第2話 信じるしかないかなぁ…

「ど、どう言う事なのかなー……?」

「僕ね、今日があんまり暖かかったから春だと勘違いしちゃって外に出ちゃったんだ。でもまだ冬だったんだよね……。それで気がついたら季節の扉が閉まっちゃって、戻れなくなっちゃった」


 その子の話によると、季節の妖精はそれぞれその季節でしか活動出来なくて、それ以外の季節に現れる事は禁じられているらしい。

 ただ、季節外れの気候になると間違ってその扉が開く事もあって、つい外に出て来てしまった場合、その気候の内に戻らないと帰れなくなってしまうのだとか――。


(子供の癖に凝った設定を考えるなぁ……)


 と、拓也は思ったものの口には出さず、取り敢えず信じるふりをしながら今後の事を考える。まずは家族にこの事を伝えないといけないと思ったので、その子を連れてリビングへと向かう事にした。


「よし、じゃあ取り敢えずオニーサンの家族を紹介するよ! ついておいで!」

「うん! ありがとう♪」


 リビングではちょうど家族が全員集まっていた。拓也は父親か母親か、出来れば一人一人個別に会いたいと思っていたのでこの状況に戸惑ってしまう。家族全員が揃っている前で知らない子供をいきなり披露したら、どんな混乱が起こるか全く想像出来なかったからだ。

 しかしその心配は杞憂だった。何故ならば――。


「おっ! 拓也、この時間にこの部屋に来るなんて珍しいな」

「御飯はまだだよ。あ、また何かお菓子があると思ってきたんでしょ?」

「おにーちゃん、そこで黙って立ってるのちょっとウザいんだけど!」


 そう、父も、母も、妹までも、みんな拓也の側にいる子供に気付いていないようだったからだ。家族みんな彼が一人で突っ立っているものと認識している。

 つまりこれはこの子が拓也以外に見えていない事を意味していた。


(マジでか……)


 この状況に彼は言葉を失う。家族の反応を見て、このまま説明を始めるとやばいと感じた拓也は、そのまま何も言わずに自分の部屋に引き返す事にした。


「あいつ、何しに来たんだろうな?」

「お菓子なかったから部屋に戻ったんじゃない?」

「ま、どーでもいいし……」


 リビングに入ってすぐに部屋に引き返した彼に対しての家族の反応は散々だった。まさに家族の拓也に対するスタンスがよく分かるエピソードである。


「お前、本当に妖精なのかよ……」

「あ、信じてなかったんだ! ひどい!」


 部屋に戻った彼は軽く絶望していた。何故なら誰にも話せない秘密をひとつ抱えてしまったからだ。それから拓也は椅子に座って今後の事について考える。


「うーん、これからどうしたらいいかなぁ?」

「このまま外に出たら……冬の風に当たったら僕死んじゃう……」


 その話を聞いた彼は妖精の言いたい事を大体理解した。つまり、春までここに居させて欲しいと言う事なのだろう。自分でも物分かりはいい方だと拓也は自負していた。


「分かった分かった! 春までここに居たいんだろ?」

「いいの? やった!」

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