し当てると、チクリと、えぐるような痛みが走る。なんだ、何かが、刺さっているような。何度か指で痛む箇所をさすると、指の腹に何かが当たった。慎重に指で挟み込むようにして、それを引き抜く。ずきっと、傷口のひろがる痛みを感じながら。


「なんだ、これ」


思わずそう呟いてしまうくらい、それは異質だった。紙よりも薄く、先は刃のように鋭く尖って、人差し指の腹の上でキラキラと輝いている。光の当たる角度によって、色は玉虫色に変色した。それはまるで青魚の鱗のような、


鱗?

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