春風坊や 2017改稿版

にゃべ♪

第1話 よ、妖精?

 その日は冬なのに暖かかった。いわゆる小春日和ってやつだ。あんまり暖かかった事もあって拓也は部屋の窓を開けたまま昼寝を決め込んだ。


 うとうとし始めて1時間程経った頃だろうか、彼がふと目を覚ますと部屋の中に見慣れない小さな子供がいた。きっと寝ぼけているんだろうと判断した拓也はまたそのまま寝てしまう。連日の寝不足のせいでむっちゃ眠かったのだ。


 日が暮れかけた時、流石に寒くなった彼は本格的に目を覚ます。そして開けた窓を閉めて振り返った時、拓也は目を疑った。

 何故なら途中で目が覚めた時に目にしていたあの子供がまだそこにいたからだ。


(……え?)


 拓也は混乱した。

 心理面に20のダメージ。

 思考回路が働かない!

 拓也は麻痺している!


(あれ……夢じゃないの? この子はどこからこの部屋に?)


 子供は拓也が見ている事に気付くとにっこり笑って、またすぐに寂しそうな顔をした。ここで拓也は首をひねりながら考える。もしかしたら自分が寝ている間に親類の子供か何かが遊びに来ただけかも知れないと。

 勿論事前に拓也にそんな話があったと言う訳ではない。身に覚えがあるなら今こんなに混乱しているはずもない。


 彼の見たところ、その子は年の頃3~5歳のように見える。何となく声はかけ辛い雰囲気ではあったものの、何も状況が分からない以上、ここは勇気を出して声をかけるしかない。拓也は勇気を振り絞ってこの謎の男の子に質問する。


「えーと、ぼうやはどこの子かなぁ?」


 話しかけられたのが嬉しかったのか、その子の顔に笑顔が戻る。その顔はとても可愛かったけれど、その顔には全く見覚えがなかった。


(しかしこの子は一体誰なんだろう……)


 考えても考えても答えは見つからなかった。記憶を洗いざらいさらってみても、目の前の子供の顔は拓也の脳内検索に引っかからない。


「僕ね! 春風の妖精なの!」


 彼の頭にはてなマークが踊っている所に、突然男の子からのとんでもない答えが返って来た。自分を妖精だと言い張る男の子に拓也は混乱する。

 ただ、子供の話だし、ここで変に詮索するのもどうかなと考えた彼は、うまく情報を引き出す為にこの話に乗ってみる事にした。


「よ、妖精さんはどこからこの部屋に来たのかなー?」

「窓が開いていたから遊びに来たの!」


 自称妖精君はこれまたどストレートな返事を返して来た。拓哉の住むマンションの部屋は地上7階。普通に考えて窓から入ってこられる訳はない訳で……。とは言え、ここで常識を振りかざしてあからさまに話を否定する事で機嫌を損ねさせ、聞きたい事が聞けなくなってしまっては元も子もない。

 そう考えた彼は苦笑いを浮かべながら取り敢えず話を合わせる事にした。


「そ、そっか……じゃあそろそろ暗くなったから帰らないとね!」

「でもね、帰れなくなっちゃったんだ……」


 そう言うとその子はまた淋しそうな顔をしてうつむいてしまった。この結果に拓哉は困惑してしまう。この状況にどう対処していいか分からないまま、時間は無情に過ぎていった。

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