その26 幕間劇『魔女との対話』

「どうやら、長い狂言も一区切りつきそうデスね、“造物主”様」

「そうかね」

「これより、不肖ながらワタクシ、あの世へと旅立つ訳デスが……」

「そうだな」

「ずっと気になってたことが一つ」

「なにかね?」

「向こうって、シャワーとかあります?」

「あるよ」

「ベッドは?」

「用意してある」

「風呂トイレ別デス?」

「当然だ。君が望むものは大抵揃っている」

「良かった。安心しました。ワタシ、どうしてもあのユニットバスってモノには慣れなくて……」

「君は……」

「ハイ?」

「わざわざそんなことを訊くために、私を呼んだのか?」

「半分は。……でも、もう半分は、癖です。祈っていたんデスよ。アナタに」

「私に?」

「ええ。ワタシの……今後の人生の無事を。計画の成功を」

「冗談じゃない。全身全霊でもって邪魔をしてやる」

「嘘。アナタは“かんなり”に手を出すことはできない。自分でそう決めたから。この世の理を超えた存在のアナタでも、自分で決めたルールだけは破れない。そうでしょう?」

「……ふん」

「最期くらい、仲直りできればと思ったんデスけど」

「私は、君のことが嫌いだよ」

「ワタシは、アナタのことをお慕い申し上げております」

「……あっそう」

「うふふ。なんだかんだで、長い付き合いじゃないデスか」

「でもないぞ。もっと色々世話を焼いたりした奴は、他にもあった」

「例えば?」

「例えばだと? うーん。急に言われても、思いつかんが。……あ、アブラハムとか」

「……ああ。あの、空気の読めないオッサンですか?」

「空気……。その話、したっけ?」

「まえに、ギャグで一人息子を生け贄にしろって言ったら、マジで殺そうとしたアホがいたとかナントカ、そう言ってたじゃないデスか」

「フーム」

「アナタに友達が居ないことくらい、こちとらお見通しなんデス」

「だから……。なんだというのだ」

「アナタは結局、ワタシのような者を友達にせざるを得ないんデスよ。最初っから、そういう運命なんデス」

「……君には、孫悟空の話をしたことがあるか」

「ええ。暴れ者のマジック・モンキーでしょう?」

「奴は傲慢だった。今の君のように」

「……ソレデ?」

「私が、君のレベルに合わせて話をしていることが何故わからん。孫悟空も、ついぞ物事の本質を理解せず、私の手のひらの上を必死に飛び回っていた」

「……ふむ」

「いずれ君は、後悔することになるぞ。その物言いを」

「実力を行使する、と」

「私にすれば、そうするまでもないことさ」

「……」

「計画が頓挫するとわかれば、君も笑ってばかりはいられまい?」

「別に。……その時はその時デス」

「腹を切るか? 君の先祖の、サムライどもがしていたように」

「実家の宗派的に、自殺はちょっと……」

「なんだ、くだらん」

「くだらないことはないデスよ。大切なコトデス」

「……ふん」

「なんデス?」

「いや。すこし、な」

「んん?」

「生首のくせに、ようしゃべるな、と。…‥…そう思っただけだ」

「エエ、マア。でも、もうそろそろ死にますよ。そんな気がしマス」

「そうかね」

「あー、せっかく、忘れられそうだったのに。なんだか、意識しちゃいますね。でも、やっぱ死ぬのは嫌だなあ」

「うっせー。さっさと息絶えろ」

「うわー。なんか、気が遠くなってきた気がする。死ぬって、こういう感じなんデスね」

「知らん」

「意識が消滅して。……魂は“天球”へ」

「質問がないなら、もう帰ってもいいか?」

「あ、そこでふと気になったんデスけど、“魂”と“意識”、それと、“記憶”って、同一のものなんデスか? それとも、それぞれが…………」

「それはな……、ん」

「………………」


「ふん、よーやく眠ったか。この不敬者めが」

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