第13話 魔女の森

二人は天界を抜けて地上へと降りて来た。

この地上の何処かにみちるの安住の地があるとでも言うのだろうか。

上空から降下しながらみちるはこの先の事を想像していた。


(これから追手に追われながらの逃避行が続くのかな…ロマンティックだけどしんどそう…)


しかしこのみちるの心配は杞憂だった。

天界側は天使長がレイチェルが側にいる事を条件に黙認していたし魔界側もギリュウがみちるを処分したと伝えていたから。

みちるがこれから大きな動きをしたりレイチェルがみちるを見放さない限り二人の安全は保証されていたのだ。

そう言う裏事情を全く知らないまま二人は決死の覚悟で事に及んでいた。


「ここだよ」


レイチェルはそう言ってある森へ降りていった。

その森は森全体が不思議な気配に満たされていて他の森とは全く雰囲気が違っていた。


「ここって?」


森を見渡しながらみちるはレイチェルに質問した。

森に漂う不可思議な気配はなるほどここなら魔物が出たって不思議じゃないと言う雰囲気だった。

この森で一生隠れて暮らすのかな…とそう言う考えがみちるの頭をよぎっていた。


「ここは魔女の森だよ」


レイチェルはみちるにこの森の説明をした。

彼がこんな場所を知っていたのも驚きだが、その場所へ自分を連れてきた理由もさっぱり分からなかった。


「魔女の森?この森に魔女がいるの?」


「そう、今からその魔女に会いに行くよ」


「え?ちょっ、まっ、えっ?」


レイチェルはみちるの戸惑いを無視して進み始めた。

みちるはまだ考えがまとまらないので進みながら質問を続ける事にした。


「どう言う事なの?」


「君に魔法を覚えて欲しいんだ」


どうやらレイチェルはみちるに魔法を覚えてもらいたいらしい。

しかしその言葉に引っかかりを覚えるみちる。

何故なら以前にレイチェルがこう言っていたのを思い出したからだ。


「だって前に適正がどうとかって」


「君にその適性がないなんて誰が言った?」


「えっ?あっ…?そう言えば…」


そうか、自分には魔法の才能もあるのか!と喜んだみちるだったが、その次のレイチェルの一言でまたすぐに現実に戻される事になった。


「まぁ君に魔法の適性があるとも言ってないけど」


それはまさにレイチェルらしい返しだった。


「魔法の適性は魔法使いじゃないと分からないよ」


レイチェルはそう言いながら振り返ってみちるの顔を見た。


「僕は君に形態変化の魔法を覚えてもらいたいんだ」


「その魔法って…」


「そう…それは姿を変える魔法…魔物から人間に戻れなくてもこれなら」


ここまで言えば鈍感なみちるにもレイチェルの言いたい事は分かる。

二人は声を合わせて導き出される答えをつぶやいていた。


「人として暮らせる!」


「そう言う事!」


みちるがレイチェルの意図を理解した頃、二人は森の中心部までやって来ていた。

そこには大きなきのこみたいな可愛らしい、それでいていかにもな家が建っていた。


「ここが魔法使いの住んでいる家なんだね」


その家を見ながら感心するみちる。


「何だかワクワクするね!」


レイチェルを見ながら期待に胸を膨らますみちる。

心は早く魔法を覚えたくてウズウズしているようだった。


「じゃあ話をしてくるからちょっと待ってて」


レイチェルはそう言うとその家の可愛らしいドアをノックしてそのまま家の中に入っていった。

中の様子はさっぱり分からなかったけれど大人しくみちるは外で彼を待つ事にした。

それから数分程も経っただろうか、レイチェルと見た目可愛らしいお嬢さんが一緒に家から出て来た。

多分その可愛らしい彼女が彼の言う魔女なのだろうとみちるは思った。


しかし想像していた魔女と違っていてみちるはちょっとがっかりしてしまった。

みちるの中の魔女のイメージは黒ずくめのおばあさんで鼻が長くていつも不敵な笑みを浮かべている…そんな絵本の中で語られる定番のあの悪役のイメージだったから。


「みちる、紹介するよ、こちらが魔女のマーリ-」


「え…あ…、は、初めまして…」


初めて見る魔女に戸惑いながら挨拶をするみちる。

ただ見た目が少女なのでどうにもそこに違和感しか覚えなかった。

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