00.

 健にはそこがどこなのか分からなかった。どこかの部屋のようにもみえるがそこはとても薄暗く、光が入って来る唯一の窓もとても小さく天井も健が立っていると頭が付きそうになるほど低かった。とても殺風景で物はほとんど何もなさそうだったがそこに人がいるのは分かった。その人物がいるところに折りたたみ式のままごとのような机が一つあった。そこにいる人物は半袖のワイシャツに黒いスラックスを穿いて恐らく健と同じくらいの年齢だろうということが分かった。その人物はゆっくりと健の方を振り向いた。その顔はやつれており、表情はとても暗く絶望に満ちていた。健の見たことのない顔だった。健は冷静に恐らくはその顔も元々そうだったわけではないのではないかと思っていた。何かよほどの辛いことがあってそうなってしまったのではないか。そう考えるとその人物を放っておけないような気もした。やがてその人物は健のことを物凄い形相で睨んできた。

「憎い…憎いよ…羨ましい…羨ましいよ…。どうして…僕だけ…こんな目に…。」

健はその人物が何を言っているのかよく分からなかった。なぜだか自分はその人物に羨まれている。なぜだろうか。

「僕は間違ってなんかいない…間違ってなんかいない…。今更…気付いてくれなんて言わない…。」

「ごめん…。」

健はなぜだか謝っていた。理由は自分にも分からない。

「羨ましい…羨ましいよ。」

「君は…何をして欲しいんだ?」

健はなぜかその人物に手を差し伸べなければならない気がした。

するとその人物は健を睨むのをやめ、下を向いて黙り込んでしまった。しばらくの沈黙が続く。

「………気付いて欲しい。」

その人物はぽつりとそう言った。

「君は…誰だ?」

健がそう言うとその人物は再び顔を上げ、健の方を見てきた。健の胸はざわついていた。この人物を助けたい。多分何か助けを求めている。

「俺は何をしたらいい?」

しかしもうその人物は答えなかった。ただ寂しげな表情で健のことを見つめているだけだ。

「健!急げ!」

誰かが呼んでいる。その声は後方の小さなドアの方からしているようだった。

「そうだ…行かなきゃ。待ってるんだ。大切な人が。」

その人物はとても淋しそうな表情を浮かべていた。

「ごめん…今は行かなきゃ…。」

健は声のしたドアの方へ行き、そのドアから出て行った。

 一体あれは誰だったのだろうか。一体あの人物は健に何を求めていたのだろうか。そしてなぜ、健の目の前に現れたのだろうか。恐らく健はもうこの人物とも会うことはないだろうし、関わることもないのだろう。

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