Third day

暴走バスから帰還せよ (3/10改稿)

ぐるぐると目が回る感覚。 「ぐぇっ 気分わるっ」 ふっと、意識が戻り、目の前が明るくなった。 え? なに、ここ?


 バスの中だった。 えーっと誰もいない?! う~なんか、変な感覚がある。


外の景色を見ると、高速道路を走っているようだ。 前後に車が見える。


前を見ると トラックだろうか、どんどん近づいてる!! ええっ 加速してるのか。


「運転手さん!! 危ないって!」


急いで運転席へ向かう。 見ると誰もいない。 え?! 誰もいない? 馬鹿な!


 ハンドルは、ゆっくりと動いている。 まるで透明人間がそこで運転しているかのように。 冷や汗が出た。なんなんだ、これは。


やばい、やばいよ。 と思う間にバスはトラックの後ろに接近してる。 うわ、ぶつかる!


キキキキィッッ   車間を取ろうとしたのか急ブレーキがかかった。

俺は前面ガラスに体ごとぶつかった。体がきしむ。 左腰が痛い。


「いってぇぇぇ」


 いきなり頭に響いてきた。『暴走バスから無事に帰還せよ』


「ほほう、今度はそう来たか。 楽しませてくれるねぇ」


 最近見る夢はなんだかリアル感がある。しかし、思いの外、だと、感じ始めている。 夢にしちゃ違和感ありまくりだよ。

 

 自分の体をよく見ると、首の部分に金属製の首輪がついていた。

「これも、気にはなるんだよな」


バスは、車間を保って走り続けている。 よく見ると高速道路を走っているようだ。


と、バスはいきなり車線変更を始めた。 って おいおいおい。


 目の前に、工事中という看板にバリケードが見えたと思ったら、バスが突っ込んだ。


ガシャァンッッ  ドドドドドドッ 


 バリケードが抵抗するかのように立ちふさがったように見えたが、あっさり壊れたようで、バスは悠然と加速を続ける。


「おいこら運営、バレてんぞ、出てこいやぁ」 叫びも虚しくバス内に響くだけ。 今はバスを止めることを考えるのが先だ そう思ったら体が動いていた。


 俺、自動車運転したことないんだっての。こんなことになるんなら、運転免許取っておくんだったなぁ。


 まずは、運転席に座って。 えーっと、どうなってんだ? どうやらいいんだよ。

前方を見てみると緩やかな下り坂を走ってるな。


車ってブレーキとアクセルがあるんだっけ? う~ん、車に興味なかったからどれがどれやら。


「えい、ままよ」 右足に感じていたペダルを、思うまま強く踏み込んでいた。


途端に急加速を始めるバス。 「うあぁぁ」


目の前の景色があれよあれよと変わっていく。 右足をずらしてペダルらしきものから離した。

 バスってこんなに加速するもんなの? ドキドキしつつも前を見る。


道が右にカーブしてるじゃねえか。 右足を離しつつ、ハンドルを気持ち右時計回りに動かす。 バスがカーブに合わせて移動する。こんな少し動かしただけで?

 

 「おもしれ~」


 左足がブレーキかな? あれ、なんか忘れてる気がするな。


落ち着いてきた所で、右足側にペダルがふたつ、左足側にペダルが一つあるのを確認する。えっと、右足の右がアクセルで、右足左がブレーキなのか、なんて拙い記憶を頼りに必死になって思いだそうと試みるも……、あちゃぁ。


バスの走り続けるその左カーブの先、道が切れてるよ。 うわぁ、止まれ止まれ!! 右足のブレーキを強く踏み込む。


あれ? おかしいな? さっきは減速したのに!


道のその先、注意して見てみる。その下はどうなってる?


ゴツゴツした岩場だよ。 まてまて、Uターン、Uターン。 道右側ギリギリまで寄って、ハンドル切って。 ブレーキ、ときて不意に単語が浮かんだ。


エンジンブレーキだぁ。 そうだぁ。 ってどうやんだ?


急に目の前に、喫茶店で車好きの友人とだべっていた風景が浮かんできた。


「車ってさ、乗用車も大型車も基本操作は変わらないんだよね。 左手の所には、変速用ギア、そのすぐ右はサイドブレーキってなっててさ」


「バスとかの場合、エンジンブレ-キっていうのは、ギアを一段下げてからサイドブレーキを引くか、そのそばにあるブレーキボタンてのを押すんだって。」


左手の方をチラと見る。このRやら数字の並んでるのがギアっぽいな。そうするとその右のやつがそうか?


もうやけだ、と思う間にとにかくサイドブレーキを引いていた。 ブシューッ


お、減速してる?! おおおお、これでUターンだ。 左にハンドルを!


速度計とおぼしきメーターをみると100、90、70、と徐々に針が下がっていく。


よしよっし、曲がれそう、っと思った時、バスの走る音がゴツゴツという音に変わった。 目の前の道がだんだん荒いコンクリートになってきたようだ。


もう、道が終わるやばい。 道が切れた先、だんだん下の方が見えてくる。


「うわぁぁ」 こなくそぉ。 ハンドルを左に必死で回した。


バスは、減速しながらも左に曲がろうと動いている。 体が大きく右に向く。


「キキキキィッッ」


 運転席から投げ出されそうになるもハンドルに必死にしがみつく。

そして……


「ブシューッ、シューーー」  



「はぁ、はぁ、はぁっ」  


お、俺生きてんの?


右を見るとその下には岩場が見え、バスがギリギリの所で止まっていた。


***


「被験者No000125、バスを止めました」


「的確な判断力です。 こちらの報告書からはこの行動は予想がつきませんでした」


「例の機械からの生体情報はどうなっている?」


「エンジンブレーキをかける直前、脳の記憶域から強β反応が出ているようですが…… なにがあったのかまでは判断つきません」


「記憶域か、我々が知りたいドリームメモリーズ夢の記憶となんらかの関連がありそうだな」


「調査続行します」


「うむ。 至急、被験者保護の上、施設へ移動の事。 バスや破損箇所などの事後処理は、専門部隊に一任してよし」

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