第4話 無邪気な妖精さん。
「ちょ、おまっ! 俺の部屋に勝手に……」
「それはお兄ちゃんの方が先でしょ! 弁償!」
妹はお気に入りのポテチを食べられた事で興奮している。今は何を言っても聞く耳を持たないだろう。犯人が妖精だって言っても彼女には何も見えないんだし……。
話がややこしくなってもマズイと感じた拓也は、仕方なく自分で罪を被る事にする。
「分かったよ……トホホ」
観念した彼はそのポテチ代を妹に弁償した。本当は不本意だったけれど、更に部屋に勝手に入ったと言う濡れ衣の慰謝料を請求されなかっただけマシだと思う事にする。
「今度から勝手に部屋に入らないでね!」
妹はそう言い残すとさっさと自分の部屋に戻っていった。彼女とは元々そんなに仲は良くなかったけれど、更に距離が遠くなったな……そう感じる拓也だった。
「お帰り! 拓也おにーちゃん!」
拓也が自分の部屋に入ると、早速騒ぎの元凶が純真無垢な顔で出迎えてくれる。この笑顔で出迎えられるともう怒るに怒れない。
「お前なぁ……この部屋の物はまぁ好きにしてもいいけど、他の部屋の物は触るなよ……」
「ええっ! 僕悪い事しちゃったの? ごめんなさい……」
流石は妖精、素直。めっちゃ素直。その真っ直ぐな瞳は純粋で何もかも許してしまえそうな程だった。妹にもこんな時期があったのになぁ……。無邪気な妖精の姿を見ながら、拓也はほんの10年位前の彼女の姿を思い出していた。
きっともうその頃の純粋な妹は戻ってこない……。時間とは割りと残酷である。
「いや、うん……もうしないならそれでいいよ」
「許してくれる? ありがとう! おにーちゃん大好き!」
拓也に許された事で妖精は満面の笑みを浮かべた。彼に好かれるのは悪い気はしない。拓也はもうすっかり妖精に甘々になってしまっていた。
「そんなにあのポテチが気に入ったのなら、明日同じなの買ってくるよ!」
「ええっ! うれしい!」
素直で幼い笑顔は無敵だ。
けれどここでしっかりと釘もさしておかないと。大抵は何かを得る時はトレードオフがつきものなのだから。そう考えた彼は妖精に優しく注意する。
「その代わり! この部屋からは出ちゃダメだぞ!」
「うん!」
ずっと部屋に居ろって言うのは少し残酷な気もするけれど、これも余計なトラブルを避ける為。だからこれからは出来るだけこの妖精と一緒にいてやろうと拓也は考えた。
それからは妖精が淋しさを感じさせないようにと拓也は出来るだけ彼の話に付き合った。妖精もまた拓也との会話を楽しんでいるようだった。
こうして彼と妖精との楽しい日々が続いていく。家族はあの日から拓也があんまり部屋から出てこなくなってしまったので、変に思われて――と言う事もなく――何故なら拓也は元々インドア派だったから。
ただ、休日にもどこにも出かけないのは不思議だなと少し心配される程度だった。家族の中での拓也の立ち位置って――(汗)。
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