絶壁からの生還 その2

「おい、大丈夫か?」


 上の方から声が聞こえた、気がした。 こんな所に、人がいる訳ないじゃない。

「もう、どうやったって……、俺は…俺は…。 オレハ、オチテシヌンデスヨ」


「しっかり気を持て! 情けない奴だな、それでも男か?」


それは、女性の声だった。 え?女性?

声がした方を見ると、登山姿、いや自衛隊? テレビでよく見る救助隊の姿をした女性だ。


「気持ちは落ち着いたか? 頭が痛いのか? かなり蒼白のようだが」

「気分が悪い、っていうか。 こんな高い所にいるとは思ってなかったので」

 恥ずかしくって本当のことなんて言えるものか。


「そうか、それならいいが。 遭難者がいると、連絡が入って助けに来たんだが、気分はどうだ、動けそうか」

「ええ、なんとか」


これって、夢だよな。 今まで自分以外の人が出てくるってなかったなぁ……

なんか、人がいるとホッとするな。


「少し、話せるか? どうも気分を変えるようが良さそうだしな」

「そうですね。 自分でもなんでこんな所に来たのか、さっぱりわからなくて」


なんだろう、救助隊の男らしい服装なんだが、どこか色気を感じるな。

いかんいかん、やましい目で見たらいかん。 しかし、彼女の眼には不思議な魅力があるなぁ。

「どうした、私の顔をじっと見て。照れるじゃないか」 彼女の顔が近づいてきた。

「いや、眼が綺麗なだなぁ、って思って」 つい、目をそらしてしまった。


「そうなのか、そんなこと言われたのは初めてだ」 そう言いながら彼女は、レシーバーのような装置を取り出すといじり始めた。


「それって、なんですか」

「ああ、これか。 GPS探査装置だよ。 高度と位置を確認している訳さ」

「ああ、救助の為に連絡しないといけないから?」

「そうそう。それもあるが、二度と同じ場所で同じ事のないように、今後のためにも必要だからね」


その割には、頻繁に操作しているなぁ。 画面が見えたが、なんか色々打ち込んでる?


「おや? 思いのほか早く、お仲間が到着だそうだ。 なので、君がここに来た理由は中で聞くことにしよう」

「実はよく、思い出せないんですよね。 なんでここにいるのか自分でも」


 バラバラバラバラ  かなり大きな音が聞こえてくる。

音の方を向くと、自衛隊のヘリコプターだ。 思ってたより大きいんだなぁ。


そう思う間にも、彼女は俺の体にヘリコプターから投げられた救命胴衣を俺に着せていた。「どうだ、きつく感じるところはないか」

「ええ、大丈夫です」


なんか現実感が不意に湧いてきた。 これ、ほんとに夢の中なのか?


彼女はヘリコプターから降りてきたはしごに安全帯を装着すると、こっちへ来いと軽く合図する。 俺はそれに従った。 これからどうしたら?

「はしごを持てるか」 「ええ、なんとか」


「私が背負ってもいいんだが?」 そういうと、彼女のうなじが見えた。うわ、これはなんて魅力的なお誘い、っていかんいかん。


「あ~、それは嬉しいんですがやめておきます」

「なんか、今身の危険を感じたぞ。おまえ、変なこと考えたな」

「す、すみません」


「はしごをしっかり握ったならその後ろで私がサポートする、ほらしっかり掴まれ」


その後は、俺が彼女に抱きかかえられるような状態ではしごを上ってヘリコプターに乗り移った。


いい匂いのする女性救助隊員だなぁ、なんて思いながら。



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