第3話 妖精はお菓子をお気に召しました。
拓也の許しを得た妖精はとても喜んで飛び切りの笑顔になってはしゃいでいた。そのせいなのか、気のせいか部屋がほんのりと暖かくなった気がする。ここで彼はまだ今日は暖房器具のスイッチを入れていなかった事に気が付いた。
その能力、さすが春風の妖精と言ったところだろうか。
「ところで君はお腹とか空くの?」
「食べても食べなくても大丈夫だよ」
妖精はそう言ったものの、少し寂しそうな顔をしていた。これはアレだ、何か食べたいってお約束のフリだな? そう思った拓也は彼にお菓子をすすめてみる事にした。
「お菓子でも食べる?」
「ええっ! いいのっ?」
妖精はその言葉にぱあっと笑顔になった。やっぱり子供だけあってお菓子は好きなのだろう。拓也はキョロキョロと周りを見渡して、部屋に転がっていたお菓子の袋からクッキーをひとつ妖精に与えた。
「へぇぇ……。これがクッキー……モグ……美味しい!!!」
(まぁ他にもポテチとかあるけど……一気に沢山食べさせるのもアレか……)
拓也は妖精が美味しそうにクッキーを食べる姿を見て、彼をすごく気に入った。この子ならずっと仲良く出来そうな、そんな気がするのだった。
姿も見えないし声も聞こえないなら、何も心配する事はないだろう。そう考えた彼は安心して妖精に部屋の留守を任せ、普段通りの生活をする事にした。
暇な時には話し相手にもなってくれるだろうし、いいかな。なんて、そんな簡単な気持ちで――。
「じゃあ、行ってくるけど、部屋で大人しくしていてね」
朝、学校に登校する為に出かける支度をしながら、そう言って拓也は部屋を出て行く。トラブルなんて起きないと、その時の彼はそう思っていた。
「おにーちゃん、私のお菓子食べたでしょ」
「はぁ?」
帰宅直後、学校帰りの兄を捕まえて妹が急に突っかかってきた。この怒りの理由について、拓也にはまるで身に覚えがない。自分が犯人じゃないとすれば――答えはすぐに導き出された。
しかし多分話しても理解されないだろうと彼は一計を案じる。
「知らないよ! 母さんでも勝手に部屋に入って食べたんじゃねーの?」
こう言う時はしらばっくれるに限る。母さん、ゴメン! 拓也は心の中で母親に謝った。
しかし、この彼の偽証はすぐに覆される事になった。妹は絶対の証拠を掴んでいたのだ。これを出されたら反論出来ないと言う絶対の証拠を。
「バカね! 証拠は上がってるのよ!」
「証拠?」
拓也は恐る恐る妹にその証拠を尋ねてみる。とは言え、自信満々な彼女の態度から、その根拠を覆せない予感はひしひしと感じていた。緊張感もあって、彼はゴクリとツバを飲み込んだ。
「お兄ちゃんの部屋に私のポテチの袋が転がっていたって言う動かない証拠がね!」
やられたっ! 物的証拠は何よりも雄弁ッ! 拓也にとって勝手に部屋に入られたのはショックではあったけれど、流石ににこれは言い逃れ不可避だった。
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