三雲の目継ぎ―1年目

鷹山雲路

0章 序

時の道

 永い、永い時の中を歩いているような、そんな感覚だった。

 辺りには木々が鬱蒼と生い茂り、下草が生えている。木の根で凸凹した道なき道は、暗く、先を見透かすことができない。

 いつの間にか裸足になっている足は、痛みも温度も感じない。

 夢の中なのか。


 私の体は暗闇に吸い込まれるように、より奥へ、奥へと分け入っていく。

 何だろう。

 この光景、見たことがある――――――


――――――誰かが優しく話しかけてくれる。私の手を引く、柔らかな感触。

 小さな自分が見上げている。

 この人は――――母だ。


『いい、ねい。よく覚えておいてね。これが…………への道だから』


 とても心地のいい声。ずっと聞いていたい声。


『うん、ここを歩いていったらいいんだよね』


 笑顔で答えているのは……

 これが、私? 何て、幸せそうな顔……


『寧が…………繋がるからね』


 肝心な言葉が、聞こえない。


 違う。

 これは、心の中に深くしまいこんだ、何度も聞いた言葉だ。

 思い出さなきゃ……。できなければ、きっと私は……二度と、戻っては来られない。


 母の手を、ぎゅっと握り締める。


「お、母……さん。私、思い出したい」

『もし、忘れそうになったら……』


 母は屈んで、私の首に何かを掛ける。そして、その先に下がった曲線を描くものを、両の手のひらに乗せた。


『これを、そっと包みなさい』


 それは、深すぎるほどに濃く青く、光を帯びた石の勾玉。

 私はそれを、ゆっくりと両手に包んだ――――――


 途端、石から出た青い光が、太く鋭い剣となってまっすぐ私の胸を貫き通した。

 胸が、焼け付くように熱い。息が、できない。

 突き刺さった剣が溶けて流れ込み、熱は胸から体中を駆け巡る。そして上へ、上へと押し上げる抗いようのない力で、私の喉から飛び出した。

 私は、上空に向かって光を吐き出しながら、吼えるように叫んでいた。


十岐とき――――っ!」

「遅かったじゃないかい。でも、呼び捨ては禁物だよ」


 薄れていく意識の中、かすれた優しげな声を聞いた気がした。

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