第4話 クロウの秘密

目の前に現れた女神を名乗る猫は話を続ける。


月の魔女…ルーン、彼女は貴方をここに呼ぶために力を欲したのです

だから貴方の言葉なら彼女も聞いてくれるはず…

お願いです、どうか私達に協力してくれませんか?


女神様、それはっ!


良いのです…ゲイル、争いだけが解決ではありません


ゲイルの言葉を遮る女神…しかしオレはそんなやりとりはどうでも良かった。

あの魔女は地球からオレを呼ぶために魔女になった…?

オレのせいでこの月猫達はこんな目に遭った…?


一体どう言う事なんだ?


オレの質問に女神はゆっくりと口を開いた。


いいでしょう、貴方には知る権利、いえ、義務があります…


彼女は私に召喚された時からあなたをこちらに呼ぼうと考えていたのです

そうして貴方を呼び、そして貴方も人間の姿にさせ…

二人で月の世界で永遠に暮らそうと考えたのです…


女神は魔女がオレを呼んだ理由を語り始めた。

それは初めて聞く事ばかりで頭の理解がすぐには追いつかない事ばかりだった。

オレは話が終わるまで大人しく聞くつもりだったがつい女神に質問していた。


ちょっと待ってくれ!って言う事はオレは地球であの魔女に会っていた事になる

だが魔女はそんな事は一言も言わなかった…

それにオレにも全く身に覚えのない話だ


オレのこの矢継ぎはやの質問に女神は一呼吸置いて落ち着いた口調で話し始めた。


…それは当然なのです


えっ…


それは前世の話なのですから…


前世…。

オレは今の猫になる前の事は何も知らない。

オレの前世に一体何があったって言うんだ…。

あの魔女だけが前世の事を知っていた?


その話はどうやって…?


彼女自身が私に話してくれました…だから仕方がないのだと…

ルーンはクロウ…貴方を愛していた…けれど当時は一緒に過ごす事は出来なかった

その望みを叶えるために私の力が必要なのだと…


この言葉にオレは疑問を感じた。

それで思わずその疑問が口に出てしまった。


何で一緒になれなかったんだ?


猫は自由だ…一緒にいたいと言う想いがあって結ばれないだなんて…。

どちらかが、それとも両方が飼い猫だった?

飼い主の都合で一緒になれないのならそうなってしまうのも分からなくはない…。

そうオレが考えていると女神から衝撃的な一言が告げられた。


前世、あなたは人間だったのです

そして前世の彼女は貴方に飼われていた…だから一緒にはなれなかった


オレの前世は…人間だったのかよ…


オレの前世が人間…考えて見れば腑に落ちない事もなかった。

野良仲間からは人間みたいだと何度も言われたし、どうにも猫社会には上手く馴染めていなかったからだ。

しかし突然そう言われてもすぐに納得出来ると言う訳にも行かなかった。

だから、今はただ淡々と女神の話を聞くばかりだった。


貴方が人間だった頃は黒い鎧に身を包み黒騎士と呼ばれた腕利きの戦士だったそうよ

誰も寄せ付けない雰囲気があってそれで誰にも愛されなかった…

そんな貴方が戦場で拾った一匹の猫が彼女だった

貴方とルーンは仲睦まじく暮らしていたらしいわ


けれど所詮は人間と猫、いくら仲良くしていても結ばれる事はなく…やがて先に寿命を迎えた彼女は次は人間になって貴方と一緒に暮らす事を願って転生していった…


その想いが強くて前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのか…


そう言う事…だから貴方から彼女を説得して欲しいの


それで?オレが断ったら?


その時は仕方ないわ…でも出来れば私達がここにいる事は黙っていて欲しいの…


オレはしばらく考えた…このままこの猫たちをこんな洞窟にいつまでも閉じ込めていい訳がない。

やっぱり彼らは月の塔にいるべきだろう…。オレは意を決して女神に話しかけた。


説得って一体どうすれば…?


この質問に暗い顔だった女神の顔が明るくなった。


話を聞いてくれるのですね!


乗りかかった船だし…ここにいるみんなをこのままになんて出来ないよ


流石黒騎士クロウ!きっと協力してくれると思っていました!


女神は食い気味に身を乗り出して話を進め始めた。

ずっと前から計画を練っていたのかスラスラと話が進んでオレはまたしても理解するので精一杯だった。

話を聞く内に自分に課せられた責任が重圧となって心を重くするのが分かるようだった。


オレにそこまでの事、出来るかな…説得だって自信が持てないのに…


大丈夫です!あなたが動いてくれれば後はきっと何とかなります!


それは女神らしい根拠の無い自信の現れだろうか…。

ともかくこの言葉にオレは勇気をもらったのだった。

考えて見ればここまで重い責任を持ったのは初めてのような気がする。

けれどその重圧も達成出来た時には大きな喜びに変わる気がしていた。

大きな不安と大きな期待がオレ自身を突き動かしているのが分かるようだった。



(つづく)

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